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脳しか無い俺はレモンクラッシュな現実を見る 【第二話 アウラな青春 完結】  作者: 恵京玖
【第一話】戦争が終わったのに電脳疎開している少女を現実に戻せ!
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なんで電脳疎開から出さなかったのか?


『トウマ!』


 音が鳴った所を見るとトウマの液体猫のアバターが半分しかなくなり水たまりになってしまった。そしてハルキのアバターである百合が千切れて落ちていた。

 黒いウィンドウが出てきて【すいません。チアキにバレました】と綴っていた。


 一刻も早くハルキとトウマに駆け寄りたいと思ったが、その場にいるアバターの前にして動くことが出来なかった。


『初めまして』


 金髪の長髪に狐の耳、真っ白な着物を着た中性的な顔立ちのアバターが壊れたトウマ達のアバターに見向きもせずに俺の方へ目を向けた。


『私はチアキと申します。ベルの広報担当であり、コナツの姉です』


 そう言ってお辞儀をする。トウマ曰く、チアキのアバターの瞳は電脳空間になり、角度によって瞳の色が違ってくる。だが今、俺を見据えるアバターの目は真っ赤になっていた。

 だが俺には自己紹介をしただけで、チアキはすぐに千切れた花クラゲを見下ろした。


『ハル兄。こそこそと何しているかと思えば、ならず者を先導して電脳疎開からコナツを出していたなんて。しかもコナツの身体の場所も見つかってしまったし』

【なんで僕のアバターを壊す方法を知っているんだよ!】

『私だってハル兄がいない間、先生を付けて電脳空間の勉強したのよ。あなたがいない間は私がベルの仕事をしないといけなかったから』


 その時、『ユウゴ』と足元から弱弱しい声が聞こえてきた。

 這うように液体猫の水たまりが俺の足元までやってきた。レモンクラッシュのアバターにして俺は手を伸ばすと、トウマは黄色いジャケットのアバターになった。随分と生地が薄い気がするけど。ジャケットを身に着けるとトウマさは早速、悪態をついた。


『クッソ! あいつ! 僕の液体猫のアバターをぶち破りやがって!』

『チアキはどうやって突然現れたんだ? そしてどうしてトウマとハルキのアバターは壊れたんだ?』


 説明を求めたがプライドの高いトウマは『クソおおおお!』と怒り狂っている。


 やがてハルキはチアキに向かって【チアキ、コナツを現実に戻してやれ】とメッセージを出した。それを見てチアキは吐き捨てるように言った。


『戦時中の事を覚えていないくせに』


 チアキが身に着けている妖狐のアバターは貴族的のような微笑を浮かべているが、腸が煮えくり返っていると分かるくらい声が怖かった。

 俺達がチアキにビビっているが、ハルキはそれでもメッセージを出した。


【コナツは俺と違って長時間、電脳の中にいると健康に害してしまう】

『何度も説明したでしょ! 疎開空間は余計な情報が入らない構造になっているから大丈夫だって。むしろ出す方がヤバいの!』


 ハルキは言っていたが、想像以上にチアキは大反対している。


【コナツは出たがっている。現実に戻そう】

『だから……』


 チアキが何か言う前にコナツが『お姉ちゃん』と声をかけた。それでチアキはコナツがいる事にようやく気付いて『コナツ』と呼びかけた。


『もう大丈夫だよ、コナツ。電脳疎開空間の中に戻すから』

『ちょっと、待って! チアキお姉ちゃん!』

『ちょっと待ってください』


 俺達が会話に参加してきたので、チアキはそっと俺達の方に目を向けて『お名前は』と不愉快そうな声で聞いていた。俺は『ユウゴです』と名乗って質問をする。


『もう戦争は終わっています。出さないんですか?』

『ええ、戻しません』


 俺もコナツもトウマさえも戸惑った。もう戦争は終わっているという認識だったはずだ。


『国はもう他国から攻撃を受ける事はないと言っていますが、国内には武装機体兵がいて未だに危険です。そんな場所にコナツを返したくありません。それにトキオも首都に戻っていないですし』

『すいません。お言葉ですが、武装機体兵はもう現実社会で普通に働いていますし、そいつらが今すぐ居なくなるのは難しいと思います』


 狐を擬人化された美しいアバターが俺達をじっと見た。怒りや悲しみが表現できない電脳空間なので、チアキのアバターはほほ笑んでいるが怒り狂っているだろう。

 チアキは『ユウゴさん、武装機体兵はご存じで?』に向かって聞いてきたが、俺が答える前に矢継ぎ早にどんどん聞いてきた。


『彼らをどう思いますか? 戦争の英雄と思いますか? それとも未熟な破壊者と思いますか?』


 どう考えても後者だ。あいつらが居なければ戦争は勝てなかったという人間は多い。戦後で生きると言うには常識が無く精神面が未熟すぎる。

 それなのに彼らは人よりも能力が優れている。大半の事件は武装機体兵が関係している一方で、働き手が武装機体兵じゃないと無理と言う人間は多い。人間が生み出した現実社会の異物であり、今までいなかった生き物だ。居なかった時代の方が良かったかもしれない。

 でも、それでも……。


『俺は脳しかない状況です。そのため、現実世界については武装機体兵やその保護者を介して見たり聞いたりしています。武装機体兵達は確かに戦争の英雄と手放しで称賛する者ではないです。実年齢一桁の子で精神面は幼い。それゆえに暴力行為や犯罪なども多いです。そして彼らの登場で普通の人の働く場所を失ってしまった。そういう社会問題も多いです』


 客観的に言ったところで、俺は『でも』と言う。


『月並みですが、彼らをすべて悪と考えるのはどうかと思います。確かに問題があるんですが、全員がそうかって言われると違う気がします』


 ナズナとフキノとアンズ、駅周辺や物流センター、様々なところで働く奴ら。日々、働いて仲間と遊んで、他の人間と変わらない気もした。やんちゃで傍若無人な奴らだが、完全に悪者と言えない。あいつらを悪く言いたくないのだ。

 チアキは目をつぶって俺の話を黙って聞いた。話が終わると『はっきり言って私情ですが』と断りを入れて話し出した。


『父とコナツの母はトキオ大空襲で亡くなりました。兄は行方不明の状態だったので、私は一人になってしまい生みの親である、父と離婚したお母さんの元に行きました。時々、会っていましたが戦時中の方がずっと会話とかしていたと思います。私が父と義母を失い自分だけ生きている事が辛くなり、ベルの仕事もほとんどできない状況でした。そんな時、母はずっと励ましてくれました。戦争が終わってもお母さんと一緒に暮らそうって考えていました』


 チアキは遠い目をして『でも戦後に……』と言って口を閉ざした。よっぽど恐ろしい物を見たのだろう、うつむいて震えている。


『政府や軍が何にもせずに武装機体兵を解き放って、すぐ私たちが住む場所で破壊行動を起こしました。家々を燃やして、人を殺し……お母さんは……あいつに殺されて亡くなりました。そこで仲良くしていた人たちも多く亡くなりました。彼らがどうしてこんなことをしたのか、原因も理由はわかりません。もう処分されているし、知りたくないですね。それよりもたった一人で大量の人を虐殺出来る能力を持っている者が数多くいて、普通に溶け込んで働いて生きている事がおぞましくてならない! もう戦争は終わったかもしれないけど、私にとってまだ続いているの!』

『チアキお姉ちゃん、私が電脳の技術がないから出さないからじゃないの?』

『そんなわけないじゃない! コナツは大切な家族だもの。優しくて家族思いのコナツは死んでほしくないし、恐ろしい物を見て心身ともに傷ついてほしくない。だから武装機体兵なんて人々の話しをしなかった』

『チアキお姉ちゃん』

『だから、だから、こんな現実世界に戻したくないの! こんな恐ろしい世界に……。ここにいて、コナツ』


 チアキはもはや俺達に話していなかった。コナツの方を向いてしがみついて懇願していた。本当に恐ろしい目にあったのだろう。アバターには涙の表現はないが、現実だったら泣いていると思った。

 武装機体兵に対してチアキは恨みしかなく、排除すべき存在としか思えないのだろう。俺はあいつらのする事なす事をドン引きしたり文句を言いつつも結局は武装機体兵の方を見ていた。でも被害者側からしてみたら武装機体兵は異質で脅威でしかなく、共存なんて無理なんだ。彼女にとってまだ戦争が続いている。


『……でもチアキお姉ちゃん。私は……』


 コナツは出たいという言葉を飲み込んでしまった。それくらいチアキの言葉は鬼気迫るものがあった。

 そしてチアキは『お願いだから、現実世界に帰らないで』と懇願する。どうする事も出来ず、俺はただただ二人を見ているだけだった。

 そして花クラゲのハルキも何も言って言わず、見ているだけだった。何を考えているのだろうか? そう思っている時だった。


プルルルル、プルルルル。


 場を思いっきり崩す着信音が聞こえてきた。俺のだ。


『……すいません。俺のです。出ても大丈夫ですか?』


 チアキは頷いて、コナツは不安そうに俺を見ている。申し訳ないと思いつつも、相手を見ると武装機体兵のナズナからだった。ちょっと震えた声で「ユウゴさん」と言うので心配した。


「今、どういう状況ですか?」

『……コナツさんを電脳空間から絶対出さない派であるチアキさんに見つかって、現実から出れない状況』


 俺がそう言うと「そうですか。だったら、ユウゴさん」とナズナは衝撃的な言葉を吐く。


「コナツさんの身体を人質にしますか?」


 おい! せっかくお前たちのフォローしたのに、それを一瞬にして無に帰す提案をだすな!




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