電脳疎開空間へ
視覚と聴覚のリンクを切って、リュウドウのプライベート空間に戻るとトウマとコナツが待っていた。そしてナズナとトウマが繋げた電脳疎開の空間に向かうウィンドウがあった。
『あの、ナズナさん達は?』
『訳の分からないロボットと対戦中。ここは私達に任せて、電脳疎開に戻ってと』
なんかやせ我慢しているような感じもあって、不安しかない。でも俺達がやるべきことは一つだ。
『そろそろ電脳疎開に行こう』
『はい』
コナツはそっと電脳疎開のウィンドウに触れた。
ちょっと脳が揺れる感覚がしたと思った瞬間、木目調の建物が見えた。周囲は木々が生い茂り、遠くで鳥が鳴いている。空は晴れていて雲も一つもない。
少々ディフォルメはされているもの、作りは細かいなと思った。
コナツはちょっとうんざりした感じで『ここが電脳疎開です』と言った。
『体験版より進化しているね?』
『あれはベータ版でしたから』
俺達の会話をよそにコナツさんがウィンドウを開こうとしたが開かなかった。ここに来れば開けるはずと思ったが……。
『バグっているのか?』
『そうかもしれません。でも自室の部屋の机に座れば自動的にウィンドウが出る仕組みなのでいってみます』
ひとまず、そこまで歩いて行くか。
コナツさんが先導する形となって俺達は建物に向かった。歩いてすぐ分かったが、この空間ほとんど変化がない。数種類の同じ木々をコピペしているし、鳥の鳴き声はするが鳥の姿は見えないし、空はずっと晴れているままだ。コナツさんの体がある場所は自然豊かなのに、ここはひどく不自然な感じで妙に皮肉めいている。
俺はトウマに話しかけた。
『つまらない空間だな。おんなじ所をずっと歩いてる感じ』
『多分、こういう空間が脳にストレスを与えなかったんだよ。同じものがあると認識すれば、余計な情報が入ってこないから』
『なるほど』
コナツさんは一切喋らず黙々と歩く。俺はひどく退屈な気持ちで歩いていると、ようやく着いた。建物は体験版で言っていた林間学校って感じだった。
俺は見上げながら『デカい建物だな』と言った。
『そんなことないですよ』
『だけど体験版では結構いろんな部屋があるって言っていたような……』
俺の話を遮るようにコナツは建物の扉を開けた。確か玄関があったはずだったが、すぐに自分の部屋になっていた。
『AIの友人のバリエーションのない会話を八年も聞いたり返したりするのは飽きたし、いちいち別の部屋まで歩くのも面倒だなって思ってワープ出来るようにしているんです。ちょっと薄情ですかね』
『いや別に。ゲームでもそうだよな』
『この空間、八年以上いたら苦痛でしたけど、いざ出て行くとなると寂しい感じです』
部屋の中を見渡した後、コナツは机の所にあるイスに座った。するとすぐにウィンドウが出てきた。
ペットボトルに収まっていたトウマが出てきた。
『あ、トウマさん。ずっとそばにいてくれてありがとう』
トウマに気が付いたコナツさんはしゃがんで頭を撫でる。
あれ? トウマの液体猫の尻尾の先、やっぱり白っぽい物がある。前にも見たけど、これの液体猫の仕様なのだろうか?
『現実世界に帰ったら、絶対にお礼をします』
コナツがそう言うと立ち上がってウィンドウを前に立った。
その時、パンっと風船が割れた音がした。




