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脳しか無い俺はレモンクラッシュな現実を見る 【第二話 アウラな青春 完結】  作者: 恵京玖
【第一話】戦争が終わったのに電脳疎開している少女を現実に戻せ!
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どんな地獄が待っていたとしても


「ユウゴさん、もうすぐ着きます」


 ナズナは電話でそう言うので、俺はドライブレコーダーの映像を見る。

 鬱蒼とした林にガタガタ道が続くが、ちょっとした売店と充電ステーションが見えてきた。売店はすでに閉店していたが、大分巨大な風力発電塔がある充電ステーションは動いている。フキノはそこに車を停めて、ドローン機器と車の充電を始めた。


「ねえ! 車を降りようぜ」


 いつの間にかアンズは起きて、車から飛び出した。それをナズナは歩いて追いかけてフキノもそちらに行く。三人は林が開けた場所に立ち止まった。


「すごーい。綺麗」

「ヤッホー。あれ? やまびこが聞こえないぞ」

「なあ、登ろうぜ!」


 三人の感想を聞きながら、ナズナの視覚と聴覚をリンクする。

 見た瞬間、山から吹く涼しい風が俺の顔にかかった気がした。空を突き刺すような切り立った山をはじめ、それに続こうとする山々。木々に覆われているが頂上に行くにつれ、灰色の崖が見え、雄々しい。そして雄大な山々をトンビ達が飛んでいる。

 雄大な景色に圧倒されているのは武装機体兵だけではなかった。トウマとコナツが『すごい』『綺麗だね』と言う声が聞こえて、感動している。

 ナズナとフキノは近くのベンチに座って、アンズはそこら辺を走り回っている。なんだか、のんびりとした雰囲気だった。


「ねえ! 登ろうぜ! あの山」

「アンズ、私達はコナツさんの体を探しに来たんだから登らないで」

「……コナツって誰?」


 きょとんとした顔でアンズはナズナを見る。ナズナは「もう」と言いながら、説明した。一方、フキノは大きく伸びをして景色を見ていた。


「ふうん。電脳の中に疎開中のコナツって子の体を探すんだね」

「その施設が近くにあるらしいの。山の休憩所って感じらしい」

「ドローン機器の充電が終わったら、俺がそこら辺を操縦して観察するよ」

「えー、このまま行こうよ」

「ダメ。見張りの人間がいるかもしれないし。それに……」


 ナズナはちょっと言いづらそうに「お尻が痛い」と言った。


「道がガタガタだったんだもの。振動でお尻が痛い……」

「あははは! 軟弱だ!」


 アンズは大爆笑し、ナズナはプイッとそっぽを向いた。


『ねえ、ユウゴ。コナツがナズナ達と話したいことがあるって』


 トウマがそう言ったので通話をコナツに移してあげ、ナズナは端末をビデオ通話にして、三人が見えるような位置にした。


『えーっと、この度は私のためにありがとうございます』

「まだ早いですよ。コナツさんの体は見つけていないんですから」

『いえ、いろいろ調べて、こんな遠くまで来てくださって……』


 すっかりと恐縮しているコナツ。こいつら実年齢一桁なんだけど、ナズナの方が大人っぽい。でもコナツも現実にいる他人と喋るのは久しぶりだから緊張しているのかもしれなが、それでも普通の人間じゃなくて、武装機体兵に怖がる人は多いが恐縮する人間って珍しい。

 ニコニコとコナツの話しを聞いていたナズナが突然、「ねえ、コナツさん」と呼びかけた。


「外に出たいですか? どんな地獄が待っていたとしても」

『どういう事ですか?』

「だから、現実と大きく変わっているって事だよ。お嬢さん」 


 そう言ってアンズはうなじを見せた。そこにはプラスチックのような物が埋め込まれて、それはカバーのようになっていた。パカッと開けるとプラグの差込口がある。


「こんな人造人間が大量にいるんだぜ? ぶっちゃけ言うけど素手で人間を殺せるし、自分らはかなり嫌われている。まあお金持ちだから関係ないだろうけど」

「嫌味な事を言わないの、アンズ。でもコナツさん、トキオは壊滅してますし、元には戻らないでしょう。戦前とは全く違う世界になっています。それでも帰りますか」


 ナズナの問いかけに、コナツは『当たり前です』と言った。


『帰りたいです。なんで出さないか分からないですけど。電脳空間の方がいいってお兄さんもお姉ちゃんも思っているかもしれませんし、私が電脳空間の技術が劣っているから、出さないのかもしれません。でも私は声やメッセージよりも、家族に会いたいです。現実に帰りたいです、絶対』

「そうですか」


 コナツの振り絞るような決意を噛みしめているように頷いてナズナは口を開いた。


「それは何かを失っても?」

『え?』

「だから現実を出た瞬間、何かを失うかもしれないと言っているんです」

『……、それでも出たいです』


 ナズナはゆっくりと「わかりました」と言った。

 その時、フキノが自分の腕をペチンと叩いた。


「あー! 蚊に刺された! クッソー、かゆい!」


 そう絶叫しながら刺された腕を搔き始めた。

 え? 武装機体兵って蚊に刺されるんだ。俺が驚いているとナズナは怒り出した。


「もう! 今、コナツさんと大事な話をしているんだよ! フキノ、我慢して!」

「我慢できねえよ」

「掻いたらひどくなるよ! 車の中に虫刺されの薬があるから塗ってきて」

「しみるやつ? 俺、しみるの嫌!」


 わがままを言いつつ、フキノは車の方に走って行った。集中力と言うか緊張感がないと言うか、マイペースな奴である。

 それを大笑いしてアンズは見ていて、ナズナはため息をついた。


「もう、何を話したか忘れちゃったよ……。えーっと、とにかくコナツさん、もしかしたらいろんな妨害があるかもしれません。でも自分たちは出来る限り、コナツさんの体を見つけたいと思います」


 そう言ってナズナは頭を下げて「よろしくお願いいたします」と言った。なんだか、これから戦地に向かうような口ぶりで戸惑う。

 コナツもそのようで戸惑った様子で『え? あ、よろしくお願いします』と言った。

 フキノが帰ってきた時、コナツさんとの通話が終わっていた。


「あ、コナツさんとのビデオ通話は終わったか」

『終わったよ。とっくに』

「はあ、虫刺されの薬、しみるやつで最悪だったよ」


 うんざりした感じでいうフキノに怖いが勇気を振り絞ってある事を聞いてみた。


『お前ら、武装機体兵って蚊に刺されるの?』

「うん、最近刺されるようになった」


 普通にフキノが答えているけど、恐ろしい事って気づいていないのか? こいつ!


『あれ? 武装機体兵って肌も強いはずだと思っていたけど』

「えー、蚊が進化したんじゃない?」


 いやいや、ちょっとは驚けよ! 恐れろよ! ここ数年で蚊が進化しているって! 


 それにしても逞しいな。さすが人間より昔から地球に生き物だ。順応性の速さに平伏してしまう。こうなると人間が滅んでも、こいつらは普通に生きているんだろうなとも思った。





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