コナツに状況報告
目的の施設までまだまだ遠いので、最近届いた長時間電脳空間に入るための機械が届いた情報が確かなのか確認しようと思った。
一度、リュウドウの空間に戻った。
『あ、お帰りなさい』
コナツはちょっとソワソワした感じで俺に話しかけた。
『私の身体、移動されているみたいですね』
コナツさんはちょっと落ち込んだ顔になったが、すぐに笑顔になって『でも前進してますね!』と言った。
『でもどうしてこちらに戻られたんですか?』
『取り寄せた機器を調べようと思ったんだ。トウマ!』
机の上に丸まっていたトウマは耳をピクッと動かし、ぐっと立ち上がって伸びをした。
『猫の仕草がうまいですよね、トウマさん。本当に人間だったんですか?』
『本人曰く、人間らしいよ。でも俺も疑っている』
トウマはスタスタと歩いて俺を通り過ぎ、さっさと行こうぜって顔で振り向いた。
『じゃあ、俺達行ってくるね』
『一張羅に着替えろ』
『えー、またレモンクラッシュになるの?』
『当たり前だろ』
トウマはさっさとレモンクラッシュになれとばかりに俺の足元をクルクルと回り、フワッとしたトウマの尻尾がペシペシとペットボトルのアバターのカートゥーン風の足を叩いて急かす。恥ずかしいんだよなあと思いつつレモンクラッシュのアバターになると、すぐさまトウマはジャケットになって装着した。
『何を調べるんだ?』
『倉庫に届く予定だった品が電脳関係の物だったらしい。それを調べようと思って』
まずは長期間、電脳空間に入る機器を調べて見ると、すぐに見つかった。
『あ、医療機器なんだ。作っている場所は、……アクアリウム・クオリア』
『まあ、そりゃあ、そうだろうな。僕達はずっと電脳空間に入っているんだから』
トウマの言う通り、俺達はかれこれ一か月間以上電脳の中にいる。恐らくこの機械だって使っているはずだ。それにしてもアクアリウム・クオリアってこういうのも作っているんだ。
次に運送会社の発送情報を調べた。
『うん、確かに。この機器をトキオ・ランドの倉庫に届くはずだったみたいだね』
『じゃあ、工事している兄ちゃんの情報は正しかったか』
だといたら、使われていない山奥の施設でこの機器は何に使うんだろうか?
トウマは『これで見つかりそう?』と尋ねてきた。
『多分。これで違っていたら最初からやり直しだろうけど』
『早く出してあげないと、コナツがヤバいかもしれない』
いつにもなくトウマが真剣な感じで語った。
『電脳疎開の空間がどうなっているか分からないけど、コナツにとって電脳空間は情報が多すぎるんだ』
『俺達は普通に過ごしているけど』
『電脳酔いをする奴は情報を一気に吸収してしまうんだよ。俺達はいらない情報は無関心で過ごせるけど、コナツは違うんだ。見えるモノ、聞こえるモノ、触れるモノ、すべて脳が吸収しちゃってパンクしそうなんだ』
『だったらトランクの中で休めばいいのでは?』
トウマは『ただ休むわけにはいかないんだよ』と言いづらそうに続ける。
『コナツは気丈に振る舞っているけど、心の中が不安と恐怖でぐちゃぐちゃなんだよ。コナツは言われた事をちゃんと守る、良い子だからね。だからこうして電脳空間に飛び出した事、現実に戻っていいんだろうか、どうして現実に戻れないのだろうって、いろいろ悩みが駆け巡って脳にどんどんストレスがかかるんだ。電脳疎開空間には精神安定剤があったと思うけど、ここにはないからストレスが溜まる一方だ。このままだと脳が疲れ果てて、鬱になったり脳に靄がかかったような感じになってしまうんだ』
トウマは『早く現実に戻そう。いや、早くログアウトさせて脳を休ませないと』と言った。
俺など電脳空間が現実の世界のように過ごせる人間は少ない。ほとんどの人間は電脳空間に半日以上いると脳が疲れてしまうのだ。しかもコナツさんはログアウトできず、眠っても熟睡は難しい。
現実に戻すために走る俺達を励ましたり、お礼を言ったりするコナツさん。でも心の奥では悩みも不安を持ち続けていたと思うと辛すぎる。
ナズナ達が向かっている施設にコナツさんがいればいいんだけど……。




