腹減っては捜索出来ぬ
二人は車に乗り込んで、すぐさま俺と通話をした。
「ねえ、ユウゴ。思ったんだけど、三年前に届いているはずの荷物が最近届いたんだろ?」
『いや、多分違うんじゃないか。機械が故障したから新しい物を注文した。ところが施設に移動する前に届かなかったから、男性に頼んで届けてもらった……とか』
男性の話は都市伝説と言うか妄想類があったけど、その施設を調べる必要はありそうだ。
『早速、研究所に行こう』
だがナズナが「ちょっと待ってください」と緊迫した声で言った。
「まだ研究所に行くのは早いと思います」
「でもおっさんの話だと、怪しい物を運んでいたり電脳空間の機械を運んだって言っていたよ」
『まだ電脳疎開を疑っているのか? ナズナ』
俺の質問にナズナは「違うんです」とちょっと言いにくそうに口を開いた。
「……お腹が、空きました」
『はあ?』
「実を言うとトキオ・ランドのレストランでデザート全種類食べようって思って、昨日一日と今日の朝ごはんを食べてなくって……。さすがにちょっと、お腹が空いてきました」
うつむいて恥ずかしそうに言うナズナ。
フキノも「俺も二日間食べていないから、腹減った」と言った。確かに個体差はあるが武装機体兵は数日何も食べなくても動くが、一応人間なので腹は減る。
その時、後部座席でふて寝したアンズが「ステーキ!」と叫んで飛び起きた。まだ寝ていてもよかったのに……。
「なあ、お腹空いた!」
『お前らは三日間飲まず食わずで働けるだろうに』
「ユウゴさん、人生には楽しみや喜びが必要なんです! いくら武装機体兵だって食べる喜びが無かったら無味無臭のつまんない機械になります!」
「なあ、飯食おうぜ」
「ステーキ! ステーキ!」
アンズが後部座席で騒ぎ出し、ナズナとフキノは車内カメラをジト目で睨んだ。
トキオ・ランドでご飯をおごる約束をしたのだから、ここでご飯休憩を入れた方がよさそうだ。それに奢らないと施設に行かない! って引き返しそうだ。褒美を与えて部下をやる気を出させるのも仕事である。
『じゃあ、ご飯休憩しますか』
三人は「やったー」と喜んで早速どこで食べるか相談し合った。こうして見ると普通の子供にしか見えない。
「研究所に行く道にレストランとかないかな?」
「あ、待ってフキノ。ここに来る道にレストランがあるよ」
ああ、あの女の子がレストランの宣伝をしていたな……。ナズナはポケットからハンバーグやスパゲッティの絵が描かれてある小さな紙を出した。
「割引券もらったの!」
『えー、その子は完全にナズナを普通の子と思って割引券を渡したんだよ。武装機体兵って分かったら逃げていったじゃん』
「私達は武装機体兵だけどお客だよ。お客様は神様、追い出したら罰が当たるよ」
お客様は神様、か。ナズナ、神様は自分で神様って言わねえんだよ。でも割引券があるなら、行ってみようかな。それにこいつら、無限に食うだろう。ちょっとでも割引してくれるならありがたい。
来た道を戻ってようやく割引券のお店を見つけた。
女の子が宣伝していたレストランは童話に出てきそうな赤い屋根の可愛らしい小さな建物だった。三台しか停められない駐車場に停める。ナズナはキャップを被ると「ちょっと武装機体兵も入れるか聞いてくるね」と言って、フキノとアンズを車の中に残した。
レストランには正方形の窓を覗き込むと、先ほどの女の子がいた。ナズナが手を振ると女の子が驚いた顔で店から出てきた。
「ちょっと、なんで来るのよ!」
「だって割引券をもらったから」
だがナズナは割引券を見せたが、女の子は「武装機体兵はお断りなのよ」と言った。
「だって乱暴だし、食べ方は汚いし、うるさいし……」
「だったら割引券やレストランの入り口に書いた方がいいよ。間違って入るよ」
窓を見ると中年の男性と女性がこちらを見ている。恐らく女の子の両親だろう。
ナズナは「ご両親には私達の事を言ったの?」聞くと首を振った。
「それは好都合。だったら私を普通の人間ってレストランに入れればいいんだよ。だって初対面の時、私の事を普通の人間って思っただから」
流石に女の子もぎょっとした目で「はあ?」と言った。
「そうね。私の親が会社の社長をやっているお嬢様。トキオ・ランドに行こうと思ったけど、武装機体兵の友達二人が入れないから帰る事にした。でもせっかく遠出したのに、何もしないで帰るのはつまらない。だからここのレストランでちょっと早めの昼食を取ろうと思ったって言う設定!」
「ちょっと、何言ってんの!」
スラスラと設定を作り上げるナズナに、開いた口が塞がらない女の子だったがようやく意を決して「私、入れるなんて言っていないよ!」と言った。
「武装機体兵なんて……」
「私達、結構お腹が空いているんだ。だから結構、たくさん食べるよ」
ナズナは女の子の顔を覗き込むように見ながら更に言う。
「ここの通り、トキオ・ランドに行く人を対象にしたお店だけど、誰も立ち寄らないから閑古鳥が鳴いている。売り上げ、ヤバいでしょう。客を選別したり、つまらないプライドを捨てた方がいいよ。もし周囲の店が文句を言ってきたら、お嬢様が入れてくれなきゃ、この区を潰すわよって脅してきたと言ってもいい」
なんか人の話も聞かずにまくし立てる感じ、リュウドウに似ているとちょっと思った。
女の子はちょっと黙った後、「……いいよ、入って」と言った。
「あれ? ご両親に相談しなくていいの?」
「うちの親は別に武装機体兵も入って大丈夫って言っている。ただ私が嫌なだけ」
そう言って踵返して女の子はお店の中に入って行った。ナズナは車の中にいるフキノとアンズを呼びに行った。
「二人とも入って大丈夫だって」
「よっしゃー! 食べるぜ!」
「ナズナ、交渉ありがとう」
女の子のお店に入って開口一番、ナズナは「わあ、可愛い」と言って目をキラキラさせた。
木を基調とした内装で、オレンジ色の灯りで暖かな雰囲気を作り出している。白地に赤いチェック柄のテーブルクロスが敷かれたテーブルと木製の椅子でおしゃれだ。小さなお店だが雰囲気が良くて【森の洋食店】って感じだ。
結構、大げさに褒めていると思うが戦後で店を開くと、こういうインテリアにこだわるのは今の時代だと難しい。実際、人生微糖なんてテーブルも椅子も食器さえも統一感がなくバラバラである。
「奥の方に座ろう、アンズ、フキノ」
窓から見にくい位置のテーブルを選んで三人は座った。テーブルにあるメニューはデジタルではなく紙だった。でも可愛らしい字で紹介された料理の写真はおいしそうだ。
しばらくして女の子が注文を聞きにいた。
「お決まりですか?」
「うん、俺はハンバーグセットとオムライスとドライカレー」
「私はオムライスとバニラアイスとプリンとシフォンケーキ」
「えーっと、ドライカレーとハンバーグセットとオムライスとカニカマクリームコロッケとステーキ。あ、ステーキは二つね」
こいつら……。自分の金じゃねえからって、フルスロットルで大量に頼みやがった!
もう一度メニューを見て値段を確認する。トキオ・ランドよりは良心的な値段だが、割引券を差し引いても結構高い。特にナズナのデザート数種は結構高いぞ! いやいや、問題はアンズだ! どんだけ頼んでんだ! クッソ、こうなったら電脳疎開を探すため、研究所を隅々まで探させてやる!
普通の人間だったらこんだけの量を頼んだら驚くのに、女の子はメニューの復唱したのち、厨房に行ってしまった。
「うちの近くの洋食店より、ちゃんと洋食店ぽいな。内装もメニューも。あそこの洋食店はなぜか、魚拓があったり、招き猫があったり、うどんもあるし」
「多分、この店は戦前からやっていたんだと思う。テーブルとか椅子は新品じゃない。でも丁寧に使われている」
「よくわかったわね。うちはずっとここで洋食店をやっているの」
いつの間にか女の子がやってきて、隣のテーブル席に座った。
「料理が出来るまで時間がかかるから、相手してあげてって親に言われた。それに遅いと暴れるかもしれないからね」
「ありがとう。えーっと……」
「私はココロ」
「ありがとう、ココロ。私はナズナ、こっちはフキノ、そっちはアンズ」
ココロはためらいがちに「何処から来たの?」と聞いてきた。ちょっと興味があるのかな? と思いつつナズナは社長令嬢のようなにお高くとまった感じで答える。
「トキオにお婆ちゃんと武装機体兵二人と一緒に暮らしているわ。両親は社長業務で全国を飛び回っていているの。何をしているかは言えないけど」
ちなみにナズナが演じているお嬢様にはモデルがいる。ナズナ曰く、鼻持ちならない子ではあるが、悪い子ではないらしい。
「ふうん。今のトキオって武装機体兵っていっぱいいるの?」
「結構いるわ。トラック運転手とか、地下鉄の駅員の手伝いとか」
「へえ。みんなトキオはもう廃墟の街だって言っていたけど、結構復活しているじゃん」
ふとフキノが「あ、いい香り」と言うと、アンズが鋭く「これは肉だな、肉を焼いている」と答えた。こいつらは呑気である。
ちょっとナズナとココロが打ち解けてきた時、ココロがちょっと愚痴っぽい口調で言った。
「ナズナ、高速道路の料金所があったからこっちにやってきたんだよね?」
ナズナは「そうだよ」と答えた。
「あの料金所はね、トキオ・ランドまでのバスツアーの人とグルみたいなんだ。ツアーの人達は簡単に通してくれるのに、他の車は高額なお金を請求するの。もちろんツアーだからこっちに行かないし、普通のお客さんも来ないの」
「ふうん、そうなんだ」
「あーあ、早くあの料金所が潰れたらいいのに」
ココロはそうぼやいた。あの料金所、マジで疫病神のようだ。
ようやく料理が出来たので、ココロは席を立って配膳する。ホカホカの湯気を立てて、並ぶ料理はおいしそうだった。
「三人ともフォークとナイフは使えるの?」
ココロの質問にアンズとフキノは首を傾げた。こいつらはそういうマナーとか知らないようだ。一方、ナズナは勘づいて「あー、全員お箸でお願いします」と言った。
全部配り終えて、早速三人は食べ始める。
「すげー、マジでうまいよ! このステーキ!」
「すごい。このハンバーグ、魚肉も大豆も入っていない。お肉だけのハンバーグだ」
「えー、すごい! あ、でもこのオムライスの卵、すごくフワフワでたっぷり使われている!」
当然のごとく戦後は食料難で他国から食料を手軽に輸入する事も出来なくなった。今、国の政策で自給率百パーセントを目指しているが戦前のような食べ物は望めない。
だがフキノ達が食べているハンバーグやオムライスの量は少なめではあるが、味は戦前並みにおいしいようだ。見ている俺も、食べたくなってきた。
ココロは三人の食レポをドヤ顔で聞きながら隣の席に座っていた。
「ココロ、ここのシェフ、すごいよ!」
「当然でしょう。お父さんは昔、外国で修行していたんだもの。食料は知り合いの農家から仕入れてくるの。でもそれだけじゃなくて、いろいろ工夫しているんだよ」
ココロは得意げに話し、食べている様子を満足そうに見ていた。
すべて完食した三人は席を立って、レジに向かう。レジはココロのお母さんがやってくれ、シェフのお父さんも厨房から出てきた。ちなみに合計金額を見たら俺の魂が飛び出そうだった。もらった割引券を差し引いても高い。支払いが終わるとリュウドウからもらったボーナスがほぼ無くなってしまった。
会計が終わるとレジ前で両親そろって「ありがとうございました。また来てください」とお見送りされた。お客も来ない中、これだけ食べれば、お見送りもするだろう。
「これからどこに行かれるんですか?」
「トキオ・ランドに門前払いされたけど、少し行くと山があるらしいからそっちに行ってみようかなと思っています」
「ああ、あそこって立ち入り禁止区域もあるから気を付けてね」
「戦後すぐは立ち入り禁止じゃなかったんだけど、最近になって入れないようになったんだ」
「遠くから見てもきれいだから行って損はないよ」
ココロの両親はナズナ達に普通に話をしている。てっきりココロと同じくらい嫌な顔されるかなって思っていたのに。
二人は「ごちそうさまでした」と言って、お店を出るとココロはお見送りしてくれた。
「うちの両親は別に武装機体兵が嫌いなわけじゃないんだ。お父さんの知り合いの農家の人も武装機体兵を隠れて雇っているし。はっきり言うけど、ナズナも武装機体兵ってバレてたよ。言わなかっただけ」
車の前までお見送りしてくれたココロが言う。ご飯もおいしかった上に見え透いた嘘を言わないなんて、優しいご両親である。
「嫌いな武装機体兵を入れさせてくれて、ありがとう。おいしかった」
「ごちそうさま、ココロ」
「ごちそうさん!」
「でも三人なら、また来ていいよ。お箸の持ち方、綺麗だったし」
ナズナは「うん、またね」と言って三人は車に乗った。
しばらく走らせてナズナは俺に電話をかけた。
「ユウゴさん、ごちそうさまでした!」
「ユウゴ! ごちそうさま!」
「ゴチになりました!」
『本当だよ! こうなったら徹底的に探してもらうからな!』
大笑いする三人。くっそう! マジで探させてやるからな!




