武装機体兵たちと一緒にトキオ・ランドまで②
しばらく田んぼ道を走っていると突然、コンクリートのアパート群が見えてきた。あれ? なんか見たことがある気がする。やがて田んぼ道は終わり、ちょっとした民家やお店が並ぶがすぐにトキオの居住区にあるテンプレアパートが建っていた。
「そろそろ充電しないと」
「あ、本当だ。居住区の充電ステーションは使えるかな?」
テンプレアパートが並ぶ道はトキオの居住区と何ら変わりない。ディストピア感が半端ないアパートは全国各地にあるようだ。
「お、見っけ!」
すぐさまフキノは充電ステーションに入って行った。近くには太陽光と風力発電塔が見え、見下ろされる形で充電器の機械が立ち並ぶ。フキノは機械の隣に車を停めて、外に出た。充電器の太いケーブルを車に差し込んで、ナズナが座る助手席の窓を軽く叩いた。
「ごめん! 俺、しょんべんに行ってくる!」
「もう! トイレに行くって言ってよ!」
ナズナはむくれて注意するが、フキノは適当に返事してトイレに向かった。
「はあ、フキノって黙っていれば上品な顔しているのにな……」
『と言うか、武装機体兵はみんなお綺麗な顔しているけど』
「それはどうも。でも特徴のない顔とも言えるけどね」
大きな目のナズナはため息をついて「なんで、みんな特徴のない顔にしたんだろう?」と言った。そりゃ、作るんだったら綺麗なものを作るだろ。人形のようにきれいな顔を。
そんな時、窓を軽く叩く音が聞こえてきた。ドライブレコーダーで見ると普通の女の子が立っていた。ナズナは急いで窓を開けた。
「こんにちは! どこに行くの?」
「え? トキオ・ランドだけど」
「すごい。私、ここに住んでいるんだけど、まだ行った事がないの」
……もしかしてナズナを普通の子って思っているんだろうか。確かに車の中だとネイビーの髪は黒く見えるかもしれない。それにアンズは後部座席でごろ寝して見えないだろう。
女の子を見ると十代前半ばぐらいで着古した黄色のワンピースを着ている。
「ねえ、なんで高速道路を使わないの?」
「あそこって料金所が出来たでしょ? お金を払いたくないから、こっちに来ているの」
女の子は首をかしげながら「節約?」と聞いてきたのでナズナはちょっと苦笑しながら頷いた。本当は運転手が指名手配にされているかもしれないなんて言えない。
「あなたって居住区の子?」
「ううん。ここの道を抜けた場所に住んでいるの。うちの親がレストランをやっているの」
ニコニコ笑って女の子は「これ、割引券」と言って小さな紙を渡した。
「もしよかったら、来てほしいな」
「わあ、ありがとう」
突然、アンズが起き出して窓を見た。
そしてちょうどよく「ナズナ?」とフキノの声が聞こえてきた。後ろのフキノと後部座席のアンズにちょっと驚いた顔になったがすぐにナズナに「すごいね」と言った。
「武装機体兵の運転手やボディーガードがいるなんて」
「……私も武装機体兵だよ」
ナズナの言葉に女の子は大きく目を見開いて絶句した。ナズナは「大丈夫?」と聞くと、女の子は何にも言わずに走って逃げてしまった。
逃げていく女の子を見ながらフキノは不思議そうに充電器を外して車に乗り込む。
「何なんだ、あの子」
「多分、私の事をお金持ちの子って勘違いしたみたい」
「おい! レストランじゃないのかよ!」
アンズの見当違いの怒りにフキノは車に乗り込んで「もうすぐだよ」と言った。
「それじゃあ、行きますか」
「トキオ・ランドに」
「おう!」
三人は元気よくそう言うと、車は走り出した。




