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脳しか無い俺はレモンクラッシュな現実を見る 【第二話 アウラな青春 完結】  作者: 恵京玖
【第一話】戦争が終わったのに電脳疎開している少女を現実に戻せ!
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みんな来て! トキオ・ランド!


『ト・ト・トキオ、みんな来て、トキオ・ランド。ト・ト・トキオ、みんな来て、トキオ・ランド……』


 ついつい口ずさみたくなる、わけがないダサい音楽と共に、端末の画面には妙な踊りをする奇妙なマスコットとミニチュア版のようなトキオの街並みがとってもチープである。作った人間に悪いが、電脳空間 トキオ・シティの劣化版と思ってしまう。

 これはトキオ・ランドと言うつい最近出来たテーマパークの宣伝動画でフリーダムジャーナルの情報動画を使って見ている。レストランやショッピング、またメリーゴーランドなどの乗り物が置いてある映像が流れて、テーマパークの場所の説明を終えて、よくわからないマスコットが『みんな来てねー』と棒読みのセリフを言って終了なった。


 あのトキオ・ランドの何とも言えないテーマソングを人生微糖の二階にある寮でナズナとフキノ、リュウドウの電脳空間でコナツとトウマが神妙な顔で聞いている。俺はナズナの端末についているカメラで見ていた。

 俺とナズナはフキノにコナツと電脳疎開について話した。ナズナと一緒で半信半疑だったが、コナツと喋るのは普通そうだった。


「ユウゴさん。ナラネの大仏はトキオには無いですよ」

『ナズナ、そういう突っ込みは俺じゃなくてトキオ・ランドの関係者に言ってくれないかな』


 チラッとトキオじゃない建造物などが見えたが、俺にはそんな事は関係ない。重大な事はただ一つだ。


『ここに私がいるかもしれないんですね』


 真剣な顔でコナツは呟く。

 三年前、ここはベルの倉庫があった。だが今はトキオ・ランドと言う意味の分からないテーマパークが出来ていた。トキオから大分離れているのに、トキオ・ランドとは意味が分からない。多分、ここにいるナズナやコナツ達もそうだろう。

 ここで俺はナズナとフキノ、コナツにこのテーマパークにいる確証を話す。


『体験版 電脳疎開の保護者用の質問で、子供らの食料はどうするかって聞いたら、ある液体用の栄養剤 イットを使うと答えた。それでこの電脳疎開に入れる機械は五年でメンテナンスをしないといけない。だから戦争が始まって五年、つまり今から三年前にこのメンテナンスで使う食料や精神安定剤が輸入され、どこの場所に入荷されたか調べた』

「それがトキオ・ランドって事?」


 思いの外、冷たい口調でナズナは言った。うん臭そうにトキオ・ランドのサイトを眺めた後、リュウドウの空間に画面を変えた。構わず俺は話しを続ける。


『【ナスカ】と言う単語と高速道路に乗ったとコナツさんが言っていた。その近くで輸入した液体用栄養剤などがある企業が注文して、ここの場所に届けられていたんだ』


 俺の話を聞きながらナズナは猫のトウマをスライドして撫でる。トウマは気持ちよさそうな顔になって、ゴロゴロと喉を鳴らしている。


「……本当にいるですか? こんなテーマパークに」

『テーマパークが出来る前さ。彼女がまだ行方不明って事になっている事から、まだここにいる可能性は高い。カモフラージュにはピッタリじゃね』

「倉庫のままだったら、そうかもしれないって思います。でもテーマパークの所にあるって言うのは、ちょっと出来すぎている気がします」


 そしてナズナは「ちょっとした陰謀論や都市伝説みたい」と言った。

 確かに、テーマパークの地下に秘密基地があると言う都市伝説はよくあるけれど……。だとしても、ここに届けられているのはおかしい気がする。


 フキノが「ナズナ、端末貸して」と端末を取った。リュウドウの空間からトキオ・ランドのサイトを変えたので、ナズナに撫でられていたトウマはいきなり止められ画面まで変わってしまって、シャーッと毛を沸騰させ怒った。

 そんな事とは露知らず、フキノはサイトを眺めていると突然、口を開いた。


「ねえ、ユウゴ! トキオ・ランドの料金とかってユウゴが払ってくれるの?」


 驚いたが一応必要経費なので、『もちろん』と答えた。するとフキノの目が輝いて、端末の画面をナズナに見せた。


「見て、ナズナ! トキオ・ランドのレストランで、ハンバーグやステーキが食べられるんだって! 俺、こんなに分厚いお肉、見たことない! おいしそう!」

『おい、フキノ。お前、トキオ・ランドに行く目的はわかっているのか?』

「他にもショートケーキやパフェとかもある。ナズナも食べたいって前に言っていたじゃん!」


 俺の質問を無視してフキノは俺に奢る前提で喋る。おい! 聞け! フキノ!

 ナズナはちょっと興味津々でデザートの画像を見て、誠実そうな顔で口を開いた。


「ユウゴさん、きっと電脳疎開をしているコナツさんはここにいると思います!」


ナズナ、お前、絶対に思っていないだろ。ケーキ食いに行こうとしているだろう。

 でもここで飯代は必要経費じゃない、お前らの財布から出せって言ったら、ナズナどころかフキノさえも行きたがらないだろう……。ちらっとレストランのメニューの料金を見たが、異世界かと思うくらい高かった。でもリュウドウからもらったボーナスで入場料を差し引いて、大丈夫なはず。こいつらが手加減してくれてくれたらだけど……。

 そんな時だった。


「おい! ナズナ、フキノ!」


 二人はバッと振り返る。俺も端末のカメラで見ると、真っ赤な髪のアンズがずんずんと向かってきた。


「聞こえたぞ、お前らだけでおいしい物を食べようとしていただろ!」

「いや、お仕事だよ」


 ぎこちなくナズナは言うが、アンズは騙されなかった。


「私も行く!」

『えー、トキオ・ランドで食べ物を食う仕事じゃないんだぞ』

「でもうまい物を食うんだろ!」


 ナズナもフキノも黙って顔を見合わせ、端末のカメラ、つまり俺を見る。その間にも「行くったら行くんだ!」と騒ぎ出した。多分、何言っても聞かないだろうな。


『分かったよ。アンズも一緒に行こう!』

「やったー!」


 再び、俺は自分のお金を確認する。うん、大丈夫。一人増えても入場料と昼飯代は奢れる、はず……多分。


『ハルキ兄さん。ねえ、ハルキ兄さん』


 ナズナ達に食べ物で釣ってコナツがいるかもしれないトキオ・ランドに向かう報告をしたいのだが、何度呼びかけてもやってこない。

 いつもだったら、すぐに通話がつながるはずなのに……。


『仕事が大変で出れないんじゃない?』

「かもしれません」


 コナツは不安そうに呟いた。



 予定は大きく変わったが、ナズナとフキノ、そしてアンズは電脳疎開にいるコナツ探しをする事になった。ただ彼らの目的が捜索ではなくトキオ・ランドの昼飯だけで満足して帰ろうとしないか心配だ。特にアンズ。

 アンズには軽くコナツや電脳疎開の事を話したが、「うんうん、わかった」と流していて理解したか分からない。もう一度、車の中で説明するか……。いや、あいつ車の中だと爆睡するから説明できるか? 

 いろいろ不安や心配がグルグルと回りながら、トウマを見るとまだ撫でられるのをやめた事を怒って、尻尾を沸騰させて座っている。俺は別にタッチやスライドしても何ともならないが、トウマはマッサージ機能を付けたらしく気持ちがいいらしい。ノドも鳴らし始めたし、本格的に猫になるつもりだろうか? 


 そんな時、『あの、ユウゴさん』とコナツが駆け寄ってきた。


『あの私の体を探してくれてありがとうございます』

『まだ見つけてないよ』

『でもあんな子供達に手伝ってもらうなんて』

『まあ、あの子達は武装機体兵で児童労働が日常だから。と言うか飯が目的みたいに思っているし』


 ナズナ達を飯で吊っているのにも関わらず、コナツは申し訳なさそうな顔をしている。


『彼らって、どんな存在なんですか?』

『戦争中は兵器で、今は人間様がやりたくない仕事をしてくれる子達さ』

『なんか申し訳ないです。彼らって人権が無いんでしょう』


 そう言ってコナツさんはフリーダムジャーナルのサイトを出して、ある記事を出した。


【武装機体兵の人権問題 物として扱われる機械の人間  ★2・5 閲覧105】


 パラパラ見ていくと戦時中に生まれた武装機体兵の歴史、特徴が説明されていた。元々出生前診断で胎児が何ならかの障害があった時に、手術で取り出して治療しながら培養液で育成させる医療だったと言う。それを軍の研究室が独自に研究し、純粋に機体を持った人造人間を作り出したのだ。

記事には機械も体内に入れて遺伝子強化もされているが脳をいじっていないこと、更に精神年齢が幼く、また普通の人間のようにストレスで病む事などが特に詳しく説明され、武装機体兵の犯罪は彼らの置かれている環境が原因であると締めくくられていた。

 最近見た記事の履歴を見ると戦後すぐに起こった武装機体兵の大量虐殺の原因から小さな窃盗事件、また武装機体兵の犯罪心理学もあるが、武装機体兵が火事現場で取り残された子供を助けた記事や災害で救助活動する武装機体兵の記事もあった。


『武装機体兵の犯罪が多くて、彼らの事を調べました。ナズナさん達もそうなんですよね』

『そうだな。それにこういった犯罪をする武装機体兵を捕まえる事もしている』

『いろんな子がいるんですね。ナズナさん達が昔のショッピングモールで暴れている武装機体兵の捕まえる仕事も観ました』


 あ、トウマ! お前、コナツにあれを見せたんだな! そう思ってトウマを睨むと液体猫の奴は水たまりになっていた。


『普通の子供だったら、こんな事は許されないのに。それに結構、治安が悪化していますよね。疎開する前のトキオ、ううん、国じゃないみたい』


 戦前にはいない存在と変わり果てた世界でコナツはショックを受けているようだ。


『……コナツさん、現実に戻るのが怖くなった?』

『いいえ! むしろまだマシです! ゾンビとかがいて文明も中世に戻っているよりずっとマシです! それよりも家族に会いたいです!』


 気丈にもコナツさんはそう言った。






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