夜のドライブはリュウドウの愚痴を聞いて
昨日から徹夜だったのに、全然眠れない。アンズ達のアクション映画のような仕事のせいで眼が冴えてしまい、睡魔がどこかに行ってしまったようだ。
このまま電脳空間で遊ぼうかなと思っていると、リュウドウから電話が来た。「よう。お疲れさん」と疲れてはいるが、仕事中にあったイラついた様子はなかった。
「お前、これから寝るか?」
『いや、お前らのせいで睡魔が逃げて戻って来ないんだ』
「そりゃあ、悪いな。お詫びに俺と話ししようぜ」
お詫びがなんでお前と話なんだよ。でも暇を潰せるし、今回の事件も聞きたい。俺は『いいぞ』と言った。
耳を澄ますと車のエンジン音が聞こえてくる。通話しながら運転しているようだ。またナズナ達の気配もない。全員おろして、今はリュウドウと捕まえた武装機体兵とケガした武装機体兵が車の中にいるのか。
『どこに向かっているんだ?』
「これから武装機体兵の病院に行くのさ。ほら、あのくそ野郎に勝った時の景品を病院に連れて行くのさ。それから警察に行って、捕まえた武装機体兵を引き渡す」
『充実したスケジュールだこと』
俺はちょっと気になる事があった。
『今回の仕事、お仲間さんがヤベエ奴だったから自分らで解決したんだな』
「まあな。あの男、えーっと、名前は忘れた。あいつは元々、問題があった工場があった場所の自警団みたいな奴なんだよ。あそこの工場の評判は最低でね、武装機体兵を薬漬けにして、奴隷のように扱っていたらしい。武装機体兵って人並みにストレスが溜まるけど、普通に機械だって思い込んで使う奴が多い。それであいつらはキレて暴れて、ここまで逃走したのさ」
『あいつらって事は暴走した奴はまだいるのか?』
「それは全員、工場で捕まった。でもそこまで薬に依存していない奴は多く逃げ出している。戻ってこねえし、わざわざ捕まえる事もしない。あとあの工場は停止だな。でも数か月で同じような責任者がやってきて、また元通りになる。悪循環だな」
リュウドウはため息をついて、「あー、あいつの事を思い出したらムカついてきた」と呟いて、それから怒涛の愚痴が始まった。
「あの自警団の男は会った時から気に食わなかったんだよ。まず暴走した奴を他県にまで放流しておいて、謝罪なしで上から目線で命令してきたんだ。多分、俺達の事を普段工場で働いて、助っ人で来た奴って思い込んだんだろうよ。しかももっと応援を頼もうとしたら、君等だけで十分とか言いだすし。それで暴走した奴の行方を探すため俺達が情報を集めていたんだけど、あいつとあいつの武装機体兵は何にもしねえんだよ。そこで俺は軽く手伝わねえのか? って聞いたんだけど、あいつは捕まえる専門なんでって言いやがった。捕まえる専門なら、自分の敷地内で捕獲しろって思ったね。で、ようやく旧ショッピングモールにいるって分かった後、フキノが監視カメラ付きのドローンを飛ばしたら、奴はスカウトしてきてさ。ナズナ達を監視に行かせた後だったからよかったけど、ナズナが見たら切れてフキノと一緒にいるって聞かなかっただろうな。と言うか、あいつは何し来たんだよ! 俺がさっさと仕事しろって言ったら、今度は無視しやがるの! じゃあ、こっちでやらせてもらおうと思ってやったら、命令違反する武装機体兵は出るは、わけのわかんない事を言うし……あああああああ! 何様のつもりだ! あの野郎は!」
『裸の王様のつもりだったんじゃないのか?』
「裸の王様の家臣が何にも言わねえ武装機体兵だから、あいつは裸でも気にならねえよ。ただの馬鹿丸出しの王様だ」
リュウドウは最後に「蹴り一発だけじゃ足りねえな」とも呟いた。多分、ぶっ飛ばすために、卑怯と下劣な勝負を挑んだのだろうな。
ふと、あの勝負でもらった景品の武装機体兵を思い出した。
『……景品のあいつ、治るのか?』
「見た感じ、二度と仕事は出来ねえだろうな。と言うか目覚める事も出来ないかもしれない。まあ、素人の俺が見てもどうしようもない。一縷の望みをかけて病院に行くさ」
俺もやっぱりなと思った。武装機体兵は頑丈だが、一度怪我をすると治りが遅い。そして体内の精密機械も壊れたら修理や移植も出来るが結構お金がかかる。でもそこまでして直す奴はほとんどいない。ただ死にかけの武装機体兵は高く売れる。いろんな部位や機械は使えるのだから。でもリュウドウはそのお金を受け取りはしないだろう。
「相当、体もボロボロだろう。悲しい事にこういう奴が多いのが現状だ。捕まえた奴の保護者も自分の利益しか考えていない感じだ」
『最低だな』
「本当だな。俺もこいつらと同類なんだよ。俺はあいつらを責める事も出来ない。だから同族嫌悪しているんだよ」
リュウドウはいつも偉そうで自信あふれる言動が消え失せて、自己嫌悪している。こいつにもそんな感傷があったんだ。
いろいろ苦労しているんだな。酒飲んで喧嘩して、酒飲んでやくざみたいなことして、酒飲んでいるような奴としか思っていたけれど。
リュウドウの話はそこで止まって、しばらく車のエンジン音だけが聞こえてきた。こいつの愚痴終了かなと思って、通話を終了させようかなと思っているとリュウドウが「おい」と言ってきた。
「お前のターンだぞ」
『え? ターン? カードゲームでもやっていたのか?』
「俺がとっておきの弱音を吐いたんだかが、お前の話しを聞きたい」
『えー、それじゃあ……リュウドウの態度が気に食わない』
「俺の態度かい!」
口調が荒くいつもの軽口を言う感じのリュウドウに戻ってきた。
「トウマだっけ? あの話せない生意気そうな猫。あいつは記憶が戻っているのか?」
『自分の記憶以外は、思い出している気がする』
最初に自分のアバターと作り出して以来、電脳空間についてはかなり思い出しているようだ。先ほどのハッキングもアバター作りなどの知識もどんどん蘇っている。ただやっぱり俺としかコミュニケーションは取れないし、他の空間以外だと動けない。
「お前は?」
『思い出せてない』
と言うか全くと言っていいくらい思い出せない。トウマやリュウドウ、ナズナ達の解説を聞いてもピンとこない。なんだか状況に流されている感じがする。と言うか、漫画やアニメの世界にいる感じがする。
かといってアクアリウム・クオリアに自分の脳と過去を探るのは、ちょっと怖い。
「お前のような立場になったら俺は復讐するね。絶対に」
『どんな理由で復讐するんだよ』
「えー、勝手に脳だけにしている奴らだぞ! これが理由で壊滅くらいは出来るだろ」
『手始めに電脳を破壊しそう、お前だったら』
破壊神 リュウドウは今まで築き上げてきた電脳文明を崩壊させ、闇とかした。電子のバベルの塔を失った人々は更に無益な争いを繰り返し、いろんなものが失われて疲弊していた。だがそこに電脳空間を操る能力に目覚めた勇者が現れた! さあ、勇者よ! 破壊神を倒し、今こそみんなの絆がつながる電脳空間を復活させるため戦うのだ! 的な映画の予告が俺の脳内で流れた。公開日は未定。
ぼんやりと妄想しているとリュウドウが「で、どうなのよ」と聞いてきたので、現実に帰還し答えた。
『復讐する気は無いな。何より面倒くさい』
「いや、嬉しいね。お前が世界征服をしないから、俺は心置きなく仕事を押し付けられる」
『心置きなく押し付けないでくれ』
「そんなお前に朗報だ。今回の仕事、結構お金がもらえそうなんだ。警察案件だったのに俺達が代わりにやったからな。だからお前にもボーナスをやろう!」
リュウドウから具体的な金額が告げられると思わず『マジか!』と言った。
よし、これを軍資金にしてコナツさんをナズナ達と一緒に探しに行こう。




