現実世界と電脳空間のはざまで
『おい! トウマ! 起きろ!』
トウマは眉をひそめて『何?』と言い、自分が何しにここに来たのか忘れているようだ。
『コナツさんの居場所が分かる手がかりを見つけたんだ!』
『え? どうやって?』
俺はとあるサイトをトウマに見せた。それはカプセルに入っている時に使う液体状の点滴 イットだった。これで日々の栄養などを賄うらしい。これは世界が混乱状態な情勢の中で、数少ない貿易関係である国の商品だった。
『数年前に一度、メンテナンスがあったんだ。その時に必要な物がこの液体用栄養剤のイットだ。長い事、電脳空間にいる奴なんていないはず。これの輸入品が届いた場所が分かればコナツさんの居場所が分かるはず!』
『なるほどね』
トウマは頷いて『でも行く前にやることがあると思う』と言った。
『きっとマガジンメールがかなり溜まっている』
『もう、迷惑メール設定しようぜ』
そんな事を言いつつ、俺達はリュウドウの空間に戻ってきた。メールボックスに溢れるくらいのメールが来ている、と思っていたがコナツがアリス風のアバターで整理していた。
『うわああ! コナツさん! ごめんね、こんなことさせちゃって!』
『いえ、居候の身ですので。とりあえずダイレクトメールを捨ててます』
俺達も居候の身ですけどね。そう思うと俺達、結構大それたことをしている。家主に黙って女の子を連れ込んでいるんだから。ナズナがドン引きするのもわかる。
コナツは捨てながら『どうですか?』と聞いた。電脳疎開から出れるかって事だろうと思い、俺は『手がかりが見つかった』と答えた。きっと喜んでくれると思いきや、『そうですか』と答えただけだった。
『何かあったの?』
『いや、ちょっと落ち込むことがあったので』
トウマが思いついたようにトランクの上にあったフリーダムジャーナルのサイトを見つけて、閲覧履歴をタッチした。コナツが読んだ情報一覧があったが、そこにはベルの経営者一族のコナツが未だに行方不明と言う記事だった。コメント欄には電脳空間での技術について言う人間もいて、コナツには電脳技術がないから別によくないみたいなコメントがあった。
いくら精神的に強い人間でも、こんな事を書かれていたら辛いものがあるだろう。すぐにトウマは尻尾で器用にサイトを消した。
『慣れていますけど、ちょっといなくなってもいいみたいに言われると悲しくなりますね』
『いなくなっていい人間なんていないさ。気にしなくていいよ。こういうコメントは見ないのに限る』
『ありがとうございます。でも電脳技術も才能もないのは確かです。お母さんが違うし』
『あー、コナツさんのお母さんって再婚だったっけ』
『はい。ハルキお兄さんとチアキお姉ちゃんのお母さんは離婚して、私のお母さんと結婚しました。でも親が違って年が離れていたけどチアキお姉ちゃんはとっても優しかった。ハルキお兄さんも優しくて電脳空間を教えてくれました』
コナツさんは今にも泣きそうな声で『自分だけ電脳空間で必要な言語が理解できないから、出してくれないのかな』と呟いた。
『頑張ってぬいぐるみ風のリスのアバターを作っても誰だって出来るもの。このアリス風のアバターも出来合いの物です。今、チアキお姉ちゃんやハルキお兄さんを見ると会社で活躍していて、今私が現実に出てもどうしようもないから、電脳疎開させたままなのかな?』
そんな事ないよって言葉に意味がない。だから別の言葉を紡いだ。
『……でも出たいんだろ?』
『はい、出たいです。それにハルキお兄さんやチアキお姉ちゃんはそんな事をするはずがないから』
コナツは俺の間抜けなペットボトルアバターをまっすぐ見て言った。




