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脳しか無い俺はレモンクラッシュな現実を見る 【第二話 アウラな青春 完結】  作者: 恵京玖
【第一話】戦争が終わったのに電脳疎開している少女を現実に戻せ!
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良き検索を


 そこは気が狂うくらい真っ白い世界だった。そのため目の前のウィンドウが見えにくい。ウィンドウには【ようこそ、旧ネット検索ルームへ】とあり、それをタッチすると消えて【良き検索を】と薄く書かれた検索バーが出てきた。


『来たことないな、この空間』

「戦後に出来たんですよ。電脳老人会って言う機関が作ったんです」


 ふとトウマが『知っている!』と言ってきた。この声はナズナには聞こえない。


『電脳老人会。平均年齢六十歳以上のクリエイター及びゲーマーだよ! 大昔のゲームを電脳化したり、老人会主催のゲーム大会を開いたりするグループさ』


 思わず『へえ』と相打ちを打ち、ナズナは不思議そうな声で「知っているんですか?」と聞いてきた。


『いや、トウマが勝手に解説してきた』

「あのかわいい猫ちゃんですね」

『ナズナって犬派じゃないんだっけ?』

「犬派ですけど、かわいい生き物は何でも大好きです」


 そして浮気者のナズナは「仕事が終わったら、トウマさんを見に行こう」と言った。

 ちなみにトウマの声は聞こえないが端末からリュウドウの空間でアバターは見る事は出来るので、ナズナはよく見に行っている。トウマ曰く、端末から見ると大昔に流行ったポストペットのような感じの空間にしているという。ちなみに俺は全く知らない。

 随分は話がそれてしまったので『で、旧検索エンジン暴走事件って?』と聞いた。


「ひとまず検索してみたらわかります」


 ナズナは白い矢印のマークを検索バーに指しながら言ったので、ひとまずツチミの成長記録があるはずのサイトの名前を打って検索した。普通だったらすぐ上にサイトが出てくるはずだった。


『何これ?』


 だが出てきたのは全く関係のない音楽の歌詞が載っているサイト、次に外国語がいっぱい並んだサイト、……一目見たが俺が打ったサイトが全く出ていない。更に恐ろしい事に出てきたサイトの名前、一文字も合っていない。俺から見たら一切合切、関係のないサイトやページばっかりである。

 バグっているの? これ?


「御覧の通り、知りたい情報が検索出来ないんです」

『これじゃあ、検索の意味がないじゃん! なんで?』

「詳しい事は誰も分からないんです。ただ三十年前の五月。突然、すべての検索エンジンが狂いだして、普通のパソコンで検索すると情報が異様にあふれ出して、電源を落としてしまいます。しかも大昔に消えたはずの記事がどんどん蘇ったり、個人のメールや写真、動画、個人情報も勝手に溢れ出てきたんです。更に自分たちが保存していたり、登録していたサイトやアプリも出せなくなってしまいました」

『はあ? なんだそれ!』

「原因は不明です。太陽フレアでバグってしまったとか……いろんな説や噂がありますね」


 全く知らなかった。三十年前に生まれた人間にとって絶望と虚無だろうなとは思う。

 自分たちがやってきたネット活動が失われて、見てきた動画も漫画もゲームで手に入れたアイテムもネットで自慢した思い出の写真もなくなってしまうのだ。自分たちのやってきたことがなかった事にされる。

 いや、待てよ。これじゃあ仕事にもならないから、つぶれた会社もあるんじゃないか? 路頭に迷った奴も多いかも!

 するとトウマが話し出す。


『原因は突然、ネット上の言語が崩壊したと言う可能性があるよ。だけどなんで崩壊したのかは分からないけど。とにかく三十年を境にネット空間は大きく変わったんだ』


 そう言ってトウマは得意げにC言語と多重言語の違いをツラヅラと言いだして、俺はうんざりした。電脳空間で言語とか全然意味が分からないし、知らなくてもいい気がする。フキノの気持ちが分かる。ローマ人じゃないのにローマ字を覚えなきゃいけない気持ちが。

 ナズナが話し出したので、トウマの話しをやめさせた。


「この旧ネット検索ルームは巨大な空間を作って、検索した情報を全部出せるようにして機械を強制終了させないようにしているんです。まずは成長記録を残したサイトを探しましょう。サイトを見つけたら、ログインページにパスワードとアドレスを打ちます」

『それで、ツチミの両親のページが出てくるのか?』

「無理ですね。知らない画像や動画がいっぱい出てきます。でも根気よく探せば、五時間くらいで見つかると思いますよ。遅くても十時間くらいかな?」


 俺は検索バーの欄を消した。すると再び【良き検索を】が出てきた。何が【良き検索を】だ。


『つまり過去のネットは人間の想像を遥かに超え特異点を突破して、独自の哲学を編み出して検索しているのか』

「でも人はそれをバグっていると言いますね」

 ナズナは自嘲気味にそう言った。





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