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脳しか無い俺はレモンクラッシュな現実を見る 【第二話 アウラな青春 完結】  作者: 恵京玖
【第一話】戦争が終わったのに電脳疎開している少女を現実に戻せ!
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ナズナとお出かけ③


「借金しているからって、ドン引きしないでください」

『ごめん。でもリュウドウは鬼だなって思って』


 俺の言葉にナズナは「でも鬼じゃないですよ」と優しく反論した。そしてナズナは借金をした経緯を話し始めた。



 戦争が終わった後、政府はほとんど使い物にならない状態になった。軍主導か昔の官僚主導の選挙で政治を行うかで争っていたのだ。その間に武装機体兵が軍施設から避難場所で仕事をするようにさせていたがトラブルや事件を起こすようになり、多くの武装機体兵が逃げ出した。

 そんな時代にナズナとフキノは出会った。半年の間、しばらく二人で放浪した後、イツヤと言う男と出会う。


「イツヤさんは映画屋さんで復興する地方を回って、映画を見せるんです」


 映画屋と言ってもそんなに大したものではなく、プロジェクターとスクリーンなどをワゴン車に乗せて、戦後の復興途中の地方などに見せて回っていたのだ。もちろん著作権は? と言う突っ込みはしてはいけない。

 ナズナとフキノは運転手とボディーガードとしてイツヤと共に行動をしていた。


「楽しかったですよ。フキノは戦後直前、魂抜けたような子だったけど、イツヤさんと一緒に映画を見せていたら笑うようになったんです」


 だがイツヤは今年の冬に亡くなってしまった。具合が悪そうで病院に行こうと勧めたが、今の時代、戦前のような治療なんて受けられるわけもない。結局病院は行かないで一段と寒い日の朝に彼は亡くなってしまった。

 二人はイツヤの生まれ故郷に行ってお葬式を開こうとしたがそこの葬儀屋に騙されてしまい、プロジェクターとスクリーンとワゴン車を取られた上に、ナズナとフキノも売り飛ばそうとしていたという。今もそうだが武装機体兵は体の中の機械も貴重だし、普通の人に部位を移植させる事も出来るので殺して高額で売れたりする。

 リュウドウはそれを阻止して、お葬式を無事に出来た。二人はお葬式代を返すためにバイトしているのだと言う。


「だからリュウドウさんは、そこまで鬼じゃないですよ。あのままだったら私とフキノは売り飛ばされていたんだから」

『でも普通にいい人ではないだろ』

「はい。お酒とお金にがめつい人です」


 ナズナはきっぱりと言い切った所で、目的の駅に着いた。



 居住区は武装機体兵を嫌う人々が住む街とナズナは言った。


「武装機体兵はお断りでお店などは普通の人が働くようにしている街です」

『それにしても不気味じゃない? ここ』


 駅に降りてすぐ【武装機体兵の立ち入り禁止】【武装機体兵を滅ぼせ】などのポスターがいたるところで貼ってある。そしてここは最寄りの駅以上に電灯は少なく薄暗い。更にお店がなく非常に寂しい駅だった。

 そして居住区の歩いていると閑静とは言えない、押し殺したような静けさがあった。

 テンプレをしたような三階建てのアパートがずらっと並ぶ。歩いているとずっとループしてるようで怖い雰囲気さえある。すれ違う人は少ないし声も聞こえない、いや押し殺しているのかもしれない。ベランダには洗濯物さえも干されておらず、道にはゴミさえもなく人間味が無い街に見えた。誰かに見られているような視線も感じた。誰もいないわけではないようだ。

 何と言うかディストピアみたいな監視社会ってこんな感じなのかな? と思った。


「いつもそうなんです。ちょっと怖いし」

『思ったんだけど、あの最寄り駅にもネットカフェがあるじゃん。そこでやらないの?』

「あそこは回線速度が遅いんですよ」


 そう言いながらナズナはパーカーのフードを被る。ネイビーの髪だとフードを被れば、武装機体兵である事を隠せる。

 その時、学校のチャイムが鳴り響いた。


『学校、あるんだ』

「ありますけど、不登校児が多いようですよ。まともに行っている子は内職をしていたり、深夜に働いて寝ていたりする子が多いみたいです。そもそも先生もほとんどいないから、授業動画を見せたり、プリント一枚やったら終了って感じの授業みたいです」

『よく知っているな』

「実は生徒の代わりに代弁するアルバイトをしたことあるので」


 いろんなバイトがあるもんだ。

 

 テンプレ住宅街を抜けると繁華街に着いた。ここだと暇な大人が多い。朝っぱら酒をあおっている奴やゲームセンターで遊ぶ奴ら、道の隅で座ってボケーとしている奴、様々だ。


 そんな奴をしり目にナズナはサイバーパンクと書かれたネットカフェに入って行った。色褪せたポスターには【新型ディメンションブレイク〈MAHUYU〉がすべてのルームに配備されています】と書かれてある。

 ディメンションブレイクと言うのは電脳空間に入るためのゴーグル付きのヘルメット型の機械である。そして作っているのは大手のベルだ。基本的に部品は他の電子機器を解体して作られるため、ある意味完全に国産品である。そもそも他国に工場を建てる事さえも出来なくなっているからだ。


 店内は薄い壁で仕切られた一畳くらいの部屋がずらっと並んでいる。全員ディメンションブレイクを被りリクライニングチェアに座っていて、自分だけの世界に入っている。時々、店員が「お客さん! 時間ですよ!」と呼びに行くのも見える。


『なんか不健康な空間』

「……見慣れているから気づかなかったけど、脳しかないユウゴさんに言うくらいなんだから、そうなんでしょうね」


 そんな会話をしつつ、ナズナは旧型のパソコンが置いてある部屋に入った。椅子に座るとパソコンについているケーブルをナズナはうなじにつけた。そしてキーボードをカチャカチャ動かしてポンッと五歳から十歳くらいの少年の画像数枚とアドレスとパスワードが出てきた。


「これがツチミさんの子供時代のイメージさせた画像です。これで骨格、耳、瞳、等々を照らし合わせて探します。ツチミさんの親御さんは五十年以上前にあるサイトでツチミさんの成長記録を写真と共に載せていたらしいです」

『……パスワードもアドレスも知っているんだよな。だったら普通にそのサイトを復元して、ログインすれば、ツチミさんの成長記録が出るんじゃね?』

「あー、ユウゴさんは三十年前に起こった旧検索エンジン暴走事件を知らないんですね」


 哀れみがこもった声でナズナはいい、「とりあえず、旧ネット検索ルームって言う電脳空間に行ってください」と続けて言った。そう言えばリュウドウもそんな話をしていたな。





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