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脳しか無い俺はレモンクラッシュな現実を見る 【第二話 アウラな青春 完結】  作者: 恵京玖
【第一話】戦争が終わったのに電脳疎開している少女を現実に戻せ!
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ナズナとお出かけ②


 人生微糖のお店の前はお好み焼き屋で、隣も居酒屋だ。ここら辺の通りは飲み屋街になっていて、夜は結構賑わっている。だが朝だと閉店している店が多く、気が抜けた空気感が流れている。

 店の他に武装機体兵やその保護者が住んでいるビルもあり、ビルの窓から洗濯物が干されてあったり、入り口でぼんやりとタバコを吸っている上半身裸の大人がいり、ビルでロッククライミングをする武装機体兵もいた。

 ナズナはその人たちに会釈しながら歩いていた。


「ヤッホー! ナズナ!」

「あ、アンズだ」


 ナズナが見上げると命綱も付けずにビルの窓にぶら下がっているアンズがいた。他の武装機体兵も壁に登ってロッククライミングをしているようだ。

 アンズは手を振るので、ナズナも「落ちないようにね」と大声で言って手を振った。

 どう見ても危ない気がするけど、武装機体兵は落ちても無傷か軽傷だと言う。


 ビルの合間に奇妙な塔がいくつも見えた。この塔は風力発電と太陽光発電が一体になった発電所である。風力発電だと風車のような形を思うが、こちらは塔に羽が三枚取り付いている。これでどこからでも回る仕組みになっている。ついでに羽は太陽光発電がついているので、風がない日はそちらで発電している。


『いくつもあるな。あの塔』

「車を充電する施設は絶対に置いてあるし、あっちは物流センターがありますからね」


 そんな場所の大通りに地下鉄の駅の入り口があった。そして隣に馬鹿っぽい落書きが治安の良さを教えてくれる。


『ナズナ、どこに行くんだ?』

「居住区の駅まで。あそこの電脳カフェに行くんです」

『電脳カフェって、お前らって電脳入れないじゃん』

「普通のパソコンがあるんです」


 そう言いながら、地下鉄の商業施設に入っていく。

 ここの地下鉄の十二区駅は戦後で走っている地下鉄の線路 五線をすべて通っている。だからなのかここの地下鉄の駅の中は飲食店や簡易ホテルなどのお店が並んでいる。


「いらっしゃい! 冷えたキュウリがあるよ」

「てめえ! また万引きしただろ!」

「もっと値切れるだろう? 兄ちゃん」

「もっと狭くしろよ! 俺の店が狭くなるだろ!」

「こら! そこでジャグリングするんじゃねえ!」


 通路を横切るようにヒモをひいて服や食べ物を吊って並べたり、大きな看板を背負った奴が野菜を売っていたり、レジャーシートを敷いてよくわからないオブジェを売っていたり、路上パフォーマンスをする奴等々。改札までの道には露店がひしめき、店員やお客とパフォーマーと万引きが多く行きかう。

 まるで電脳空間のシープシティのようである。初めて見た時、現実にあるんだと感動したもんだ。

 そしてここは一番、露店が多い通路なので通るのに一苦労だ。


「すいません! 通りまーす!」


 ナズナは人ごみをかきわけて改札に向かって歩く。だがナズナは結構、身長が低く一人で歩くとたまに知らない場所にいたりする。


「よし! 今回はちゃんと歩けた!」

『ここを通勤に使っている奴は大変だな』

「大丈夫ですよ。露店が湧き出てこない時間に出勤しますから」


 なるほどね。でも露店は湧き出てこないぞ、ナズナ。


 しばらく歩いていると小さな店が並ぶ通りになるがほとんどシャッターが閉まっている。開いているお店もその場つなぎの手作り感が溢れる店内となっている。

 そのお店の中でサトウがやっている【ランプ堂】も開いていた。



 そこを通り過ぎるとナズナは改札を抜けてホームへ向かう。その間も客引きや商売根性丸出しの奴らが声をかけてくる。ナズナはすべて無視して地下鉄に乗り込んだ。

 五両編成の電車が来たが、三両は窓のない黒塗りの車両だった。ナズナは二両目に乗り込んで、席に座る。


『なあ、ナズナ。後ろの車両って貨物なの?』

「この地下鉄の駅の五線は隣の県に繋がって、農産物などを運んでます」

『ふうん、だからここら辺に物流センターとか市場が多いのか……』


 ちなみに物流センターや市場と言っても、廃校になった体育館などの施設を使っている。人生微糖やあの通りの飲み屋のお客のほとんどがそこで仕事していると言っても過言ではない。

 ふと電車の中の電球が切れそうでジイージイーッと音を立てながら一瞬暗くなった。そもそも電車の中も明かりが少なく薄暗い。


『電車の中もそうだけど、地下鉄の駅って薄暗いよな』

「何処もかしこも電力不足なんですよ」


 端末機を出しながら、うんざりした口調でナズナは「つい最近も停電があったし」と言った。

 しばらくナズナはぼんやりしながら電車が走り出すのを待った。ようやく走り出し、ガタガタと音を立てる。

 ナズナはチラッと窓を見ながら「はあ、いつになったら、借金全部返せるんだろう」と呟いた。なんてことない独り言のように言ったから、危うく聞き流してしまいそうになった。


『え? ナズナって借金あるの?』

「あー、はい。フキノと一緒に返しているんです。だから毎日、バイトしないと」

『……誰に借金しているんだ?』

「リュウドウさんです」


 特に悲惨な風に言わず、普通にナズナは答えたが俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 ……リュウドウ、お前、こんな幼気な武装機体兵にお金を貸しているのか? 渡る世間はマジで鬼ばかりだ。



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