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脳しか無い俺はレモンクラッシュな現実を見る 【第二話 アウラな青春 完結】  作者: 恵京玖
【第一話】戦争が終わったのに電脳疎開している少女を現実に戻せ!
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リュウドウの空間にコナツを連れ込む


 シープシティからリュウドウの空間に戻ってきてすぐ、トウマがクルクルと猫が尻尾を追いかけているような動きをする。すると中心でトランクのようなものが出来た。


『完成したよ。トランク型の空間』


 そう言ってトランクを開けると中は広く明るいが何にもなかった。トウマは『コナツ一人は入れるくらい大きいよ』と言う。


『これをリュウドウの空間に置いておいておけば大丈夫さ』

『ずっとこのまま、中に入っているのはきついだろ?』

『リュウドウはしょっちゅう空間を見ているわけないし、見ると分かったらすぐに中に入れば大丈夫さ』


 コナツは『あの、お二人さんって何者なんですか』と不安そうな顔で言った。


『トランクを作った猫さんはお話しできないみたいだけど……』

『一応、ちゃんとした人なんだ。でも喋れないし、二足歩行が出来ない。それと俺達は脳しかなくって、ついでに記憶もない状態なんだよ。しかも知り合いの電脳空間に間借りしていているんだ。そしてトウマは一部の人にしか声が聞こえない状況なんだ』

『えー……、私よりヤバいんじゃないんですか?』


 うーん、電脳疎開している子に同情されてしまった。確かに彼女よりも悲惨だが、俺は思いつく限りの自由は得ている。


『でも君は体があるのに現実に戻れないから、緊急事態だよ』

『助けてくれるんですか?』

『困っているようだしね。脳しか無いけど全力でやるさ』


 と言うか都市伝説の電脳疎開を目の当たりにしてちょっと好奇心が湧いてきた。

 コナツは深々とお辞儀して『ありがとうございます』と言った。その時、コナツがとめている白い花の髪留めが見えた。


 リュウドウの空間に戻って証拠隠滅が終わると、すぐに着信音が響いた。心臓が飛び出るくらいビビりながら見るとリュウドウだった。


「おい! ユウゴ! 緊急のメールが来ているらしいんだが?」

『はあ? ちょっと待った、今見るから……』

「いや、俺が見る」


 そう言ってスピーカー通話にして、タブレット端末を操作する。相当、緊急性の高い物だったんだなって他人事のように思った。


「おーい! 全然、整理で来てねえじゃん!」

『すいません』

「お、あった」


 いくつものダイレクトメールの中からリュウドウは見つけた。来た時間を見ると一時間前だった。コナツと会っていた時間だなと思いつつ、緊急のメールを見る。


【ツチミ ユウマさんの中学時代の写真です。よろしくお願いいたします】


 この文と一緒に制服を着た子供たちが三列に並んだ写真がついていた。画像が荒く、何回もコピーを繰り返されたんだろうと思われる。そして一人の少年に赤い丸がついている。どうやら彼がツチミ ユウマのようだ。

 それを見ながらリュウドウは説明をした。


「ツチミ ユウマって言う医師だった爺さんがいるんだよ。今は引退して介護されながら戦争で生き残った家族と生きている。武装機体兵の治療も出来る爺さんで色々世話になったからから、断れねえんだ」

『どんな依頼?』

「家族写真を探してほしい」


 なんだ、簡単じゃねえか。戦後の今、電脳空間で戦前の写真や動画をどんどん保存して、公開している空間がある。亡くなった人が生きていた証を探す人が多いからだ。ちょっと検索かければ行けるだろう。


「今の家族じゃねえぞ。爺さんが子供の頃の家族写真だ。なんでも母親が昔のネットに写真をいくつか載せていたらしい」

『ふうん。でも頑張ればいけるんじゃね?』

「……お前、旧検索エンジン暴走事件を知らないんだな」


 哀れみを持った声でリュウドウが言うので、正直に『何それ?』と聞いた。


「説明が長くなるから、明日、ナズナと一緒に家族写真を探す時に聞いてくれ」


 リュウドウはタップして写真を動かしながら言い、通話を切った。俺も一緒に探さなきゃいけないのか。

 忙しない奴と思いつつ、ツチミの写真がついているメールは保護して、すぐに見れるようにした。そして偉そうなリュウドウにも頭が上がらない人っているんだなと思った。


 その後、俺は送られてきたダイレクトメールをすべてゴミ箱に入れていると、トランクからトウマが得意げな顔を出して『バレなかったね』と言った。


『リュウドウ、このトランクに気づかなかったな』

『急いでいたんだろ』


 とはいえリュウドウがこの空間をじっくりは見ないので、多分大丈夫そうだ。こうしてリュウドウがここを見る時は緊急のメールが来る時だけだし、最初の話では空間は自由に使っていいと言っていたので、トウマは色々インテリアを増やしている。

 ふと、トランクの中を見つめて『コナツは?』と聞くと、トウマは『フリーダムジャーナルをずっと見ている』と答えた。電脳疎開空間は他のサイトや空間に入れなかったのだから、コナツは浦島太郎状態なのだ。気になる情報がいっぱいだろう。

 ニマニマと悪い笑みを浮かべてトウマが『ねえ、ユウゴ』と口を開く。


『コナツが暇にならないように、漫画サイトやアニメ動画サイトとか定期購読しない? このままだとつまらないよ。あ、あとね、簡単なゲームとかも買おうよ』

『自分が欲しいだけだろ。だったら自分で買う事だな』


 俺が一蹴するとトウマは口をへの字に曲げて、沸騰している尻尾をぶんぶん振って椅子に寝っ転がってしまった。トウマ、拗ねても無駄だ。働かざる者、遊ぶべからずさ。





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