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脳しか無い俺はレモンクラッシュな現実を見る 【第二話 アウラな青春 完結】  作者: 恵京玖
【第一話】戦争が終わったのに電脳疎開している少女を現実に戻せ!
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トキオ・シティにレモンクラッシュのアバターで行く


 次の日、喧しい目覚まし音は無くすっきり快適に起きた。


『あー、よく寝た。朝の十一時か』


 リュウドウやナズナ達が聞けば「寝すぎ」と言われそうだが、俺は基本的に夜型なのだ。

 一方、トウマはアバターを作っていた。こいつは突然、徹夜でアバターを作ったり、途中で飽きたりと気まぐれに制作をしているのだが、今回は完成できるのだろうか?

 俺は一人でメールボックスの整理を行う。ダイレクトメールなどが大量にあるなか、また例のメールを見つけた。


【お願いです。電脳疎開から助けてください。場所はトキオ・シティ、タケカミ通りの小道】


 何度も黙読して、目をつぶる。リュウドウ曰く、電脳疎開は都市伝説で嘘だったという。だとしたら俺に届いたこのメールも悪戯なんだろう。でもなんで場所まで書いてあるんだ? バカ面下げて来た俺に『嘘だよー、バーカ』って言うのか? それともボケーッと待っている俺を影で笑うためだろうか? どっちにしろ、暇大魔神の仕業だろう。


 リュウドウも仕事中だし、どうしようかな……と思っていると、後ろでトウマが『出来た!』と騒いでいた。どうやら、作っていたアバターが出来上がったようだ。

 トウマが作ったアバターを見て、思わず『え?』と声が出た。

 眼が冴えるような蛍光色の黄色のパンツと頭には同じ色のハット、黒いワイシャツと黄色いベストを着た八頭身の男、レモンクラッシュによく似たアバターだった。


『トウマ、これって……』

『そう! いいでしょ! レモンクラッシュのアバターが出来たんだよ!』


 得意げに自慢するトウマ。かつて俺達が身に着けていたらしいアバターをもう一度、改めて作ったようだ。

 アバターを改めて見ると、足りないものがある事に気が付いた。


『フフン、ユウゴは気が付いたようだね。トレードマークの黄色のジャケットが無いだろ? でも心配ご無用!』


 そう言って、トウマはレモンクラッシュのアバターにくっついたと思ったら黄色のジャケットに変った。


『そう、あのジャケットはアバターで、ダンスにあわせてジャケットが風でなびいたり、しわがついたりしてリアルで立体的でかっこいいダンスに見せているんだよ。通常のアバターが着ている服はただ着ている、身に着けているだけって感じだからね』


 俺は早口で言うトウマの話に『はあ』と相打ちを打った。あまり理解していないし、電脳空間での服の動きなんて見たことない。


『出来て嬉しいな。出来るならもっと早く作りたかったけど完成できたから、よし! そしておやすみ!』

『いや、ちょっと待った! まだ寝ないで!』


 トウマが自分の定位置である椅子に丸まって眠ろうとするのを文字通り叩き起こす。叩いても痛くないはずだが、トウマは非常に迷惑そうな顔で俺を見た。だか気にせず、例のメールを見せる。


『またこのメールが来たんだ。今度は場所指定で』

『僕もリュウドウの話を聞いたよ。悪戯だって』

『俺も悪戯だと思う。でもさ、もし本当に助けを求めていたらさ』

『確かに後味が悪いね』


 トウマはふっと目線とそらして、レモンクラッシュのアバターを見た。そして『分かった、行こう!』と言ってくれた。


『このレモンクラッシュのアバターを着て!』

『え? このすかしたアバターで行くの?』


 罰ゲームじゃねえか? しかもチラッと調べたことがあるがレモンクラッシュって悪い意味で結構有名であり、電脳空間やサイトで色々取り上げられてちょっとした玩具のようだった。

 事件後すぐにレモンクラッシュに似せたアバターを着た人物が通ると、かなり注目されて通行が出来ない状況にもなったとも言う。でも今は事件から十年以上も経っているし、そんなネタもやりつくしているだろうし、人通りも少ないから大丈夫だろうとトウマが言った。


『テストが必要だから、ほら、着て着て』


 人命救助のためだ……と思いつつ、アバターを着た。だがこれで悪戯だったら、ものすごく馬鹿っぽいと思った。



【電脳空間 トキオ・シティにようこそ】


 入った瞬間に俺の目の前にそんなウィンドウが出て、細かい字でルールが記載されている。ナナメ読みを超えて、もはや読まずにスライドしていって【ウィンドウを閉じる】のボタンを押した。


 トキオ・シティのシンボルの真っ赤なトキオタワーが見えた。そしてしばらく歩くとアサクノ寺やスクランブル交差点などトキオの観光名所が巡れる。それにしても、この空間、ものすごくリアルだ。しかもリアルだけではなく、ラメのようなキラキラとした光があって全体的に綺麗なのだ。更にトウマが言うには朝昼夜も存在し、また季節によって植物や空模様も変わり、そして季節限定のイベントもあると言う。


 現実世界ではこういった観光名所はほとんど崩壊してしまった。もう二度と現実では復元できないかもしれないと言われているので、みんなが来たがるのも無理はない。

 そんな事を考えながらトキオ・シティのタケカミ通りへと向かう。平日のお昼なので人通りは少ない。電脳空間の平日のピークタイムは仕事や学校が終わった夕方からだ。


『それにしても精密な空間だな。現実っぽいよ。マスコット風のアバターが浮くくらいリアルだ』

『作ったハルキが完璧主義なんだよ。とはいえ、写真以上に綺麗な町並みをどうやって作ったのか僕も分からない』


 ちょこちょこ解説を挟むジャケットのトウマ。そして相変わらず他のアバターには聞こえないようだ。

 種類豊富なアバターのアクセサリーや服のお店等が立ち並ぶ中で、一部、奇妙な場所があった。空き店舗が縦半分に切られ、道が出来ていた。


『バグだな。まあ、ほっておいてもすぐに処理するだろうよ』

『トウマ、誰か立っているぞ』


 新たに出来たバグの道に人影があった。

 ちょっと悩んだが人影の方に歩いて行った。歩く俺に『おい! 罠だって!』とトウマが言うが、俺は無視する。


 近づいて見ると普通の少女のアバターだった。長めの金髪に水色のカチューシャ、同じ色のワンピースに白いエプロンを身に着けている。


『どこにでもいるアバターだな。迷い込んだのかな?』


 少女のアバターに触れるくらいの近さまで来ると、彼女は俺の方を見た。

 そしてすぐに不安そうな顔で俺を見て口を開く。


『あ、あなたが、私を現実に戻してくれる人ですか?』


 必死そうで切羽詰まった口調。それだけで俺はあのメールは悪戯じゃないと思った。


『あの、どちら様?』

『私はスズミヤ コナツです。えっと……今の年齢は二十歳で……』


 少女はしどろもどろに答えるが、ぎこちない。俺の質問になんて答えればいいか、分からないようだ。

 一方トウマは『え? スズミヤ コナツってベルの社長のスズミヤ ハルキの行方不明の妹じゃん』と驚いていた。


『ハルキお兄さんを知っているんですか!』


 コナツは俺に掴みかかる勢いで聞いてくる。俺もトウマもびっくりして黙っていると、更にコナツはまくし立てた。


『それから、私、今まで電脳疎開をしていました』


 コナツから衝撃的な言葉が飛び出した瞬間、薄暗い小道がスッと更に暗くなった。プログラミングで出来た太陽光に雲がかかったのか? と思って上を見上げたら、花と目が合った。


 いや、この表現は違う。ユリの花びらの中にある巨大な目玉と目が合った。


 悲鳴さえ出ないくらいの恐ろしさであった。しかも目玉は空き店舗の隙間の小道にいる俺達を見下ろしている。じっと見ている。

 一回を逸らして、もう一度見る。もしかしてこれってここの管理人のハルキのアバター、花クラゲじゃないのか? あんなにきれいな花なのに中身が目玉ってホラーじゃん。

 ぞわぞわっとした恐怖が背筋を凍らせる。トウマも絶句している。


『バグ処理を始めます』



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