アウラな青春
さてと休憩しようと思っていると、スダチから連絡があった。
「おい、ユウゴ。リュウドウはまだか?」
『あれ? もうシスマを軍に引き渡したぞ』
「まだ来ねえんだよ」
スダチの言葉に後ろから「待ち合わせ場所、間違えてんじゃない?」とセトの声が聞こえてきた。シラヌイとスダチと一緒にシスマが頼んだ引っ越し業者のフリをしてもらったのだ。ちなみに彼が頼んだ引っ越し業者はオオツが勝手にキャンセルしている。
俺は彼らが乗る車のドライブレコーダーを起動させて、様子を見る。
セトは体を車体に預けながら背伸びして「はあ、全く最悪の休日だったわ」と言った。
「はあ、スパダリを読んでいる途中で呼び出されちゃったんだもの」
「……まだ連載しているんだ、あのタコ」
「タコじゃない! 地球移住系火星人なの! クリストファ―は! 最新作は『スパダリ火星人のヌネヌネ触手宇宙旅』よ!」
「相変わらず、公共の場で声に出して言ったらいけない題名だな」
どうやら、あのセトが買っていたあの本をスダチは知っているらしく「しぶといタコだな」と呟き、「だからタコじゃないって!」と怒る。
ギャンギャンと言い争いをするセトとスダチ、面倒くさそうにため息をつくシラヌイ。
彼らを見て先日、アクアリウム・クオリアに呼ばれた時のことを思い出した。いつものように金魚が【アウラ】を使用していた闇医者について事後報告をしていた。
その時、イトジマが【アウラ】を使用したが、洗脳されなかった理由を聞かされた。
『彼らが使用していた【アウラ】にAIが搭載されていました。このAIを解析すると画像を取り込むと、対象者の過去を自動的に予想させて、追体験のようなことをさせることが出来るようです』
『随分とAIも進化しているな』
『いいえ。逆にAIを使ったから、イトジマさんは洗脳できなかったのです』
金魚はゆらゆらと泳ぎ、液体猫のトウマは獲物を狙う目で見ている。俺は話の続きを聞く。
『【アウラ】に入っていたAIには戦前までの過去を大雑把に学習しかしていませんでした』
『ん? どういう事?』
『戦前までは普通に小学校、中学校、高校、大学へ行くと言うのが十八歳までの通過儀礼みたいなものでした。ところが戦時中、学校は閉鎖されてしまいました。イトジマさんは疎開場所で【トキオ奪還】と言うグループを作ったそうですね』
『らしいな』
『その準備の画像を取り込んだ結果、AIはその画像を文化祭準備と思い込み、文化祭準備の追体験をする空間を作り上げました。実際に文化祭さえやった事は無いため、彼らを洗脳できなかったようです』
皮肉気に金魚は言い、トウマは『AIのくせに時代に取り残されてんじゃん』と笑った。
『元々【アウラ】と言うのは芸術用語です。【今】【ここに】と言うオリジナルが生み出す権威や重みって言う意味らしいです。ですが技術の発達によって、復元できるようになりました。昔は演奏者が舞台で奏でているのを聞くことだけでしか音楽を楽しめませんでした。しかし技術の発達によって演奏は録音され、コンパクトなメモリーで保存され、いつでもどこでも聞けるようになりました。そうなるとその場で聴けた音楽と言う芸術は、どんな場所でも聞けるようになった。これを【アウラの凋落】と言われます。ネガティブに言っていますが、当時はポジティブな意味でつけられていました』
『へえ、そうなんだ』
『それと同じように、一度きりの人生で特別な体験させると言う意味で製作者たちは【アウラ】を生み出しました。これを使って、相手を篭絡させたり絶望させたりして、洗脳させていきます。だから【アウラ】は電脳兵器として活躍してきたのです』
誰に使ったのか、俺は聞かず金魚の話しを聞く。
『でも彼らにとって、AIすら算出できない【アウラ】な日々だったんでしょう』
『ふうん、なるほどね。でもこの国ではそう言うのを【一期一会】って言うよね』
トウマがちょっと生意気にそう言い、金魚は鼻で笑った。
俺がそんな話しを思い出しているとリュウドウがやってきて「分かりづらい場所に停めやがって」とぶつくさ言いながらやってきた。
「お疲れー、リュウドウ」
「全く、ここまで来るのに大変だったぞ!」
「もうお疲れか。年だな」
スダチの言葉にリュウドウは「うるせー!」と怒鳴って、シラヌイに手を出した。
「俺が運転する」
「お爺さん、大丈夫? 暴走しない?」
「しねえわ! セト! 馬鹿にするな!」
セトが近づいて「本当に?」と言い、リュウドウは「うるせえ」と怒鳴る。やれやれと言わんばかりにシラヌイは車のカギを渡す。するとすぐさま車に乗り込んで、エンジンをかけて発進させた。
「あ、おい! こら! まだ俺達が乗っていないぞ!」
「うるせー。若いんだから走って帰れ!」
発進させた車を追いかけて、乗り込むスダチとセトとシラヌイ。ただこの車は軽トラなので乗る場所は荷台しか無いのだが……。
「あーもう、乗り心地が悪い」
「おい、リュウドウ! 助手席に乗せろ!」
「うるせえな、と言うかどうして軽トラなんだよ。もうちょっとマシな車は無かったのか? シラヌイ」
「これしか無かったんでーす」
文句をタラタラ言うスダチとセト、怒鳴るリュウドウに、面倒くさそうな顔になるシラヌイ。だがしばらくして荷台に乗った三人は色々と話しをする。
「というかさー、俺に断りもなく就職してんじゃねえぞ。セトは派遣巡査でシラヌイは運送会社に就職しやがって」
「派遣だから、いつ切られるか分かったもんじゃないけど。そもそも何であんたに断り入れなきゃいけないのよ」
「悪いな、スダチ。俺も安定した暮らしがしたいんだよ」
「シラヌイ、お前がそれを言うか? 昔、バイト先の社長の家にトラックを突っ込ませたお前が」
嘘だろ……って思い、シラヌイの言葉を待っていると「あの頃は血気盛んだったよ」と言い、否定しなかった。いや、マジかい!
「トラックを突っ込ませるって堅気じゃないだろ」
「その話を聞くと、今でも笑えるんだけど」
「だって給料半年も出なかったんだぜ。やってられねえよ。しかも未成年でトラックを走らせていたのに」
廃墟の建物が並び、舗装されていないアスファルトの道路。
大笑いをする若者達を乗せて走る軽トラック。
確かに今、ここにしかないアウラな青春な気がした。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
これにて二話は終わりです。
三話は、多分来年の冬か春頃になります