表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/106

彼らが与える罰


 やがてシスマと彼の家財道具を乗せたトラックは、キミンチ内の大型の商業ビルの地下駐車場へと入って行った。もちろん駐車場は暗く、監視カメラや駐車料金を請求する機材は動いていない。トラックはヘッドライトをつけて更に地下へと進んでいく。

 知らない場所へと向かっているトラックにシスマはパニックになっていた。電子端末を取り出そうとするが、電波が無いので使えず真っ青な顔になっていた。

 やがて引っ越しスタッフのフリをしたリュウドウは口を開く。


「色々と話していたな。え? 【あんたがズレてんの。これが普通なんだよ】だっけ? さすがに俺達と立場が違う人間だな。それから【こんなお先真っ暗だから、世界を変えたいって思う奴に期待するんだよ】か……。なるほどねー。こういった理由でトキオ奪還に入るとか、武装機体兵を捌いて若者に機体持ちにさせる闇医者になるのか、おじさんは勉強になったよ」


 馬鹿にしたような口調でリュウドウは言い、パニックになっていたがすぐに落ち着いたシスマは黙って聞いていた。

 想定外の事が起こっているがシスマは落ち着いていた。


「だがお先真っ暗すぎてテロリストに入るのも、なかなかのリスクだぜ。それからなんでケガもしていないのに、機体持ちになろうとするのもよく分からない。体に障害が残る大けがを負った人間が武装機体兵の体を取り付けるルールだったはずだ」

「あんたには分からないよ」

「何、気障っぽく言ってんだよ。他の奴らは大方、武装機体兵とおんなじくらいの力が欲しいと思ってお前は取り付けたんだろ。しかも手術もお前がやっているんじゃなくて、医療AI機械がやっていたんだな。そこは自分でやろうよ、闇医者って名乗ってんだから。一応、医大希望の浪人生だったっけ、あんた」

「……」

「しかも術後は最悪じゃねえか。足がすっぽ抜けたりする奴らとか、洗脳されただけの奴とか。闇医者だからしょうがないかもしれないが、もっとマシにやってやれよ。泣くぜ、大昔に人気だった闇医者の漫画の主人公が」


 シスマは鼻で笑って「説教のつもり?」と言う。どうやら自分はまだ捕まらないと言う自信があるようだ。


「俺をバカにしてもいいのか? 俺の父は……」

「警察のお偉いさんだっけ? 軍に回収されるはずだった武装機体兵も殺しまくったり、違法な手術を何回しても自分は罪に問われないよって言いたいの?」


 馬鹿にしたようにリュウドウは言うが、シスマは分かってんじゃんとばかりにニヤっと笑う。

 例え、ハンゾウ達が頑張って集めた証拠を突き詰めても彼は罪に問われない。例え訴えても、恐らくうやむやになって終わるだろう。

 では電脳の中で訴えても、だからどうしたって言う反応しかない。例えトキオ奪還が地下鉄や居住区を混乱に陥れたとしても、それはセキュリティが甘いと言われてしまうだけだろう。

 誰もこいつに罪に問えることが出来ないのだ。


「おこがましいけどさ、俺たちの方法でお前に罰を与えるよ」

「はあ? どういう事?」

「キミンチに入れば、警察は追ってはこない無法地帯」

「それが?」

「お前、ちゃんと理解している? もしキミンチに迷い込んだら、誰も助けに来てくれないって事だ。……おいおい、どうした? 顔色が悪いようだな。大丈夫か」


 リュウドウの言葉にシスマはもう一度、電子端末を操作する。リュウドウに「お使いのデバイスは異常がきたしているだろ?」とふざけた感じで言い、シスマは悪態をつく。

 すでにシスマの電子端末はハックされて壊れている。そもそも引っ越し業者と一緒に行けという親族から連絡を受けていたようだが、あれはオオツが作った偽の電話だ。彼を引っ越し先まで届ける覆面のボディーガード達は、本人は次の日に移動と伝えてある。


「ふざけるな! 俺を……」

「だから知っているよ。警察の偉い人だって。だが、この子にして、この親あり……あれ? 逆か? どうでもいいか。それで警察も随分とヤバい物を使っていたんだよ。お前も使っていたじゃないか、地下鉄で立てこもった奴や誘拐されていたイトジマって奴を洗脳させた電脳空間。あれ、かなりヤバい奴らしくて、使用禁止で軍や電脳関係者は通達していたのに、警察は普通に使っちゃったんだよ」

「はあ、……俺に、関係あるの?」

「お前は患者に使ったじゃないか。洗脳して機体持ちになったと思い込ませたんだろ?」

「……あれは、電脳関係に詳しい、警察の友達が……」


 しどろもどろになるシスマにリュウドウはトラックを停めて、半笑いで話し出す。ヘッドライトを消してしまうと真っ暗になってしまった。


「その電脳空間で警察はうまい事、罪を擦り付けるように電脳空間で洗脳して誘導していたのさ。もしかしたら冤罪になっている事件とかもあるかもな。例えば最初に起こしたトキオ奪還事件の首謀者のイトジマのようにね。まあ、それも含めて軍は調査するらしいから続報を期待するよ。あれ? なんで分かったのかと言うと、お前らが捌こうとしたキュウリ、って分からないかネイビーの髪の武装機体兵の機体に付いているメモリーにその空間があったからさ。ちゃんと証拠は隠滅しとけよ。まあ、消去しても復活させられるらしいけど」


 武装機体兵の機体には巨大なメモリーが付いており、ナズナやフキノは大量の映画などの動画を詰め込んでいる。そしてこのメモリーは電脳空間のデータも保存できるのだ。

 そしてキュウリの子のメモリーには【アウラ】が入っていたのだ。


「あんたに言っても仕方が無いか。それじゃあな」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。た、助けてくれないか……俺」

「プライド無いな、お前」


 そう言ってリュウドウはトラックから出た。駐車場は真っ暗なので懐中電灯を灯すと、シスマにも懐中電灯を投げて渡した。


「これ、餞別な」

「ちょ、ちょっと、待って」

「あとトラックなんだけど指紋認証のカギは俺が持っているから、これを動かして逃げようと思っても動かないから」


 なんとも情けない戸惑った声を出すシスマにリュウドウは鼻で笑う。

 まさかキミンチに置き去りにされるなんて思いもよらなかっただろう。これじゃあ、拘置所か刑務所にいた方がまだマシである。


「こ、こんな事してパパが許さないと思うぞ」

「パパンも違法捜査を放置したことを軍や政府に知られて忙しいと思うぞ」

「ば、馬鹿にするな!」

「お前は世間をバカにするなよ」


 お前が言うなと言うセリフをリュウドウは吐いて、「そんじゃ、頑張れ」と謎の応援をしてトラックのドアを閉めた。

 懐中電灯を頼りにリュウドウが歩いているのを、シスマはどうする事も出来ず呆然と眺めていた。


 オオツ曰く、今後警察と軍、コセンスイと仲良く話し合いをする。【アウラ】の使用禁止、もしくは使用制限などを持ちかけるんだと言う。果たして穏便にお話が出来るだろうか? ちなみにシスマは仲良く話し合いをするための大切な人質だ。

 なのでキミンチにシスマを置き去りにはしているが、軍の人や武装機体兵が近くで待機している。頃合いを見計らって保護する予定だ。でも罰と言う意味もあるから【すぐに】ではないが。

 そんな事を思い出していると、オオツから連絡があった。


「お疲れ様です、ユウゴさん」

『今、シスマを予定の場所に置いておいたから』

「はい。確認しました」

『それじゃ、あとはよろしく』

 

 そう言って俺は電話と軽くパニックになって縮こまっているシスマを映し出している車内カメラを切った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ