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新天地へ行こう?


「はあ? 迎えに来れない?」


 二十代半ばくらいの青年が電子端末で通話をしていた。時折、声を荒げていたが、結局「分かった」と諦めた感じで了承した。

 その時「大丈夫ですか?」と言う声が聞こえてきた。


「すいません。引っ越し先まで乗せてもらってもいいでしょうか?」

「あ、大丈夫ですよ。シスマ様」


 大きなトラックには家財道具が多く積まれていた。一人暮らしにしては多く、特に電子機器類を占めている。それを二台のトラックに少々雑に入れていくスタッフ。それに眉をひそめるがシスマは何も言わなかった。

 すべての家財道具を入れて、業者はトラックの運転席に乗った。シスマもチラッと住んでいたアパートを見て、助手席に乗った。

 そしてトラックは走り出した。



 しばらく走って行くと崩壊した建物が見えてきた。それをシスマはぼんやりとした目で見る。運転するスタッフは「早くトキオが元に戻るといいですねー」と言いうと、シスマは「本当は思っていないでしょう?」とバカにしたような口調で返した。


「いやいや、思ってますよ」

「どうでもいいよ。と言うか数人ほど機体持ちでしょ、スタッフ」


 シスマがそう言うとスタッフは苦笑いをして「あ、バレました?」と言った。この態度に苛ついたのか、「もしかして元少年兵ですか?」と聞いた。


「元青少年軍事訓練生ですよ。軍人では無いです」

「同じような物でしょう。と言うか彼らって結構優遇されていますよね。戦後、軍に残っている人は結構な地位に就いていたり、軍を抜けても優先的に公務員とかの仕事がすぐに見つかる。しかも武装機体兵と対等な力関係だから、いろんな仕事に就けて選び放題なんですよ」

「だけど問題を起こせば矯正院ですぐに入れられて、簡単には出れないらしいですよ。それに優遇されていたとしても、戦争中のトラウマなどの問題で働けないって人もいるみたいですし」


 シスマは「詳しいですね」と言い、運転するスタッフは「後輩から聞いていますので」と答えた。

 シスマは大きなため息をついて「愚痴っていいですか?」と言い、スタッフの返事を待たずに喋り続けた。


「戦争が終わって、また普通の生活が戻れるって思っていたんだよ、みんな。俺もそうだ。でも実際は、戦時中と地続きな生活だ。インフレが爆発して高校や大学の学費も高くて、行けない。だったら仕事をしようにも無いんだ。もう戦時中よりも悲惨だよ」

「……一応、仕事はありますよ。農業工業とかこういった運送業とか」

「はあ? 馬鹿じゃねえの? そんなの全部、武装機体兵がやっているだろ。ほとんど寝ずに働いて、飯も食わずに動けるんだから、誰だってそいつら使うだろ?」


 シスマは怒りに任せて言う。


「そもそもさー、みんな人を簡単に殺せる武装機体兵と一緒に仕事なんてしたくないわけ。親だって言っているよ。あいつらと仕事するくらいなら、借金して大学まで行った方が良いってね。二十代で高校専門校に入りなおしたり、何回も何回も落ちて大学浪人したり、でもみんな勉強なんてしていないね。したって意味ないし、大学を卒業したって、また公務員やら企業の求人で倍率の高い所を目指さないといけない」

「……俺の知り合いは高認の試験を受けた後、就職した人がいますよ」

「高卒認定試験で合格して就職するなんて、ヤバいな。そんな事を考える事すら俺の家では無いよ。戦前と同じように大学まで行って、好条件の就職先に着く。みんなそう考えているのさ」

「そう言うもんですか」

「あんたがズレてんの。これが普通なんだよ。だけど、この【普通】が難しいんだ。こんなお先真っ暗だから、世界を変えたいって思う奴に期待するんだよ」


 その時、シスマは「あれ?」と言って車窓を見ながら気が付いた。


「何でキミンチに入っているんだ?」

「……」


 引っ越しスタッフのフリをしたリュウドウは何も言わずトラックを走って行った。




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