お勤め、ご苦労様です!
「お勤めご苦労」
「うるせえわ、ハンゾウ」
スダチは不満そうにそう言いながらマレ飯の雑炊を食べていた。ロッカーを破壊した件で警察にスダチは連れていかれたが、ハンゾウや軍が真犯人である闇医者たちと証拠を持ってきたので次の日、釈放となった。
そして警察の見回りも終了したので、地下鉄構内は以前と変わらない賑やかさが戻った。勝手に広げている露店や路上販売員が大声を出して呼びかけをしている。
ここマレ飯もいつもの場所で営業しているが、スダチとハンゾウと俺が操作しているドラム缶ロボットしかいない。【祝・営業再開】とか書いてあるのに。
「と言うか、俺が捕まるって予想ついただろ」
「つかないさ。今回、オオツって言うコセンスイの奴らも出張ってきたからな。それから、モヤシ君とか」
モヤシ君が居住区に現れたせいでパニックになって、スダチが見回りする羽目になっちゃったからな。
そしてモヤシ君の存在は闇医者も警察も予想外だった。ゾンビでパニックになっている居住区に潜んでいた奴らは、非常に難しい選択をする。闇医者を続けるか、逃げるか。……難しくは、無いか。普通に逃げる選択肢をすれば捕まらなかった。
だが闇医者は逃げなかった。首謀者が上級市民の子だからとか、あと機体持ちになりたい奴が多かったからなのか、そのまま営業をした。
そして【アウラ】を探しているオオツとエッチングは密かに居住区の住人の電子端末をハッキングする犯罪を行っていた。本人たちは捜査と言い張っているけど。
「とりあえず、リサにこれ」
「お、ありがとう。リサも喜ぶぜ」
そう言ってハンゾウは地下鉄構内にあるタバコ屋が販売しているタバコ十二箱を渡した。闇医者の一斉捜査の日は人生微糖では店長であるリサのみのワンオペだったからな。とはいえ、常連にお酒一杯無料で働かせていたらしいが。
そんな時、俺の操作しているドラム缶ロボットのカメラにアンズが見えた。ニコニコ笑って持っている物を見せてくれた。
「じゃーん、いいだろう! ユウゴ、アイスだぜ! しかもコンビニの!」
目を輝かせてアンズは言い、嬉しそうに齧る。オレンジ色なのでミカン味だろう。
アンズが来た方向を見るとナズナやフキノやコナ、リュカとクラウやラパンなど一斉捜査の時に協力した武装機体兵はハンゾウがくれたアイスを食べている。コンビニ、しかもアイスなんて武装機体兵は珍しいから全員嬉しそうだ。
そして俺はもう口も胃袋もないけれど、この美味しそうなアイスには『いいなあ』と呟いた。俺の言葉に得意げな笑みを見せながら、アンズはスダチにも「じゃーん、いいでしょう」と自慢していた。
「いいな。一口、くれよ」
「ダメー」
スダチのおねだりにアンズは逃げて、みんなの所に戻ってアイスを食べる。何だか、こうして見ると普通の子だ。
それを羨ましそうな目で見ながらスダチは言う。
「はあ、つまんねーの。闇医者事件は解決しちゃって」
「いや、まだ終わってはいないぞ」
そう。まだ終わってはいない。
「俺たちは、ロッカーを蹴っていた真犯人を追っていたら闇医者の関係者もいたって感じで捕まえただけだ」
「……つまり、シスマ本人はまだ居住区にいるって事か」
スダチは質の悪い笑みを浮かべているとマレ飯の亭主が「悪だくみなら別の所でやってくんねえかな」と呟く。
「しかもリョウを連れ出したんだろ。オリバに話しを聞きたいがために」
「あれ? バレましたか……」
「おう。ジョニとマックが口を滑らした。リョウは誤魔化そうとしたが、結局喋った」
ハンゾウは気まずそうに目を逸らしながら「後で菓子折りを持って行きます」と言う。だが、亭主は「だったら、なんか注文してくれ」と返したので、ハンゾウは注文する。
するとスダチが食べていた雑炊ではなく茶色の楕円形の物だった
「お、ハンバーグだ」
「武装機体兵どもが見ねえうちに食べちまいな。ここでまた開店できたのはあんたのおかげだからな」
ちょっと驚いていたハンゾウにもハンバーグを食べながら「すまんな」と言った。マレ飯の亭主も気の利いたことをするな。
そんな時、「おい、ハンゾウ! スダチ!」と呼ぶリュウドウの声が聞こえてきた。怒気をはらんでいるがハンゾウもスダチもやっぱり来たかという顔をしており、マレ飯の亭主は「面倒な奴が来たな」と面倒くさそうに呟いた。
「おい、ハンゾウ! よくも俺の許可なくナズナ達を捜査に参加させたな! 慰謝料と使用料を払ってもらうぜ!」
パッと手を出してリュウドウはハンゾウに請求する。ナズナ達の心配ではない。お金をくれ、と言う意志がヒシヒシと伝わる。
それにハンゾウは「もう、払ったぞ」と言ってアイスを食べるナズナ達の方を見る。
「許可はリサに取ったし。と言うか、お前に連絡しても出なかったからな」
「当たり前だろ! シスマを追いかけていたら、警察に捕まったんだから!」
「じゃあ、勉強になったな。お偉いさんの子供を何も考えずに追いかけられたら怪しまれるって。人間日々勉強だから、これを報酬と思いな」
「いらねえよ!」
スダチは半笑いで「勉強にもなっていないじゃん」と言う。
チラッとリュウドウをハンゾウは見て「仕方ねえな」と言って、財布を取り出した。出てきた財布を見てリュウドウの顔はほころび、頭を下げてサッと手を差し出す。芸をしておひねりをもらうサルのようだな。
「じゃあ、これ、やるよ」
「さすが、ハンゾウ……。何これ?」
もらった物を見て、リュウドウは怪訝そうな顔になった。
「アイスを買ったコンビニでキャンペーンをやって福引をしたんだ。そしたらおにぎりの割引券が当たったから、これやるよ」
「いらねえよ! そもそもコンビニの商品なんて割引したって戦前の価格より高いじゃねえか!」
ギャアギャアと文句を漏らすリュウドウにハンゾウはため息をつきながら口を開く。
「それにまだ事件は終わっていねえし、ここからお前らならず者の仕事さ」
「まあ、そうだな」
リュウドウは悪魔のような笑みを浮かべ、スダチは鼻で笑う。マレ飯の亭主は「悪だくみなら別の所でやってくんねえかな」ともう一度呟いた。