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ロッカーを蹴っていた奴に会いに行こう③


 ここでキュウリの子は「ところで、あなたは何者でしょうか?」とオオツとモヤシ君を見ながら言う。


「そう言えば自己紹介していませんでしたね。私はオオツ。軍の電脳空間の整備をするコセンスイの者です」

「じゃあ、ユウゴさんの知り合いですか」

「面識は無いですけど、名前は知っていました。電脳戦争中ですが」

『俺は記憶喪失だったから、知らなかった』


 戦前、俺はレモンクラッシュって言う名前で、電脳空間で犯罪行為を繰り返して、捕まって、なぜか電脳戦争に徴兵されて、脳だけになってしまったのだ。ただ記憶喪失なので、全く覚えていない。トウマも電脳でアバターを作るのは覚えているが、電脳戦争については覚えていないようだ。


『って事は、あんたも電脳戦争に参加していたって事か』

「参加ってほどではありません。最年少で参加したんですが、すぐに脳へのダメージがひどくて、若いからやめた方が良いと言われて数回しかやっていませんね」

『結構、過酷みたいらしいな』

「あなたの肉体と記憶が無くなるくらいですからね。私も数回しか出ていなかったのに、耳が難聴になってしまいました。ちなみに、このヘッドフォンはお洒落な補聴器なんです」


 電脳戦争に参加すると障害が出るらしい。前に大手電脳空間企業【ベル】の社長も、電脳戦争に参加して歩行障害、弱視、声が出ないなどの障害や不調があった。

 一体何をしたのだろうか? って思って電脳戦争の事を詳しく調べても【過酷】【死者が多かった】とくらいしか情報が無い。サイバー攻撃から戦っていたんだろうけど、具体的な内容が無いのだ。アクアリウム・クオリアや軍の情報をハッキングしたりすればいいのかもしれないけど、さすがに俺やトウマ自身も命知らずじゃないのだ。

 だから電脳戦争から話題を変えて、『ところでモヤシ君とはどういう関係?』と聞いた。


『モヤシ君はコセンスイが作った電脳空間に入れるゾンビとか?』

「……コセンスイは関係ないです」

『え? じゃあ、アクアリウム・クオリア?』

「電脳関連で生み出されたんじゃないです。軍で開発しました」


 オオツの言葉にナズナは「どういう事?」と怪訝そうに聞く。みんな、話しを聞きたがっているのにオオツはしばらく黙っていた。少し沈黙があった後、彼女は話し始めた。


「戦争に身を投じる前に、ある研究者から『あなたの遺伝子を元にして武装機体兵を作りたい』と依頼を受けました」

『ん? 何で武装機体兵を作るうえで遺伝子が必要なんだ?』

「すべての種類の武装機体兵には遺伝子をモデルとなっている人間がいるんだよ。人並外れた運動神経を持った奴とかバチクソ頭がいいやつとかの遺伝子を元にして武装機体兵が作られているんだ」


 ハンゾウが解説した後、オオツの方を見て「あんたもモデルになったのか」と言った。彼女は頷いた。


「でもそこまで作られなかったようですし、ほとんどが戦時中に亡くなりました。今、生き残っているのが隣にいるモヤシ君だけです」


 相変わらずモヤシ君はドラム缶ロボットに座って、ぼんやりしている。フキノはジーっと見ていると手を振ってくれた。一方、フキノに抱き着いているナズナは「ひい!」と悲鳴を上げた。


「戦争が終わって遺伝子を提供した研究室から来てほしいと連絡があり、来たんです。そこで生まれる前に脳死してしまった武装機体兵をどうするか? と言う相談になりました」

『生まれる前に脳死になっている?』

「生まれる前、つまり武装機体兵が作られている途中で脳死してしまう子が出てしまうんですよ。割合的に五十人に一人って感じですね。でも武装機体兵は補助機が付いていて脳に大きな損傷しても生命維持だけは出来るんです。それでモヤシについてなんですが、手の施しようもないくらい脳死が進行していました。そこで研究者に安楽死させますか? って言われたんです」


 研究者の言葉は普通に思えた。脳死とは生命の死なのだ。普通だったら安楽死を選ぶだろう。

 だがオオツの顔が歪み、「それで私はものすごく悩みました」と言った。


「電脳戦争に参加した者達は、脳の処理が追い付かず肉体や五感を不要として壊死させ、脳だけになり、更に脳が攻撃の情報に追い付かず脳死します。私の友人、と言っても十歳以上も離れていますが彼女も脳死しました。でも最初に脳が死んだ状態である人間に対してどうしたらいいのか分からなかったんです」

『でも脳死して植物人間とかいるだろ? そういった人たちは親族の許可を得て死なせるってことはしているじゃん』

「そういうのも考えたんですが、ああいう人はベッドで機械につながれているじゃないですか。だけどモヤシ君に会った時、真っ青な顔で立っていたんで殺していいのかって考えてしまいました。この子は生きているように思えたんです」


 そしてオオツは「と言うか、人を殺したくなかったんですよ」と白状するように言った。


「遺伝子の提供を依頼された時点で考えれば良かったと思うんですけど、さっさと戦争が終わってほしいとしか考えていませんでした。契約時点で脳死状態の武装機体兵をどうするか? と言う質問で権利を放棄するって選択すれば良かったと後悔しています。いや、もうその前に遺伝子を提供しなければよかった」

『んで、モヤシ君の頭を除去した』

「殺すか生かすかをずっと悩んでいたら、研究者に新しい方法で彼を生かしてみませんか? と言われたんです。実をいうと生まれる前に脳死になる武装機体兵ってかなり多いらしいです。戦時中に重体になった人に移植して、武装機体兵と一緒に戦わせていたらしいですし。捕まっているスダチさん、セトさん、先ほどいたリョウさんみたいに。それで戦後、その研究者は脳死した彼らを生かす方法を研究しているそうで。それでお願いしてみたら、モヤシ君ができました。今は生命維持とAIの思考で動いています。イキッたサイコパスな研究者みたいな発想ですね」

『今後はモヤシ君みたいな武装機体兵が出てくるのか』

「いや、結構コスパがかかるそうなので無理そうです」


 倫理や道徳じゃなくてコストパフォーマンスで考えていやがる。まあ、モヤシみたいな奴が出ないことは喜ばしいけど。


「色々と話してきたんですが、モヤシ君は生きています。どういう形であれ、心臓はずっと動いています。今の今まで。決して遺体を弄って作った訳じゃないです。サイコパスかもしれませんが」


 すべてを語り終えてものすごく何か言いたいけど、ほとんどの連中はなんも言えないような顔になっていった。

 一方、ハンゾウは「まあ、エゴだな」と呟く。


「戦時中で生まれたイレギュラーだな。あんたはサイコパスじゃなく、切羽詰まった状況で選んだ異様な決断だったのさ」


 そう言ってハンゾウは締めくくった。オオツの考えは賛同したくないが、否定もしたくない。俺もそんな感想だった。

 そんな話をしていると闇医者がいる駅に着いた。





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