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少年Sの学校デビュー  作者: 亜逸


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第13話 霹靂

 翌朝、下足場でバッタリと莉花と出くわした信吾は、〝白鳳〟発言は一旦忘れて、相も変わらずの無表情で彼女に挨拶する。


「おはようございます、假屋さん」

「おはよ。……昨日はほんとありがと」


 後半の言葉は、信吾だけにしか聞こえないほどに小さな声だった。

 そこに込められた心の機微を微塵も察することができなかった信吾は、いつもどおりの声量で訊ねる。


「どうして、そんなに声を小さくしてるんですか?」


 途端、莉花の頬にちょっとだけ朱が差し込む。


「わかれ……バカっ」


 と言っている假屋さんは相変わらずかわいいですね――と心の中で思っていると、自分の下駄箱を開けた莉花が、「あぁ……」と困ったような声を上げる。

 いったい何があったのかと思い、上履きに履き替えながら莉花の方を見やると、


「莉花ってばまたラブレター? 相変わらずモテモテだねぃ」

「ほんと、あやかりたいわ~」


 ちょうど登校してきた、かつてパフェを餌に信吾との関係について莉花に根掘り葉掘り質問した二人の女子が、ここぞとばかりに茶化してくる。

 ラブレターという言葉どおり、莉花の下駄箱には手紙が一通入っていた。


 LINEを筆頭としたSNSを通じての告白は()()()()危険性があるため、下駄箱にラブレターというアナログなやり方が近年増加しつつあることはさておき。

 二人とすっかり友達になっていた莉花は、「まだそうと決まったわけじゃないから」とげんなりしながら答える。


「そうに決まってるでしょ――って、ああ……」


 友達の一人が信吾の存在に気づき、意味深な視線を送りながら言葉をつぐ。


「確かに、ラブレターと決まったわけじゃないか」

「そ~そ~。だから気にしなくていいよ、梶原~」


 もう一人も意味深な視線を信吾に送る中、


「だからそんなんじゃないからっ」


 莉花はプンスカ怒りながら、一人教室に向かっていった。

 二人の女子が「ごめんて~」と謝りながら莉花を追って小走りする。

 そんなやり取りをいまいち理解できなかった信吾は、莉花の背中を見つめながら「モテモテ?」と小首を傾げた。



 ◇ ◇ ◇



 一限目終了後の休み時間。

 一年一組の男子が、次の体育の授業に備えて更衣室で体操服に着替える中、


「え? 假屋さんがモテること、今の今まで気づいてなかったの?」


 信吾から「假屋さんはモテモテなのですか?」という質問を受けた島谷は、「今さら?」と言いたげな顔をしながら聞き返した。

 迷うことなく首肯を返す信吾に、島谷は微妙に頬を引きつらせながら続けて訊ねる、


「梶原くんは假屋さんのこと、かわいいとは思ってるんだよね?」


 再び、信吾は迷うことなく首肯を返す。

 それを見て、信吾にもちゃんとそういった感情があることがわかった島谷は、安堵を滲ませながらもさらに訊ねた。


「それなら、他の人たちが同じように假屋さんをかわいいと思うのもわかるよね?」


 次の瞬間、無表情の信吾の背後で、ピッシャ――――ンッ!!と雷が落ちたような気がした。

 島谷は目を(しばたた)いて(それ)が幻覚であったことを確かめてから、話を続ける。


「それに久留間くんだって……」


 と言いつつ、島谷はそれとなく声を小さくして、一ヶ月前に信吾に一撃(ワンパン)KOされた大柄男子を一瞥する。


「あの時梶原くんに絡んだのも、假屋さんをお昼ごはんに誘って口説こうとしていたのが理由だろうし」


 またしても信吾の背後で雷が落ちた気がした島谷は、手で目元を擦って(それ)が幻覚であったことを確かめてから、なおも話を続ける。


「假屋さん、梶原くんの相手をしていたことで、取っつきにくそうな見た目の割りには面倒見が良いことがわかったし、そういったところも含めて假屋さんのことが好きになった男子は多いって話だよ。たぶんだけど、今一年生で一番モテる女子なんじゃないかな?」


 三度(みたび)信吾の背後で雷が落ちたが、島谷はもうそういうものだと思うことにした。


「梶原くんが毎日のように色んな人から呼び出しをくらってるのも、假屋さんとしょっちゅう絡んでる梶原くんに嫉妬しているからだと思うよ」

「なるほど……」


 と、信吾は顎に手を当てて得心する。

 島谷の言うとおり、信吾は学校に通うようになってから、毎日のようにガラの悪い男子に呼び出されてはケンカを売られていた。


 信吾とて、久留間を一撃(ワンパン)KOしてしまった件については反省している。

 なので、ケンカを売られても一切手を出さず、相手を傷一つつけることなく対処するよう心がけていた。

 だからこの件については、何の問題もないと思っていたら、


「あ……今の話で思い出したけど、梶原くんってどれだけケンカを売られても、いつも無傷で済んでるものだから、あの〝白鳳〟が梶原くんなんじゃないかって今ちょっと噂になってるよ?」


 莉花に続き、島谷の口からも〝白鳳〟の名が出てきたことに、信吾は表情一つ変えることなく驚いてしまう。


()()とは、()()〝白鳳〟ですか?」

「あくまでも僕が聞いた話になるけど、何でも〝白鳳〟は裏社会では伝説的な暗殺者らしくて、今この按樹高校に通ってるって話らしいよ」


 あまりにも尾ひれが付きすぎている話に、信吾は表情一つ変えることなく呆れてしまう。


「僕が前に梶原くんにどうしてそんなに強いのかって訊いた時、梶原くん、『一子相伝の暗殺拳の伝承者』だって答えたことあったでしょ? たぶんだけど、その時近くにいた誰かがその話を聞いて、実際に梶原くんがどれだけケンカを売られても無傷で済んでいるのを知って、こんな噂が流れちゃったんじゃないかなぁって僕は思ってる」


 信吾は再び「なるほど……」と得心するフリをしながら、表情一つ変えることなく安堵する。

 どうやら昨日、莉花が〝白鳳〟について訊ねてきたのは、今島谷が言っていた噂を耳にしたことが原因だったようだ。


 しかし、だからといって安堵ばかりもしていられない。

 信吾が〝白鳳〟だという噂を流したのは十中八九、学校に潜入している〈夜刀〉の残党の仕業だろうから。


(おそらくですが、残党はオレのことを〝白鳳〟だと疑っていても、確証を得るまでにはまだ至っていない。だから、噂を流すことでオレに揺さぶりをかけて、ボロが出るのを待っているのかもしれませんね)


 などと思っている信吾は気づいていなかった。

 ボロなら、それこそボロッボロになるくらいに出ていることを。

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