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⑦作詞って難しいな!



 大体だが、色々なデスメタル系の曲を聴くとざっくりだが流れはこんな感じである。


 ①インパクトのある掴みのフレーズを繰り返すか、短いシャウトで演奏が始まる。

 ②詞自体は特に意味を追い求める必要は無いが、韻を踏んだり似たフレーズに置き換えたりしながら流れを形成する。

 ③全体を四編に分け、導入→展開→回転→終局と大まかな中で繰り返しや改変を交え、纏める。


 音楽はイメージを譜面や楽曲上で形成させる高度な総合的技術であり、伝達手段と表現法を重ね合わせたコミュニケーションといえるだろう。その中でもデスメタル系は派生が多く、現代音楽の特徴を濃く体現している。つまり、似てりゃ何でも良いのだ。(デスメタルでは表現上で死や痛み、残虐な行為を意味する単語がちりばめられている場合が多いが、ブラックメタルは反キリスト教や反社会的表現が多い)


 《 現代音楽の系譜・デスメタル編 稲村岡 某介 著から抜粋 》





 「……こんなもんかなぁ?」

 「ええ、大体こうかと思います」


 暫しノートを挟んであーでもこーでもと言いながらシャープペンを踊らせていた二人が、そう締めくくりながら作詞を終える。そして、出来はどんなかなと芽智花と三人に見せてみたそれは、


 【 無題 】


 と記されザックリとだが詩のような構成になっていた。


 【 暴! 意識喰らう意味を嫌う意識失う意味を損なう 暴! 知識嫌う地域厭う知識失う地域蹴飛ばす 暴!! 価値を散らす自己を失う価値を減らす自己を滅す!!


 堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕 堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕 堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕 堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕堕!!


  暴! 自害自害自害自害!! 暴!! 自刃自刃自刃自刃!! 暴!! 自虐自虐自虐自虐!! 暴!! 加虐加虐加虐加虐ぅーーッ!!


 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒 怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒怒!!


 価値無いお前に勝ちは無い 努力無い奴に価値は無い 何もしないお前に価値は無い 努力しないお前に勝ちは無い だからおまえに勝ちは無い!!


 堕堕堕怒怒怒堕堕堕怒怒怒!! 堕堕堕怒怒怒堕堕堕怒怒怒!! 価値の無いお前に勝ちはない お前の価値は何も無い お前の存在に意味は無い だからお前とは踊れやしねぇ!! 】


 ノートに書き殴られた激しい文字の羅列に眼を通していた芽智花は、その紙面から顔を上げて呟いた。


 「……みよたん、病んでる?」

 「ん~? 全然病んでないけど?」

 「まぁ、それは冗談だけど……でも、それっぽく書けてると思うよ! 後は曲だろうけど……」


 芽智花はそう言いながらノートを手渡し、作曲の難しさを説くつもりで三代子の顔を見ようとしたが、


 「んんぅ~っ、れろれろぉ~ん♪」


 と、ギターの時と同じように三代子がノートを舐めていた。うん、激しく既視感(デジャブ)である。そして、その行為を終えると彼女はおもむろにペンを掴み、何かに取り憑かれたような勢いでノートに記していく。スラスラと淀み無く記していくので、芽智花はてっきり音符が並んでいるのかと思ったが、考えてみたらここに居て譜面を理解しているのは芽智花しか居ない。では、何を書いていたのか?


 【ギター①→ギンギュイッギュギャギャギュギャギャギュギャギャギュギャギャッ!!


 ギター②→ベンベボンボボボボッボボンッ!!


 ドラム→ダダダダダダダダダダダダンッシャシャンシャラララズドドドドンッ!!】


 「うーん、擬音だね」

 「うん! ギャギャーッて弾いてからこーやってギュルルリッて絞りながらギュンッて続く感じ!」

 「……それで判るのはみよたんだけじゃない?」


 ほぼ音感だけしか伝わらない紙面の擬音に、芽智花はこめかみを触りながら口を尖らせる。だが、それを見た他の面々は頷きながら次々とギターを抱えドラムスティックを掴み、銀河のリズムリードの四拍子に合わせて無言で演奏を開始した。


 ドパンッ、ダララララララズズシャンダンッ!!

 「……はぁ?」


 ドレッドドドドッンズズンドレレレ(↓)レ(↑)ンッ!!

 「……はいぃ!?」


 ……ギュオオーンッギュラララッギュワッワンジュギュギュギュイイイィーーンッ!!

 「さっきのノートと全然違うじゃん!! ていうか碁亜羅さんいつの間に弾けてるん!?」


 突っ込み所満載の華麗な演奏に、芽智花の理解は既に光の速さでおいてけぼり。だが、それは三代子がギターを掻き鳴らしながら口を開いた瞬間、全て綺麗に霧散していった。


 「暴ぉぉぉぉオオオォーーーーーッ!!」

 「くはぁっ!! 完璧なデスボイスっ!?」


 彼女が絶叫する中、三代子の比類無きデスボイスが演奏の幕開けを告げ、音とシャウトでビリビリと震えていた軽音楽部の部室が一瞬で魔界と化す。そして、脳髄を引っ掻き回すような激しいギターリフとドラムの爆音から乱打そして卓越した技巧へと繋がり、三代子と荼吉尼のツインボーカルが甘さと苦みを併せ持ったカフェモカのように染み渡っていく。


 「……まあ、いいんじゃないんでしょうか」


 そして、リブレがそう評しながらノートに次の歌詞を書き始めた時、演奏のラストを締め括る銀河のドラムが音の奔流を放ち終わった後、


 「……もう、どーしてそうなるのよっ!!」


 と、誰もが思うであろう疑問を口にしながら、芽智花が頭を掻きむしった。たった数分で書き終えた詩に譜面の存在しない音楽が舞い降り、昨日まで全くと言って良い程音楽に触れてこなかった四人が奇跡的な融合を果たし、そして聴衆は芽智花一人きりと異例だらけのまま、デスメタル界に新たな、そして歴史的な一歩が刻まれた。



 

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