⑤バンドやろー!
「……と、そんな訳でこれが入部届け。足りない所は無い?」
夏休み前に配下の四人を学校内(休学中の生徒とすり替えただけ)に潜り込ませた三代子は、芽智花の前に四枚の入部届けを差し出した。
「うん、大丈夫だと思うけど……その、何て言うか……」
「……ん? 何処か書き足りなかった?」
入部届けに眼を通していた芽智花に三代子が話し掛けるが、彼女は非常に言い難そうな素振りで呟く。
「いや、別に足りなくはないけど……」
そう言ってリブレ以外の三人の姿と書類を交互に見比べてから、やっぱ何でもないと言葉を濁す。
(……だって、全員高校生に見えないんだもんっ!!)
ぱっと見だけでも三人は、どう見たって標準的な学生とは思えない。一応、校則通りの夏服を着ている三人なのだが、違和感バリバリなのだ。
(……先ず、碁亜羅 善治郎ってのは彼だよね!? 身長二メートル位あって分厚い筋肉のゴリマッチョなのに、中学の部活動経験、全部空欄じゃん!!でもどー見ても柔道国体級だよね!?)
そう思いながら本人をチラリと見ると、その視線に気付いて総合格闘家より更に凄味のある傷だらけの顔がグワッと動く。たったそれだけで芽智花は、全身から汗がぶわっと滲んでチョロッと何か漏らしそうな気がする。乙女的危機と同時に直視はイカン、とそう本能が告げるのだ。
(……で、銀河 丈児君はそこまで大きくはないけど……すっごく無口で三白眼で、おまけに碁亜羅君と違って三代子の代筆じゃないけど達筆過ぎて読めないよっ!? それに髪の毛が腰までとか長過ぎじゃない!!)
さっきの碁亜羅よりはまだ近寄り易い雰囲気の銀河だが、芽智花は言い知れぬ何かを察しそれとなく観察してみる。そうして見れば長髪は丁寧に束ねられて清潔感はあるものの、彼の左手の指が一本欠けている事に気付き、そっと目線を外した。
(……最後の荼吉尼 唯さん……各項目をきっちり自筆で埋めてるけど、趣味の欄に「お菓子作り」って書いてある所まではいいの! いいけど……どー見たって成人女性がコスプレしてるだけって感じが拭えないいぃ!!)
……そう思いながら夏服の半袖シャツ姿の荼吉尼を見るが、スカーフを解いてボタンを二つ外した胸元から溢れそうな谷間が覗く姿は完全に十八禁である。おまけにガーターストッキングから覗く悩ましい太腿は、正に歩く性的暴虐としか言い様が無い。
(……しかも、三人揃って一年生とかマジでおかしいからっ!!)
そう心の中で絶叫する芽智花だったが、そんな彼女を嘲笑うように三人は一斉に頭を下げ、
「「「宜しくお願いしますっ!! 芽智花センパイっ!!」」」
等と綺麗にハモり、きっちり揃って挨拶するのだ。ホントに嘘臭いったらありゃしない……。
「……で、ここが軽音楽部の部室です……」
芽智花に案内された一行が部室に辿り着くと、流石にそこそこの設備と楽器が揃っている。無論、芽智花以外は誰も楽器に触れた事も無いからどうしたもんかと戸惑うが、
「ああ、これがどらむだな。そして、このバチを使って叩いたりすれば音が出るのか……」
そう言うと銀河がスティックを掴み、ドラムチェアの上にそっと腰を降ろす。しかし、よもやおもむろに叩いたりはしないだろうと思っていた芽智花だが、
……スタスタスタスタ、シャラララララララッとドラムとシンバルをリズミカルに叩き、そこから腕を交差させて交互に叩き始めると、咄嗟に言葉が口から漏れてしまう。
「あ、あの……ドラム叩いた事、絶対に有りますよね!?」
「……いや、どらむの事は一切知らないが、さっき動画とやらを見て大体の勘は掴めた。速度はまだ早く出来るが、慣れるまでゆっくり叩くつもりだ……心配するな」
そう言いながら銀河はフットペダルを華麗に踏み分け、ドタタタタタタタとリズムを加速させながら両手のスティックを見事に操り始める。
(……ギンガの野郎、流石は魔界屈指の剣術使いだな! 初見で見切るなんざ軽いってか?)
(……そうねぇ、動体視力に優れる人狼のアイツなら簡単でしょうから……)
小声でそう囁き合う碁亜羅と荼吉尼の二人を尻目に、銀河の華麗なスティック捌きは尚も続く。最早達人の域にしか思えない彼の演奏に、芽智花はただ唖然とするしかない。
「じゃーよー、俺らも一丁やってみるかぁ?」
「そうね……上手く出来るか判らないけどぉ!」
と、追従するように碁亜羅と荼吉尼も肩から各々ギターとベースを担ぎ、調子を見るように弦を指先で弾いていたが、
「「……これ、音が鳴らなくない?」」
と、アンプにコードを繋がないで言い出したので、芽智花は思わずずっこけた。
「……はい、これで音が出るよ……」
「ふぅん、この紐を繋いでないと音が出ないのか……」
流石にエレキギターとベースは、鳴らす為にはアンプとの接続が必須である。銀河の前振りが有ってからの落差に芽智花はつい苦笑いしてしまうが、そこはやっぱり素人なんだよなと納得する。
「……じゃ、仕切り直しってとこだな!」
だが、碁亜羅がそう言いながらギターの弦に指を触れたその時、何故か三代子が黙ったまま部屋のガラス窓を無言で開放し始め、芽智花は何でだろうかと疑問に思う。だがしかし、数瞬後が経過した瞬間、その疑問は直ぐに氷解した。
「ご"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"ぉーーーーッ!!」
そう碁亜羅が叫ぶや否や、部屋中の壁や扉がビリビリと激しく震え、同時に校舎中のガラス全てが割れそうな程の振動が起き始める。
「きゃあああぁっ!? な、何が起きてるのぉ!?」
震えながら芽智花がそう叫ぶと、三代子や荼吉尼はさも当然とでも言わんばかりにさらりと、
「あー、予め窓を開けといて良かった~! ヘタしたら教室の窓が全部割れちゃうし!」
「ですよねぇ~、一歩間違ったら身内まで巻き添えになりますし~」
とうとう演奏とかではなく、碁亜羅の叫び声自体が規格外過ぎてしまい、芽智花は言い知れぬ不安に苛まれる。だが、期待に反して碁亜羅の演奏自体はつてつてと平凡で特に危険は無く、
「んあぁ~っ! これ無茶苦茶小さいから弾き難いぜっ!! もっとデカいのはねぇか!?」
そう言って凄む碁亜羅だが、芽智花にはその大きさに対するギャップがツボだったらしく、必死に笑いを堪えながらギターを受け取るのが精一杯だった。