④じゃあやってみる?
芽智花に連れられてリブレと共にライブハウスに行った三代子は、それから暫くぼーっと日々を過ごしていた。夏休み前のテスト三昧な毎日のせいもあるが、何より例のデスメタルのせいだろう。
「……みーよーっ! 早くご飯食べなさーい!」
「はーい、今行くからー」
母親に急かされ三代子は返事しつつタブレットに表示された内容に眼を通し、自分が聴いた演奏のジャンルについて把握する。
端的に言えば、デスメタル系といっても多岐に渡り、コアメタル、デスコア等のコア系に始まり実に多種多様。その歌詞に現れる独自性や曲調の違いで分類されるかと思いきや……実際はジャンルの交錯や雑多な組み合わせすら派生として存在し、その分かれ目は判然とはしない。ただ、これだけはハッキリしている。反社会的又は異端教崇拝や禁忌といった避けられ易いテーマを敢えて積極的に歌詞に取り込みつつ、聴き手に対し深くそして強い印象を植え付ける音楽性こそ、デスメタルと呼ぶに相応しいのだ。
……と、それらしく三代子は納得する振りをしたが、正直いって良く判っていない。彼女は単純にあの音楽を聴いて苛立ち、そして自分ならこうしたいと強く感じたのだ。
「おはよー! みよ!」
「あー、おはよう、めちたん……」
テスト期間もあと僅か、そんな夏休みに対するふわふわとした期待感に浮わつく教室についた三代子に、芽智花が声をかける。勿論朝は相変わらず弱い三代子は力無く返事するが、芽智花は逆になんだか嬉しそうである。
(……どうしても、やらなきゃ駄目ですか)
(そーねー、今さらアンタの中身がゴブリンだっていうのも、って感じだから宜しく!)
等という遣り取りがあり、リブレは敢えなくこちらの世界に暫く残留する羽目となり、芽智花の相手をする事になった。まあ、仮にとはいえ学生として相対する訳だから、大して問題は無い。たぶん。
「ところでみよ、夏休みの予定って決まってる?」
「あー、うん……別に無いけど……」
基本的に学校関連の行事に参加するつもりの無い三代子なので、夏休みは単純に長期間の休みである。せいぜい山のような提出課題と戦う程度、とそんな予定しかない。
「じゃーさー、席だけでいいから軽音楽部に入っておかない?」
「んー、別に良いけど……」
通年ダウナー系の三代子とは違い、芽智花は部活動をちゃんと続けている。だがしかし彼女曰く、三年生の脱退に伴い軽音楽部の人員がごっそり減少してしまったので勧誘したのだとか。
「それでさ、リブレ君もみよから入るよう聞いて貰えないかな?」
「えー、自分で聞けばいーじゃん……」
「んんんぅ、確かにそーなんだけどさぁ」
リブレの事になると急に積極性が欠ける芽智花に、元はといえばあんたが眼の色変えたからじゃんと心の中で突っ込みながら、だがしかし三代子は閃いた。
「……リブレも勿論なんだけど、他にも呼んでよいぃ?」
魔王【在りうべからぬ不可触の主】には、様々な配下が居た。種族的な垣根を超え冷静沈着な思慮深さで抜きん出た【知略のリブレ】。寄る辺無き圧倒的な破壊力で全てを捩じ伏せる【破裂のゴアラ】。不屈の意志で数々の戦場を駆け抜けた【技巧のギンガ】。変幻自在に容姿を変え巧みな精神操作で相手を翻弄する【華烈のダキニ】。そんな彼等を筆頭に、魔界の様々な曲者達を束ねた三代子だったが、彼女的には魔界という場所は娯楽の無さで退屈極まりない所だった。だからこそ魔王として征服業(?)に打ち込めたが、今回はまた違う趣旨で引っ掻き回してみたくなったのだ。
「……って感じだから、と言われましてもねぇ……」
「あー、つまりあれか? こっちの世界も征服するって訳か?」
「……主がそう命ずるならば、是非も無い」
「まあ、私は別に構わないけどぉ?」
と、いう訳で三代子宅二階の自室に召喚された四人(リブレだけは先行していたが)は、各々はその仮の姿のままで思い思いの感想を述べる。
「自分はまあ、先に呼ばれて色々と付き合わされていますから」
リブレはそう言って襟を正すと、ポケットからスマホを取り出してぽちぽちする。
「俺は頭使わねぇなら構わねぇが……おいお前っ! 何だよそれ最新式じゃねーか貸せよ!」
ゴアラがそう言いながらリブレのスマホを奪い取ろうとするが、サッと避けられて反射的に拳を握り締め闘気を露わにした瞬間、三代子にどつかれる。因みにいかにも機械に疎そうなゴアラがスマホに反応したのは、召喚主の三代子と情報共有状態だからで、同様に他の面々も車に驚いたりハンバーガーで泣いたりはしないのだ。
「……俺も構わん。ところで何をすれば良いのか……それが判らん内は何とも言い様が無いが」
ギンガは長い髪を束ねながら付け加え、そのままいつもの癖で腰元の剣を掴もうとして空振りし、ちょっとだけ頬を赤らめながら天井を眺める。
「私も別に構わないけど……具体的に何するか決まってます?」
ダキニはそう言って指先で髪を解かし、男なら誰でも振り向きそうな容姿に似合う微笑みを浮かべる。
「……ま、そう言うと思ったから、これ観て貰った方が話が早いわ」
四人各々の反応を見た三代子はそう言いながらタブレットを始動させ、動画を再生する。勿論それは、前回観たライブ演奏を行ったバンドの楽曲を纏めた動画集である。
ズダダンッ、とドラムがリズムを短く刻むとベースが呼応するように卓越したビートを奏で、それが合図となりツインギターが各々異なるリフを始める。その違う音同士が競うように互いを攻撃し合い、やがて唸るような低い声が判然としない単語を繰り返し続ける。
「変わった呪術の詠唱と思うが……聴いた事も無い」
「へえぇ、案外良いじゃねぇか! こっちのシケた連中にしては、だけどよ!!」
「……で、これが何なの?」
リブレ以外は三者三様の反応を見せる中、三代子は温めていた案を彼等に告げる。
「……これより更に上を目指してみたいんだけど、付き合ってくれない?」