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③デスメタル事始め



 扉を開けて中に踏み込んだ瞬間、三代子の前髪が音圧でふわりと浮き上がり、そしてその暴力的なビートと全てを搔き乱すようなリズムが押し寄せた。


 「……あのぉーーっ、芽智花たぁーーんっ!?」

 「なぁーにぃーっ?」


 そんな爆音の演奏に負けじと、三代子は声を張り上げながら芽智花に話しかける。無論、それに答える芽智花も大声である。


 ズダズダズダズダズダズダズダズダンと乱れ打つドラムのテンポは荒々しくも正確なリズムを刻み、だがしかし荒れ狂う嵐に翻弄される巨木の枝葉のようなヘッドバンキング(メタラー特有の頭を振る動作)は、一見するとヘビーメタルのように思える。だがしかし、それとは全く異なる特徴のせいで、余りメタル系に詳しくない三代子でも直ぐに判った。


 「……これーっ、たしかーっ!! ()()()()()ってゆージャンルだよねぇーーっ?」

 「そぉー、だよぉーーーっ!!」


 直後に響き渡るボーカルの声は、濁り切った罵声とも怒号とも言えぬ、非常に聞き取り難い独特なものだった。その直後、間奏に入ったからかギュオオオォッとギターが激しく震えながら爆音を撒き散らす。そしてボーカルがマイク代わりの拡声器に口を宛がい、有らん限りの肺活量を振り絞ってシャウトした。


 【 ……俺は常に怒り狂い牙を振り乱す 油まみれの水溜まりに自分の顔を見つけ 握り締めた斧を翳し力強く振り下ろす そんな俺にお前は姿を現し なけなしの優しさを秘めながら俺に問いかける 「お前が落としたのは金の斧? それともこっちのレアメタルの斧?」 そうさ! 斧!! 斧!! 斧、斧、斧!! 】


 「あぁ~! やっぱり【水溜まりの女神と木こり】はいいなぁ♪」


 今までそんな気配を微塵も感じさせなかった芽智花だが、雑音と爆音が交互に重なり合うような音楽のリズムに身を委ね、ボーカルの怒声に合わせて斧を振り下ろす仕草を繰り返す。


 (……あのー、ミヨコ様?)

 (判ってる、判ってるって……だがしかし、今は暫し待たれよ……)


 リブレに肩を叩かれながら、三代子は仕方なくそう繰り返す。だって、まさか彼女も芽智花が重度のデスメタル愛好者(デスメタラー)だったなんて全く知らなかったのだ。


 しかし、三代子は次第にふつふつと自分の中に新たな血潮、とでも呼ぶに相応しい何かが沸き上がってくるのを感じ、気付けばその圧倒的な音の暴力に身を委ねながら演奏を聴いていた。ジンジンと頭の芯が痺れそうな程のボリュームが全てを包み込み、そしてその振動に身を委ねていると何処か懐かしい気配が感じ取れる。それが魔界での戦いの前に感じていた独特な緊張感だと気付いた時、三代子の精神は大きく揺れ動いていた。


 (……違うけど、これじゃないんだけど……あーもうっ、凄く焦れったいぃっ!!)


 三代子は言いたかった。元魔王として、こんな陳腐でやわやわなフレーズじゃ物足りないと。だが、もし魔王時代の出来事や体験を生々しく表現したとしても、果たしてそれは今の自分が聞きたいモノになるのだろうか? 当然だが、三代子こと【在りうべからぬ不可触の主】の名を冠した魔王は、デスメタルの歌詞よりも更に残虐な行為を繰り返してきた。だが、事実を有りのまま歌詞にしても心情まで表現出来る訳ではないし、リアルな戦争と架空の状況を同じように捉えるのはまともじゃない。それに三代子は元魔王であり、断じて快楽殺人者(シリアルキラー)ではないのだ。


 そんなモヤモヤとした気持ちを抑えつつ、三代子は続けて演奏された【鉄と肉と骨の家に住む三びきの子ブタ】を聞きながら興奮した観客と共に演奏台の上からダイブ(危険なので真似してはいけません)し、そのまま担ぎ運ばれながらしっかりライブを満喫した。




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