永久王の旅行章(ぼうけんしょう)
紀元前、そして紀元前以降もの間、世界全ては魔王とその配下である魔族達によって長きに渡り人類とその他多種族を恐怖させ支配してきたのだが、何千年も経ったある時、突如として魔王は討伐された。
なんの前触れもなく魔王は討ち取られたのだ。
平和な時代が訪れた。
それでも人類と魔族との争いは絶えることはないが、人類達はその中でも負けずに平和に暮らしている。
魔王が討伐されてから50年余り、数ある大陸の中の一つ、アルター王国。その中でも一番大きな大陸のフェルーリン大陸の南方付近にて一人の青年が旅をしていた。
真っ黒でありながら艶のある髪、深夜の星の無い空のような瞳、黒と一部青と白をあしらったデザインの片長半袖の丈の短いジャケットと同じデザインの収納ポケットの多いズボン、腰には外套、剣の柄から鞘に至るまで真っ黒な剣と、真後ろの腰には大きめのポーチを装備している。名をセカイ・フェルンヴェー。魔術士であり、少なくとも千年も前からあらゆる大陸を旅している。【永久なる一族】の最後の生き残りだ。
【永久なる一族】とは、数ある種族の中でエルフという種族より遥かに長生きする種族の人達のことだ。
エルフの寿命は約千年かそれ以上。だが【永久なる一族】の寿命は無い。寿命による死がなく、人間にしか起こり得ない老化、劣化が個人差はあれど無いに等しいのだ。しかし寿命による死がないだけで、何らかによって殺されたりした場合は確実に死ぬ。
この世に死がない生き物も概念もないのだ。【永久なる一族】は長い歴史の中で魔術や剣、その他あらゆる技術などで繁栄してきた一族で、どの世代においても才ある者が生まれてくる。
セカイは魔術や魔力、剣術や武術と言った高い才能を持って生まれた一族の中でも稀な存在だ。
そんな長い歴史、繁栄が続いてきた一族であったが、セカイ以外の一族全員は魔王が滅ぼされる遥か前に魔族によって絶滅させられている。人類の多くは【永久なる一族】は死に絶えたと思っており、セカイも自分以外にも生き残りがいるかもしれないとは思いつつセカイ自身、期待はしていない。
セカイは長い間、当てのない旅をしている。何処かで腰を下ろして長期間住むでもなく、人と積極的に関わるでもなく、ただただその日の気分で旅をしたりだらだらとダメ人間のような人生を送ってきてた。
そんな彼の趣味の一つは聖遺物と呼ばれる偉人や英雄が残した武器や魔道具といった物を集める事だ。
もう何百年と同じ事をしているのでセカイは本心では聖遺物を集めるのでさえ辞めようとしていた。
旅を辞めて隠居でもするかと心のどこかで考えていると次の目的地である最初の街へ来ていた。
実はセカイはこのフェルーリン大陸に来るのは初めてなのだ。百年前からアルター王国の別の大陸を旅しており、約百年掛けて一通り大陸を見て回ったので次の大陸の旅を開始したのだ。南方から進んで北に北上するというお決まりのルートで旅をしている。
因みに百年間何をしていたかというと、旅自体はしていたものの、修行を主にしていた。
何百年かに一度修行するのはセカイのブームの一つだ。修行と言っても大した事をする訳ではない。魔力制御、精神統一、剣技の修行、魔術書を読み漁ったり、魔物、魔族の討伐と言ったよくある修行方法だ。
このフェルーリン大陸も、まだ人類がそう多くない時代の頃に一度だけ今のフェルーリン大陸に訪れた事があるにはあるが、もう何千年も昔の事で、今よりは荒野だったので「様変わりしたな」と、友人の部屋に訪れて部屋の模様替えに対するリアクションのような事をボソリと呟いた。
人類にとっては何千年は長いものだ。セカイにとっても千年は長く感じる。長い年月生きていても、滅多な事では千年という時間をあっという間とは感じにくい。
セカイもそうだったが、最近では千年をあっという間だったと思える程には人生に興味がなくなってはいた。
目的の街に着き、宿を取って街をぶらぶらと徘徊する。平和で活気のある街は飯が美味く良いものが揃っているというのは相場が決まっている。
「先に飯にするか・・・どっか美味い店探すかね・・・・聞いてみるか」
ものの数分でこの街で一番料理が美味しい店を教えてもらったので早速訪れて料理を食べる。評判通りの美味しい料理でセカイは久々に感動していた。
ここまで感動をしたのは実に数百年ぶりくらいだろう。今までに気に入った店の料理は幾度かあったが、気まぐれな旅なので何度も食べるという行為が出来ていなかったが、暫くこの街にも滞在するし、ここの店なら気軽に何度も来てもいいかもしれない。
他にも店はあるのでゆっくりと品定めするべきだろう。
次は物資調達を済ませて、ギルドの依頼を見て討伐依頼を受ける。
依頼自体は簡単な物で指定の魔物を倒す、と言ったものだ。
場所は今いる街から数キロ離れた森の中、何千年も生きているセカイからすれば魔物討伐はただ歩くという作業と同じほどの簡単なもので、依頼の魔物はすぐに討伐し終えた。