テイマーへの道を進みます。
今からおよそ100年後の世界の話。
世界中のあらゆるものが電子化し、AIによる産業革命が各国で起こった。
そのため、大量消費大量生産をするようになり、今では異常気象と呼ばれている現象は日常茶飯事となっていた。
そんな折に引き起ったのは、アナザーと呼ばれる門が各地で発生。そして、デーモン、妖精、天使、あやかしといった存在が確認された。
最初は話し合いをしようと考えた各国の代表は各地で発生したアナザーに使者を送った。
しかし、言語が全く異なるということで話し合いは決別。結果として五つ巴の戦が約10年程起こった。世界中ではこれを第四次世界大戦と位置付けた。
この戦いを止めたのは神という存在だった。
そして、地球の大陸は5等分されることが決まった。
実質的な人間の敗北である。
これに対し、人間は納得のいかないと抗議をしようとしたが、和平交渉も出来ず、武力行使においても軍資金が地に落ちかけていたため、これ以上の犠牲を出してはならないということで諦めることになった。
そこに人間の救世主として表れたのがテイマーと言うどんな生き物も使役できる能力を持つ人たちの存在だ。テイマーにはそれぞれ役割があり、デーモンを使役する人たちはデーマーズ、妖精を使役するものはフェアリーエンペラー、天使を使役するものはミニスター、あやかしを使役するものは陰陽師と呼ばれるようになった。使役できる種類は1つのみとされており、これまで2種族以上使役出来た人は1人もいなかった。
キーンコーンカーンコーン
蝉の声がまだまだ泣き止まない暑い日、部活動の声しかしなかった校舎に生徒の声が戻ってきた。
中学にもなって自由研究が課題とは馬鹿げていると思いながら俺はある生き物の成長日記を記したデータを抱えて登校した。
「はよー!祐樹」
「おう、おはよー。相変わらずお前は元気だな。というか夏休み満喫しすぎじゃね?肌黒くなってんぞ。」
「そうなんだよ!今年の夏は海めっちゃ行ったんだよね!」
そう話しているのは親友の大輝だ。
人間の居住地として決められた区域に海はほとんど存在しない。さらに、海には妖精やあやかしの類が多く生息している。そのため、海産物は全く市場に入らなくなり、鮭やアジでさえも1尾2,500円と高級食材になってしまっており、庶民の食卓から消えた。
また、マリンスポーツや海水浴をすることも減った。そのため、海に行く中学生の俺たちからするとお金持ち同然に感じた。
「いいな~」
「いいだろ~♪」
大輝は超ご機嫌だった。
しかし、俺は皆に黙っていることがある。
それは全種族をテイマー出来る人類初の人間であること。
そして、なぜか会話出来ることだ。
これは今回の自由研究で判明したことだ。
「そういえば祐樹は自由研究何にしたんだ?」
「俺は近所に猫又の子供が産まれたからそれを観察した。」
「ふえ~、お前よく平気だったな。」
「まぁ、遠目から見ていたんだけどね…。」
そう言いながら自由研究の時の様子を思い出していた。
「お前を研究したいんだけどな…。」
「な、なんだ人間。お前猫又の言葉話せるのか?」
「えっ…。話せないけど、というか言葉が通じてる!?なんで?」
「それはこっちのセリフだい!で、研究したいとはなんだ?」
「じ、じつは学校の課題で自由研究があって、猫又の生態について研究しようかな?って丁度そこに赤ん坊もいるし。」
「フンッ!人間なんかに我ら猫又のことなんて到底理解されないわい!」
「そ、そうだけど。俺は、知りたいんだ。」
「何で?」
「だって、この地球に暮らしてるだろ?」
「お前って変な奴だな。」
「そうかもね。いつもお母さんとかに言われてるんだ。『自分のお腹の中から産まれてきたはずなのに家族と似ている所が一つもなくて変だ』って。親から除け者にされてんのかな?」
「やけにベラベラと話す人間だな。」
「人間以外と話すの初めてなんだ。」
「まぁわいも人間と話すのは初めてだから貴重な体験したし、ええよ、俺の息子を観察しても。」
「ありがとう!」
「そう言えばお主は人間の言うテイマーってやつなのか?」
「え…。わかんない。」
「フーン、そうかい。まぁテイマーになってもお前さんなら従者になってもええかな?」
そう言ってネコのようにゴロゴロ言いながら昼寝をし始めた。
そして、この時初めて自分がテイマーであり、全種族に当てはまる人間であることを脳が自覚した瞬間だった。
そして、クラスメイトには猫又と話して、許可をもらったなんて言えない。
言ったら言ったで国の為に働かされる。
それだけは絶対に嫌だ。
そう思いながら自由研究の発表会が始まった。
皆各々の研究を行っていた。便利道具を開発している奴や、街を粘土で精巧に作ったやつ等様々だった。
俺の発表はと言うと、先生から危ないことはしないようにと怒られてしまった。
まぁクラスメイトはよく研究しようと思ったなという眼差しで見られた。
まぁ、なんだかんだと俺は夏休み明け初日の学校をいつも通り過ごし、いつも通り帰る予定だった。
この時まではテイマーとして生きる道を選ぶつもりもなく、普通の会社員になって、そこそこの家庭を持って、人知れず朽ちていく人生を歩んでいくつもりだった。
転機はいつも突然だ。
私が夏休みの間観察していた猫又が猩々と呼ばれるあやかしと戦っており、その猩々は陰陽師と呼ばれるテイマーに命令されて戦っていた。
猫又が悪いことをしてしまったのだろうかと思い陰からそっと見守っていると声が聴こえた。猫又が何かを言っているらしい。耳を澄ませると
「お前たちが俺の縄張りに入ってきたくせになんで駆除されなければならないんだ。」
「こいつ興奮してやがる。このままだと他の人に被害を与えかねない。おい、龍こいつを倒せ。」
「た、戦いたくない。こいつは悪くないのに殺す必要ないだろ。」
その悲痛な声は陰陽師には到底届かない。
俺はあの猫又と過ごした日々が楽しかった。
話せることで心を通じ合えることを知った。
そして、今は猩々の悲痛な声も聞こえてきており、同士討ちを嫌がっている。これではまるで家畜同然だ、命はないに等しいのだろう。
そう考えていると勝手に足が動いていた。
「やめろ!」
「なんだ!?子供が急に…。」
「こいつは俺の相棒だ。」
「お前テイマーなのか?」
「今はまだだ。
今ここでテイムして使役する。」
「それだったら無理だな。」
「何でだ?」
「テイムには許可がいる。無許可でやるのは規則違反だからな。」
「そんなことは知っちゃこっちゃない。ここでテイムして俺のものにする。」
「そうはさせない。龍!まずはあの少年からだ。」
そう命令された猩々は俺をめがけてやってきた。
一瞬悲しい声が聞こえた。
「殺したくない。殺されたない。人間なんて、人間なんて、嫌いだ!」
それは使役されていた時間が長いのだろうかとても悲痛な叫びだった。
私は無意識にテイムする準備を行っていた。
「お、お前何してんだ?」
「何ってこの猩々をテイムすんだよ!」
「テイムの上書きは上級呪文だぞ!テイマーでもないお前なんかが」
「うるさいなぁ。この猩々の気持ち考えたことあんのか?」
いつも物静かな俺が今は大きな声で相手に言葉をぶつけており、自分でも驚いている。しかし、その驚きよりも怒りの方が大きかった。
そして、遂に言ってはいけないことを言ってしまった。
「こいつは誰も殺したくないって言ってんだよ。」
「はぁ?お前何言ってんだよ?」
「猩々はな。誰も殺したくないのに命令されて殺しをしているから人間が憎いって言ってんだよ。」
「お前、こいつの言葉が…。」
「ああ、わかるさ。分かって何が悪い?」
「あ、悪魔だ。りゅ、龍。今日は引き下がるぞ!龍、来いって!」
しかし、猩々は動かない。
俺が使役の書き換えを行ったからだ。
「くそ…!このことはテイマー協会に伝えるからな!」
そう言って男は駆け出した。
俺はやっと自分が何をしでかしたのか我に返った。
そして、一生テイマーとして生きていかなければならないことと、国の支配から逃れる旅を行わなければならないと思うようになった。
(まさか、言葉が通じるなんてこと言っちゃった...どーしよ。)
そう考えていたら猩々からお礼を言われた。
「ありがとう、私を助けてくれて。」
「良いよ。君の声が聞こえて、それがあまりにも悲しかったからね。つい…」
そう答えると猫又から提案された。
「俺もテイムしろ!お前だけには力貸してやる。」
こうして俺は猫又の黒と猩々の龍を引き連れてテイマー人生を歩み始めることとなった。