クシャダ聖書3章27節より「太陽の孵化」
太陽の孵化。
太陽は孵化する。大いなる慈悲で胸をいっぱいに膨らませて、来たる時に向けて孵化する。
太陽の孵化。
干上がった大地は産声を上げながらヒビ割れ、そこから幾千万もの紫色の人形が這い出てくる。
太陽の孵化。
紫色の人形たちが行進を始める。水中の魚は歓喜の泡を吐き散らし、空を飛ぶ鳥は地に平伏して敬意を存分に示す。
太陽の孵化。
月は一人で歩き始め、夜はこの世から永遠に姿を消す。
太陽の孵化。
太陽の寵愛を受けた植物は、その身を焼き尽くし、舞い散る灰で雲を作る。
太陽の孵化。
赤い戦士たちが海からやってくる。地を這う虫は戦士の鎧となり、野原を駆ける獣どもは隷属としてその身を捧げる。
太陽の孵化。
赤い戦士たちは戦い続ける。王が帰還するその時まで、王のために戦う。
太陽の孵化。
太陽の孵化。
空は宇宙よりも高く伸び、迷子の流星が抱えきれないほどいっぱいに落ちてくる。
太陽の孵化。
山から聖歌隊が下りてくる。美しい歌声で地を震わせ、死者を呼び覚ます。死者は自分の役目を思い出して、王の帰還に備えはじめる。
太陽の孵化。
太陽の孵化。
人間たちは二つに分かれる。片割れは部屋の中で、必死にドアを抑え続ける。もう片割れは崇高なる使命の元、その身を大地に捧げる。
太陽の孵化。
太陽の孵化。
太陽の孵化。
空から黒い雨が降ってくる頃、王が帰還する。雲の中から、溢れんばかりの喜びを携えてやってくる。
紫色の人形も、赤い戦士も、聖歌隊も死者も、みんなみんな、王のための歌を捧げる。
太陽の孵化。
太陽は孵化する。その大きな翼を空いっぱいに広げて、卵の殻を破り出る。
太陽の孵化。
王が号令する。「委ねよ」と。王の眷属たちは頭を垂れてうずくまる。
太陽の孵化。
煌々と光る太陽は王とその眷属の背中をその大きな羽で撫でる。太陽の慈悲をその全身で受け止める。
太陽は飛び立つ。
大いなる慈悲で包まれた王たちを引き連れて、空を駆け抜ける。
太陽は飛び立つ。
偉大なる殻を残して、従者を連れた太陽は次の住処を捜し求める。
太陽は飛び立つ。
太陽は飛び立つ。
最後、太陽の慈悲を拒んだ亡者たちが、必死に偉大なる殻を貪り食らう。
太陽は飛び立つ。
すでに慈悲はない。寒い暗闇の中で、亡者たちは永遠ともがき苦しむ。次の太陽が孵化するまで。
太陽の孵化。
しかし亡者は、何度も同じ過ちを犯し続ける。
太陽の孵化。
クシャダ聖書の生み出したへーリオ文明の司祭は言う。
「これは真実である。おとぎ話や伝承ではない。これから確実にくる真理とも言える。他の章の内容は他人が知るにはあまりに凄惨な未来のため、私が破り、私だけが知る“王の帰還する場所”に埋め保管した」
彼は一人だけで各章に記された来るべき日の内容を抱えて、“その日”が来るまで生き続けるのである。