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第一章 物語の始まり 3

架空の乙女ゲーム『星降る光の王国物語』を舞台にした物語です。このジャンルは初めてとなりますので、不慣れな点がございますことご容赦下さい。

さくさくと読み進めていけるように、一話一話の文章量は短めにしております。

 どこか離れたところから、携帯の目覚ましの音が聞こえる。

 いつもより夜更かしをしていたから、眠くて眠くてたまらない。眠い目をこすりながら大きなあくびを一つする。目をしばしばと瞬かせていると、いつもより部屋の中が眩しい事に気付く。

 いけない、カーテン閉めてなかった。夜遅くまで起きてたの寮母さんにばれちゃう。

 ずっと鳴りっぱなしの携帯を止めようと、枕の奥の方から引っ張り出すと何か通知が来ていることに気がついた。メールだ。もう一つ大きなあくびをしながら確認する。香織からだ。

「…ふえっ? 」

 思わず目を疑った。

 一日でもう一人攻略した…?

 まさか徹夜したのだろうか。さすが香織。思わず感心してしまった。期末試験前日までレベルアップとパラメーター上げ作業をやっていたと豪語するだけのことはある。

 どうやら香織が攻略したのは『カルヴァン』というキャラクターのようだ。

 予約サイトに掲載された主人公達の立ち絵を見てから、ずっと彼女が彼の名前を連呼していたから覚えている。

 瑠璃色の少し長めの髪が印象的なカルヴァンは、確か魔法を使えるキャラクターだ。眼鏡! クールビューティー!! 素敵!!! と香織がゲーム雑誌を立ち読みしながら悶えていた事を知っている。

 彼はサイトの事前投票でも評判が高く、ゲームの発売前から大人気の登場人物だった。ちなみに私が一推しのセルジュは第四位。納得がいかない。

『すごいなー! 香織、さすがだね! 』

 ぽちぽちとメールを返信する。

 ちらっと時計を見ると、そろそろ部屋を出なければいけない時間だ。寮母さんが作ってくれる美味しい朝食を取って、学校に行かねば。

 今日の授業を乗り切ったら、ゲーム三昧の連休が待ってる。

 私はもう一つあくびをしながら制服に着替える。そして、こっそりと銀色のネックレスを首にかけ、胸のリボンの下に隠した。

 予約特典の銀のネックレスだ。

 これは物語の中で最も重要なイベントである『星乙女の祭り』で、その年16歳の誕生日を迎えた少年少女達が、成人の証として教会から下賜されるものと全く同じデザインで、このネックレス欲しさに予約したようなものだった。

 純銀製の丸いペンダントトップは蔓草のようにくるりと青灰色の石を包んでいて、石を取り外すことも出来るようになっている。

 この青灰色をした石は物語の中で『ステラブルー』と呼ばれている。『星降る光の王国』というタイトルはここから来ているようで、精霊の加護を受けるとこの石はほの青い光を放ち、世界を災いから救う希望の光となる、とされている。

 ペンダントをくるりとまわすと、青い光が太陽の光を受けてきらりときらめいた。

 なんだかあの世界の登場人物にでもなったような気分だ。

 いけない、もう行かなきゃ。

 いってくるね、セルジュ。

 心の中で呟いて、私は慌ただしく自室を後にした。


 ◇◈◇◆◇◈◇


 すっかり硬くなった肩をぐるぐると回し、首の後ろを両手で温めるようにしてもみほぐすと、ようやく人心地ついた気がした。

 何時間くらいゲームの世界にのめり込んでいただろうか。壁の時計を見てみるとすでに、夜明けが近いくらいの時刻を指していた。

 さすがにもう、眠らないとまずい。

 私はベッドからゆっくりと降りると、部屋に備え付けてある小さな洗面台に向かった。

 うわ、髪の毛ぐっちゃぐちゃじゃん…。

 手ぐしでさっと耳の後ろへ髪を流す。さすがに2夜連続で夜更かしは良くなかった。身体が疲労を訴えてきているのがわかる。

 でも、明日もあさっても休みだし…! ゆっくり昼間にゲームできるもんね! 。

 自分の好きなことに時間をつぎ込める休日は楽しい。以前の自分にとって休日は、部活動に費やすための日だった。朝から夕方まで身体を動かし続けた日々が、今では懐かしい。もうあの頃に戻りたくはないけれど。


 そういえば天文部で、星がどうのとか言ってたっけ。


 放課後そそくさと帰り支度をしていたところに、クラスで最近気になっている男子が突然声をかけてきたのだ。

 彼は天文部に所属していて、長期休暇には自転車に乗って望遠鏡を背中に背負い、遠くまで星を見に出かけているらしい。少し日に焼けた笑顔が素敵だな、と思っていた。


 なんか惑星直列、とか言ってたっけね。

 地球と、月と、あと何個かの星が一列に並ぶとかなんとか…。


 寝不足気味の状態で話しかけられたから、あまり詳しい内容は覚えていなかったけれど、日曜日にその特別な星が見られるから、天文部員全員で学校に集まって、屋上で観測会を行うのだという。

 よかったらみんなも見にこないか、というお誘いだったのだ。

 いつもだったら二つ返事で参加の意をあらわしただろう。

『星降る光の王国物語』でも時々、主人公達が夜空を眺めるイベントが発生する。

 春には春の星座の、夏には夏の星座のイベントがあるのだ。

 星にまつわる神話を元にした物語はどれも切ないくらいに甘くて、胸がきゅっとする。

 すっかり物語に影響されていた私と香織は、時々プラネタリウムに出かけてはゲームのワンシーンを思い出し胸をときめかせ、帰り道では熱い思いを語っていたものである。

 だからそのすごく珍しい現象を見てみたい、とも思ったのだけれども、今はゲームが優先だ。

 セルジュのイベントを進めて、彼との仲を深めてエンディングを見たい。今私の胸を占めているのはそれだけだ。

 それになにより、香織ともっとたくさんおしゃべりが出来る。

 ひとりぼっちの心を救ってくれた香織。私の大切な幼なじみ。

 彼女と私をつなぐものが、このゲームなのだ。

 香織、どこまで進めたのかな…。

 私はベッドに潜り込むと、鼻先まで布団にすっぽりとくるまった。

 ああ、おふとん…きもちいい…。

 私は満ち足りた気持ちで眠りに落ちていった。

高校時代、皆さんは何部でした?

私は文芸部、天文部、放送部、クイズ研究会、歴史同好会に所属していました。

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