第一章 物語の始まり 2
架空の乙女ゲーム『星降る光の王国物語』を舞台にした物語です。このジャンルは初めてとなりますので、不慣れな点がございますことご容赦下さい。
さくさくと読み進めていけるように、一話一話の文章量は短めにしております。
『星降る光の王国物語ー星乙女達のロンドー』は前作から100年後の世界が舞台だ。
ヒロインの名前は『プリシラ』。
彼女は『星乙女の祭り』で、妖精の『豆ネコ』の祝福をうけ、『聖なる星乙女』の候補生として前作同様に教会が運営する学園に通うことになる。
限定版にのみ封入された設定集に描かれた彼女は、ふわふわの明るい金髪が愛くるしい、鮮やかな緑色の瞳をした美しい少女だった。
プリシラ、可愛い。
前作の主人公も明るい金髪にエメラルドのように濃い緑色の瞳を持ったキャラクターだったから、彼女はもしかしたらその子孫なのかも。もしかしたら聖女エンドじゃなくて、普通の女の子として攻略対象の誰かと結ばれるエンドが正史ってことなのかも。
楽しい妄想が止まらない。
今ここに香織がいてくれたら、きっともっと話が弾んで楽しかっただろうな。
そんな事を考えながらぱらぱらとページをめくっていく。
途中で何度も手を止めた。
「か、かっこいい…」
思わずため息がもれる。攻略対象の男子達だ。彼らの立ち絵のあまりの格好良さに私はしばらく見とれていた。
「ううっ…スチル絵も見たい…」
でもがまん、がまんだ。
せっかくだから、素敵な音楽と声優さんの声、美麗スチルの三点セットで味わい尽くしたい。
それにスチル絵は大体重要なイベントシーンで挟まってくる一枚絵だから、物語の大切な部分だけつまみ食いしてしまっているようで、それはもったいない気がしていた。
「よし!じゃあ、はじめよっかな!」
私はベッドの枕元で充電しておいた携帯ゲーム機を取り出すと、ときめきに胸を躍らせながら電源を入れた。
「はあ…セルジュぅ…」
ベッドに寝転がりながら、思わず甘ったるい声が出てしまった。
プレイを始めてからどれくらい時間が経っただろうか。ふと時計を見てみると、時計はすでに深夜をまわっていた。途端に現実に引き戻される。
やっばい、もう寝なきゃ。
おそらく夕食をとってから6時間以上はプレイしていたと思う。
明日、というかもうすでに今日は金曜日。あと一日頑張れば、土日はゆっくりゲームの世界に浸っていられる。今日はここで切り上げよう。
胸の上にのせていた携帯ゲーム機の画面に目をやる。
そこにはヒロインのプリシラよりも、少しオレンジがかった金色の髪をもつ少年が、青い切れ長の瞳を優しげに細めながらこちらを見つめている。
彼の名前は『セルジュ』。
プリシラの隣の家に住む幼なじみで、おそらく、彼は彼女のことが好きだ。はっきりと「好きだ」と告白された訳じゃない、けれど彼の台詞一つ、行動一つ取っても、最初から絶対好感度が高いということがわかる。それに、とっても格好いいのだ。こんな男子が幼なじみでずっと一緒にいたら、他の男子に目移りする暇なんてないと思う。
彼もまた星乙女の祭りで精霊に選ばれて、乙女を守る『星の騎士』候補生として学園に入学することになった。
入学するために生まれ育った街を離れるとき『これからも一緒に頑張ろうね』と指切りをするシーンがあるのだが、そのスチルの彼の優しい微笑みといったら。思わず変な声が出たほどだった。
一番最初のスチルですっかり彼の虜になってしまった私は、現在脇目も振らずにセルジュルートを進行中なのである。
このゲームには冒険パートとシナリオパートがある。
主人公達にはいくつかのパラメーターがあって、そこの数値が基準を満たさないと、攻略対象達との恋は始まらない。
セルジュとの恋を進めるために重要なのは「人徳」というパラメーターである。
これは困っている他者に対してどれくらい心優しい行動をとったかによって上昇するパラメーターで、例えば教科書を忘れたクラスメイトがいたら隣に座って一緒に授業を受ける、街でお腹が空いて泣いている貧しい子供を見かけたら、教会に連れて行って温かい食事の施しを受けさせる。
ぐっとシンプルなものだと、学園内で落ちているゴミを拾う、教室の清掃を積極的に行うといった、わりと現実世界でも普通に行えるような事を『毎日の日課』というコマンドで選択して行動させていくのだ。
これだけで、セルジュとの仲はどんどん良くなっていく。
物語の序盤、私が『話しかける』というコマンドを選ぶと、
『や、やあプリシラ。ごきげんよう』
と、少しうつむきつつも照れたような、はにかむような笑顔を向けてくれるだけだった彼が、物語を少し進めた今では、
『ああ、プリシラ。君のことをちょうど考えていたんだよ』
という台詞と共に、満面の優しい微笑みを向けてくれるようになった。こちらをまっすぐ見つめる視線は揺るがない。すごい進展だ。
きっと彼は心優しい彼女のことが子供の頃から好きだったに違いない。もしも二人が星の精霊によって選ばれなかったとしても、きっと二人はずっと一緒で、もしかしたら将来結婚しちゃったりなんかして…私はそんなことを想像しては、にやにやとゆるむ頬を引き締めることが出来ないでいた。
「ああ…続きが楽しみ…」
私はあくびをかみ殺しながら目を閉じる。やっぱり、星乙女は最高だ。ああ…ゲーム、楽しい…。
私は緩やかに緩やかに眠りに落ちていった。
まだまだ異世界にいってないじゃん!嘘つき!
まあまあ、落ち着いて下さいお嬢様方。どうぞ椅子におかけになって。
残念ながら現代編、まだ続くのですよ。ああ、怒らないで。可愛いお顔が台無しでございますよ?
美味しい紅茶でも飲んで、続きをお待ちくださいませね?
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