仲間の輪を乱す! と今までの功績を無視して実の妹に勇者パーティを追放された魔法使い だけれど人類史上最大の天才なので一切問題無し 寧ろ助かった ~今頃一緒に旅をしようなど言っても遅いのである!~
さて、突然だがこの世には”勇者”という称号を持つ者が存在する。一定周期で発生する”厄災”なる現象、まあ、モンスターの異常発生等だが、それに対抗すべく神が選び力を与えた人間、それが勇者だが・・・・・・我輩の意見を述べるならば大衆と権力者共の為に命を削る生け贄だ。
権力に執着する豚の様な王だの神官だのは支援しているからと民衆の支持を得る道具として、愚民共は自分達の安全を守る盾として。本人達・・・・・・ああ、勇者は複数居て、それが愚者の政争に利用されるのだが、本人達も押し付けられた理想や自己顕示欲、承認欲求に突き動かされる愚か者でしかないな。
おっと、我輩とした事が名乗っていなかった。我が名はパトリック。人類史上過去未来において最高最大最優の魔法使いであり、勇者の名誉欲を満たす手伝いを渋々してやっている人格者である。
・・・・・・いや、手伝いをしてやっていた、であった。詳細は今から語ろう。恩知らずの愚者共についてな。
「・・・・・・突然こんな事を言うのは心苦しいんだけれどハッキリ言うわ。貴方をパーティから追放するわ、兄さん」
「本当に突然であるな、テレサ」
あれは大規模なドラゴンの大量発生を我輩の活躍が八割、残りの三人で二割の功績で解決した日の翌日だ。勇者の中では有象無象の凡夫よりは幾らか秀でている我が愚妹が何やら起きながらにして寝言をほざくという隠し芸を披露して来た。頭と胸に向かう栄養の多くが筋肉に向かっている割には大した物ではあるが・・・・・・。
「面白くない冗談であるな。我輩の実力を知らぬ筈もなかろうに。この空前絶後。大天才の代わりが誰に務まる? 正解は誰にも務まらん」
我輩は己の評価だけで才を誇っているのではなく、愚かな者にも分かりやすい功績を数多く達成した真なる天才。海水や汚水を飲用に適した水に変える安価なマジックアイテムの開発や広大な荒野を一晩で農耕に適した肥えた土地に変えもした。正直今までの功績の報酬だけで子々孫々まで遊び暮らせるだけの報酬を要求出来るというのに何故わざわざ生け贄のお守りをしてやっているのか、それは愚妹が勇者だからと海よりも深い慈悲の心を見せてやったというのに。
「ええ、その辺は分かっているわ。勇者の仲間は合計四人の時が最も神の恩恵を得られる。だから兄さんの代わりは暫く前に探して、兄さん抜きで戦いに出たりもしたの」
「それ位は当然だ、馬鹿者。我輩は代役が役者不足だと言っているのだ。そんな事も分からぬか」
「そんな所よ! 兄さんが居たらパーティの輪が乱れるの! 昨日だって私達の体力を代償にする術式を勝手に発動した上にドラゴンへの魔法に巻き混んだじゃないの! もう普段から人を馬鹿にする言葉ばっかりだし、これ以上は無理なのよ!」
「あだからお前は愚かなのだ、テレサ。ちゃんと寸前に呪文詠唱の短縮の代わりに体力を消耗すると伝えたし、魔法の範囲内に居て雷撃に包まれたが影響は出ていないだろうに。兄に説教しようなど十年早い。貴様のオシメを代えてやって風呂に入れてやって寝しょんべん垂れたシーツを処理してやったのは誰だと思っているのだ」
「そ、それは今は無関係よ! もう兄さんのパーティ追放は皆で決めた事なの! 何度言っても態度を改めないし、他の勇者パーティを怒らせるし、幾ら強くても一緒には戦えないわ!」
愚妹にも理解可能なように多少大袈裟な溜め息を吐き出せば乱暴に机を叩いて立ち去って行く。・・・・・・ふん。
「我輩が要らぬと豪語するなら勝手にするのである。元より兄の慈悲で力を貸してやっていただけ。貯蓄も十分にある我輩が生活に困る事も無いし、研究に没頭するだけだ。だが、後で泣き付いてもう知らぬ」
これが我輩に対する恩知らず共の対応。他の勇者共とのトラブル? はっ! 我輩のお陰で得た愚妹の十分の一も活躍していない雑魚に雑魚と言っただけであるし、我輩が魔法無しで叩きのめしたのだから何の問題が?
昨日とて我輩の盾になっていれば短縮しなかった詠唱時間の分の体力消費があったし、その方が負担が大きかったのである。
「もう妹だろうと知った事か。何があろうとも自業自得なのである!」
それからの我輩について少し語ってやろう。暫し町で暮らしてみるのも悪くは無いと思ったので取り敢えず冒険者ギルドに登録しようとすれば我が輩を知らぬ愚者に絡まれたので一捻りにしてやれば注目され、先ずは簡単な仕事からと薬草採取を選べば盗賊に襲われている貴族令嬢に遭遇、助けた事で惚れられ、その後もなんやかんやで我が輩の周りには女が増えてアプローチしていった。やれやれ、我が輩は静かに暮らしたいのだがな。
……なんて事は有り得ず、日雇い労働者である冒険者などになる必要にない我が輩は長距離転移で速攻で帰郷、何処で知らぬ相手が知らぬ者に襲われようが関与はしないのである。そもそも助けた程度で惚れる女がどれだけの割合居るのやら。多いのであれば男の勇者は美醜も関係無く老いも若いも揃って言い寄る女に辟易する筈だし、胸に栄養が向かわない愚妹だって少しは男に縁があるはず。つまりは低確率という訳だ。
まあ、上記のようなイベントこそ無かったが、鬱陶しい連中は次々と現れたな。
「貴方ほどの方を追放するだなんて信じられません! 僕達と人々を救いましょう!」
「是非私が支援する勇者を助けてくれ。報酬は幾らでも出そう」
「貴様の力、野に置くのは惜しい。今なら私を好きにして良いぞ」
我輩が愚妹に力を貸していたのは兄としての情であり、人助けやら貴族の約束した報酬やら脳味噌まで筋肉な女には一切の価値を感じないのである。だから研究の邪魔だと追い払ったし、食い下がるならば試験の名目でボコボコにしてやった。我輩、真の天才故に魔法のみならず杖術や格闘術も得意なのだ。だが、本職で無き者に負ける凡夫以下のガラクタに力を貸すなど逆に人類の損失、天才の時間は貴重なのだ。
ああ、我輩を追放した愚妹とその仲間達? その後、大した活躍も無しに終わったぞ。当然なのである。
「ふぅ。矢っ張り実家は落ち着くなあ」
「落ち着いてないでテーブルの上を片づけるのである、愚妹」
「もー! その愚妹っての止めてよね、兄さん!」
厄災は一定周期で訪れる。つまりは間隔が開くという訳で、今こうして料理を優秀な兄に任せてゆっくりとしている馬鹿が勇者として動く期間は終わったのだ。愚妹が嫌ならば愚者であるな。
「ふん。我輩を追放以降は一切大きな仕事を達成していないノロマが生意気な」
「そりゃまあ、私達が危険な任務に挑んでも現地に先に飛んで到着前に終わらせている誰かさんが居たものね。研究の一環とか実地テストって言ってさ。いやぁ、私達が向かった先ばかりなんだから凄い偶然だよね」
「はっ! どんな低い確率も起きる時は起きるのだ、大愚者」
「大ぐっ!? ……ぐぬぬ。言わせておけば」
ニヤニヤ笑いながら一向に手を動かさない愚妹の前に皿を並べて行く。まったく、我輩が居ないだけで活躍出来ぬとは情けない限りなのである。
「あっ、そうそう。旅が楽しくなったし、もう一度旅に出ようと思うんだけれど兄さんも一緒に来る?」
「我輩は研究で忙しい。今後は世界を回り各地の魔法文化を研究するのだ。貴様の遊びの旅に付き合えるか、愚妹」
「もー! また愚妹って言うー! そんなだから恋人すら出来ないんだよ!」
「おい、鏡は其処だぞ」
さて、数日後には旅に出よう。愚妹の出発日もその辺だろうが無関係だし、偶々向かう先が同じだろうが困っても助けてやる義理は皆無である。
そっちが我輩を追放したのだし、その後困ろうと知った事ではない。……だから放った魔法が偶然手助けになったり、多めに払った勘定に愚妹の分が含まれていると店員が勘違いしようが知りはしない。
今頃一緒に旅をしようなど言っても遅いのである!
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