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私ビジネス魔法少女なので!

 草野球の試合から一日が経った。

私達は、またピッツァデリバリーの仕事をこなしていたの

だが、一つ問題が起きてしまった。

「アイタタタ」

「もう大丈夫? お姉ちゃん」

「大丈夫じゃない、思いっきり筋肉痛が凄い」

「やっぱりお年寄りはダメだねー」

「いや! リリーの作った魔装が私の限界を超えちゃうぐらい速く走れちゃったせいだからね?」

「えへへ、ごめんごめん。 ところで本当に大丈夫?」

「ダイジョウブじゃない……」

「うーん。 店主に休みを貰って温泉にでも行ってみようか?」

「温泉!

その言葉を聞いた瞬間お姉ちゃんは小型犬のようなつぶらな瞳を輝かせた。

なんだこのお姉ちゃんやっぱりかわいいな!と心の声が漏れそうになったが、そこは必死に抑える。


 私達は、翌日さっそく店主にお休みを頂いて温泉へと行くことにした。

温泉に行くにはいつもデリバリーに使っている杖を使えば、一飛びで行くことができた。

私達は女湯に入ると、そこには極楽が広がっていた。

まず目を見張ったのは、天然の露天風呂である。

露天風呂はこの温泉の看板で、天然かけ流しの湯でこの温浴ために貴婦人方が何日もかけやってくるほどだ。

私達は身を清めた後、浴びるように温泉へと入った。

「くぅー癒やされる」

「んーそうだね、というかお姉ちゃんおっぱい大きくなった?」

「あ、セクハラ発言禁止! リリーは背も胸もあんまり変わんないわね」

そんななんてことのない会話を楽しんでいた時であった。


「もうこのボロ温泉に来てやったというのに、なんですのあの店主の態度」

どこかで聞いたことのある声が聞こえてきた。

そうこの間草野球を行ったチームのオーナーで、悪役令嬢風の女マルゲリータである。

私達はせっかく癒やされに来たのに、面倒くさい人に捕まると嫌だなと感じさっと身を隠そうとした。

しかし、この露天風呂に身を隠せるところなどなく、うっかり目と目があってしまった。

「あ! あなた達は」

苦虫を噛み潰したような表情で、彼女は私達をにらみつけてくる。

私達は身を翻し厄介なことにならないうちに、温泉から一旦あがろうとしたが彼女がそれを許さない。

「ちょっと待ちなさいな、明らかに面倒くさい人を見つけたかのような態度をとられるのが私一番傷つきますの」

「いやー、私達もうゆでダコ状態でこれ以上はちょっともう……」

「嘘つきなさいな、全然体が温まっていませんわよ、むしろ体がカチコチに固まっていますわ」

そういってマルゲリータは、ナチュラルに私達にボディータッチを行ってくる。

こうなるともう完全に彼女のペースに持っていかれ、べらべらと温泉についての知識が語られだす。

私達は、露骨に知識でマウントをとってくる彼女の態度に辟易としながらも、一応はうんうんと相槌をうつ。

「……まあこういうわけでなのだけれど、あなた達もこの温泉にはサウナを目的に入ってきたの?」

「いやー私達は本当にたまたまここに来ただけで」

「じゃああなた達にサウナの魅力を私直々に教えてあげますわ」

「え」

私達姉妹は互いに顔を見つめ合わせ、一瞬硬直した。

予想以上にまだまだこの我儘令嬢につきあわされることになりそうだからだ。

「そういえば、あの従者の方はいらっしゃらないんですか?」

「もうすぐあるものを持ってやってくるわ、そんなことよりも早く湯船につかりなさいな」


 私達は彼女が勧めるがまま湯船に浸からされた。

彼女が言うにはまずサウナに入る前に湯船に浸かり、体をあたためることが重要なのだという。

言われたとおりに湯船へと浸かり、暖を取る。

ただ湯に浸かっているだけではどうにも暇なので、退屈しのぎにおしゃべりを始めた。

「ねえご令嬢」

「なんですの?」

「ご令嬢って肌とかツルツルで羨ましいなー」

「あら褒めても何も出ませんのよ?」

そう言いつつも悪役令嬢風の女の顔は綻んでおり素直に喜んでいるようだ。

意外とチョロいなと思いつつも、可愛いもっと弄ってやりたいと思う気持ちが強くなっていく。

「うわー綺麗な瞳、まるで真珠みたいですね」

「オホホ」

っ・・・!

可愛い。

性格はあまり好きにはなれなかったが、見てくれだけは素直に評価できるなと思った。


 私達はある程度暖をとると、サウナへと向かった。

サウナへと入ると、私達は一番奥の席へ行こうとしたが、それをマルゲリータに止められる。

「一番奥の席は私のような上級者向けですわ、あなた達は下の隅っこの席がお似合いですのよ」

「は、はあ」

逆らうと面倒くさいことはわかっているので、素直に一番下の席へと陣取った。

しかしサウナというものに入ったのは初めてだが、この空間とても熱い。

私達は入ってそうそうに音を上げそうになったが、マルゲリータが涼しい顔をして何かを舞っている様子なので悔しくてそこに留まると決めた。サウナで舞ってるんですか?(;・∀・)危ない人ですな

そんな時彼女はこんなことを呟いた。

「そろそろ従者長のアルテミスがやってくる頃ですわ」

それが何を意味する言葉なのかは彼女がやってきてすぐにわかった。

アルテミスは、バケツと濡れタオルを持ってきていかにもなにかを始めようとしているのがわかった。

「あなた達覚悟はよろしくて?」

マルゲリータは、まるでおもちゃを見せびらかす子供のような張り切りを見せたが、私達には全く伝わってこない。

次の瞬間私達は彼女の張り切りの意味を理解した。

従者長のアルテミスは、香料が入っている芳しい香りのするその水をサウナストーンへとかけた。

当然サウナストーンからは物凄い熱気の嵐があがる。

それをアルテミスは、濡れタオルで仰ぎ熱波の嵐を送りつけてくる。

これはいわゆるロウリュウといわれるものらしく、物凄い勢いで体の温度が上昇すると共に、心地よさが襲ってくる。


あまりの凄い熱波に一瞬よろけたお姉ちゃんが私の肌に触れる。

ッ・・・!

なんて柔らかい肌をしているんだ、このまま倒れたままでいて欲しいそんな邪な感情を尻目にお姉ちゃんは、すぐに起き上がる。

「ごめんなさい、ちょっとフラっとしちゃって」

「大丈夫、大丈夫。 むしろドンドン当たりに来て」

「え?」

「いや、アハハ」

熱波は、お姉ちゃんの次に私へと襲ってきた。

ウグッと声が漏れ出しそうになるが、これは堪えて体勢は保つ。

そして次の瞬間には多幸感へと誘われていた。

なんだこれ……!

サウナというものはただ熱いだけでなく、物凄い快楽をもたらす場所ではないか!

私は新たな娯楽場の発見に嬉しさを感じつつも、楽しいロウリュウの時間は終わりを告げた。

ロウリュウが終わると一気に熱いという感覚が再燃し、私達はサウナから逃げるように出た。

ただその際従者長アルテミスから「あの……」と小さい声で囁かれた気がした。


 私達はサウナから出るとまずは大量の汗を拭き取るため、身を清めた。

すると、遅れて優雅にマルゲリータがサウナから出てきた。

「あら、こんなものですの? どうやらサウナ勝負は私の勝ちのようですわね」

そういって上機嫌でご満悦な様子であった。

「さて次は、水風呂に入ることをおすすめしますわ」

「えー、水風呂? 私苦手なんだけれど……」

私は顔をしかめた。

「あらあらサウナの後の水風呂は、格別ですてよ?」

そういってマルゲリータは従者長に体を流させると、水風呂へゆっくりと浸かっていった。

私はいくら熱いサウナの後とはいえ、水風呂に入るなんて自殺行為だとしか思えなかったが、マルゲリータは不思議と冷たそうにない。

「あら? お二人は入りませんの?」

そういって勿体ないものを見るような顔と、意地悪な顔が入りじまった不気味な表情を浮かべるので、それに誘われるが如く私達は水風呂へと入浴した。

水風呂に入ったその瞬間冷たいそんな感覚がしたが、不思議と我慢できた。

というよりも冷たいというよりはひんやりと気持ちがいい。

なんだか不思議な感覚を味わうこととなった。

「さてはてあんまり水風呂に入りすぎると風邪をひきますわよ?」

そういってマルゲリータが水風呂からあがっていくのあわせて、私達も水風呂からあがった。


 私達は今、次にマルゲリータが何をするのか一挙手一投足を注視していた。

すると彼女は、リクライニングチェアを従者長に用意させ、横になったではないか。

「あなた達もどう?」

そういって彼女は、私達用のリクライニングチェアを用意してくれた。

「次は何をするんです?」

私達は次にどんな手品で、楽しませてくれるのかとすっかり楽しみになっていた。

だが彼女は言った。

「いや? 別にずっと横になっているだけですわよ」

「へ?」

私達は拍子抜けした表情を浮かべるが、ここが実は一番重要なポイントなのだということを知ることになった。

リクライニングチェアに横になると、全身の血流のめぐりが急激によくなることを感じた。

そしてそれによって、まるで全身の血管が広がり快感へとつながっていった。

「はー気持ちがいい」

私がなんのけなしに一言呟くとそれに対しマルゲリータはこう返した。

「あら? そういうのはととのったって言いますのよ」

「へー、じゃあととのったー!」

そういって私は至福の時を過ごした後、風呂場からあがった。


 風呂場からあがると、私達の疲労感はすっかりと解消されていた。

そして従者長がこんなことを申し出てきた。

「あの……すみませんあなた達魔法少女ですよね?」

「え!」

私達は顔を強張らせ、従者長を端っこへと連れていった。

「なんでそのことを知ってるんですか?」

お姉ちゃんが従者長につめより、尋ねる。

「店主さんから聞きました」

その言葉を聞くとあの店主め……!

という怒りの表情をお姉ちゃんは露わにした。

私はそんな顔しないでと心を痛めたが、なかなか見れないレアな表情だったのでよしとした。

「んーと、それで何か私達に頼みが?」

「えーとこんなことを言うとおかしいかもしれませんが、私お嬢様のことが好きなんです」

「えー、あのお嬢様のどこらへんが好きなの? 性格滅茶苦茶悪そうだよ?」

「コラコラ、突っ込みどころはそこじゃないから、あと悪口を言わない」

お姉ちゃんが間髪いれず突っ込みをいれる。

「確かに同性のことを好きなのは、一般的でないかもしれませんが相手が好きという純粋な気持ちはとても素敵なことかと」

「うんうん、私もお姉ちゃんのこと大好きだし!」

「リリーはもう黙ってて、あと好きにはいろんな好きがあるんだからおこちゃまは口出ししないの」

私の意見を全くとりいれてくれないので、ムスッとした表情を浮かべる。

「それで私達はどうお手伝いすれば?」

「性別を入れ替える魔法をかけてください!」

「性別を入れる変える魔法……確かにできることはできますが、大変強い魔法ですので扱いきれるかどうか」

「リスクは覚悟しています」

彼女の目は据わっていた。

「ねーお姉ちゃん助けてあげようよ」

「あなたね……どうなっても知らないわよ?」

私達は少しの間話し合いを続け、結局報酬次第でやるということになった。

「私ビジネス魔法少女ですので報酬を頂くことになりますが、報酬はなにを?」

「そうですね……お給金を貯めて買ったこの指輪を」

するとみるからに高級そうな指輪を見せてきた。

交渉は成立だ。

「魔法少女リリーが命じる彼の者の性別を入れ替えよ『トランス!』」

そういうと彼女は長い赤髪に緑色の瞳をした少女から、青年へと入れ替わった。

「わー、ありがとうございます」

「今つけてる指輪を外してみてください」

指輪を外すと、彼女は性別がまた少女へと戻った。

「いきなり性別が入れ替わると困ることも多いと思うので、着脱することで性別を入れ替えられるようにしました」

「確かにそうですね! ありがとうございます。 でもこの指輪を渡すことはできなくなりましたね」

「報酬でしたら恋が実った際に倍返しで頂きますので、ご心配なく」

お姉ちゃんがニコリとした表情を浮かべるが、そこからはがめつさとしたたかさを感じさせられた。

「えーと、それより男の時になんて名前にする?」

私が尋ねる。

「そうですね……パーシヴァルなんてどうでしょう」

「おお! かっこいいですね」

「それじゃあお嬢様が呼んでいるのでまた」

「おおきに!」

「でも実質タダであんな強い魔法を使ちゃっていいの? 体とか大丈夫?」

お姉ちゃんが尋ねてくる。

「私ビジネス魔法少女だけれど、それよりも前に魔法少女って人を助けるのが使命だと思っているの。 だから大丈夫!」

私は魔力の消費に体をフラつかせながらも、笑顔で返した。

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