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結婚式

 明くる日マルゲリータと頭取の息子との結婚式が開かれると大々的に発表された。

 その結婚式には、近隣の領主を始めとした所謂有力者といわれる者達が一堂に会する場であった。

 そのことについて私は、危機感を覚えていた。

 最初は敵ではあったが、なんだかんだといって一緒に旅をした仲間だ。

 その仲間が望まない結婚をさせられるとなれば、心を痛めないものはいないだろう。

「ねえお姉ちゃんこのままだとお嬢様と頭取の息子が望まない結婚しちゃうことになるよ」

「大丈夫、とっておきの策があるから。そう言ったでしょ?」

 そう言い終わるとフフフと吹き出すような笑みを、謎の笑いをお姉ちゃんは浮かべる。

「なんで笑うの?」

「いや、本当に優しい子に育ったなと思ってね」

「もうお姉ちゃんたら! 私は真面目な話をしてるんだからね」

 そういっている間にも時間は瞬く間に過ぎ、遂には結婚式当日となった。



「おいご令嬢の様子を見に行って差し上げろ」

 そうハワードが、秘書に命令を下す。

「はあ……」

「なんだ? 不服か?」

 秘書の息の抜けた態度を見て露骨に腹を立てるハワード。

 それもそのはずだ、この結婚式場には王城並の厳戒態勢が敷かれている。

 それに今は無理矢理結婚させるための道具、「永遠の愛を約束する指輪」も揃っている。

 もう何の心配もいらないはずだ。

 些かハワードの心配というのは、取り越し苦労を通り越し石橋を叩いて渡るような行為だ。

 だがそれはハワードにとっては普通。

 そうやって財を成してきた男なのだ。

「わかりました、一応ですが見てきます」

「ああ、そうしてくれると助かる」

 秘書がハワードの元を離れ、マルゲリータのいる衣装室へと行ってから十分程経ってからだった。

 彼は急いでハワードの元へと駆け寄り、酷く動揺していた。

「あの頭取、ご令嬢が……衣装室に居られません!」

「なにぃっ」

 ほれみたことかと言わんばかりにハワードは、大声をあげる。

「見張りのものはなにをしているんだ! さっさと辺りを探索してこいまだそう遠くには行っていないはずだ」

「はいい」

 気の弱い秘書は、ハワードに恫喝され見張りの者へと意見を聞いて回った。

 だが皆口を揃えて、衣装室からマルゲリータが出ていったとの証言は得ることができなかった。

「あ、そう言えばなんですが」

「なんだ?」

「たぶん側付きの者だと思うんですが、衣装室からトイレへ行くと男と女が出ていくのは見ました」

「……そうか、それは確かにご令嬢じゃなかったんだな?」

「はい男でしたので、間違いありません」

「クソッ……! 一体全体どうなっているんだ」

 秘書はいくら探して回ってもついぞマルゲリータを発見することはできなかった。

 そのことをハワードに報告すると、一言「そうか」と静かに呟くのみであった。

「あのーこれはどういうことなんでしょうか?」

「さあな……ただこの世には儂を凌ぐとんでもないワルが、いたってことだよ」



 そう。これがお姉ちゃんの言っていった、とっておきの策であった。

 トリックは単純明快。パーシヴァルさんのはめていた指輪を、マルゲリータにはめさせ駆け落ちさせるというものである。

 だが、性転換の指輪の存在を知るものは極僅か。マルゲリータがいきなり別の男性に入れ替わったとなると、それを看破できる者は護衛の者にはいないであろう。

 その結果結婚式は失敗に終わり、ハワードの地位は失墜することになったのである。

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