刺客
私達は指輪を受け取ると、次の瞬間に文句の一つでも言ってやろうかと思っていたのだが、遂にそれは叶わなかった。
なんとパーシヴァルさんの持っていた指輪がいきなり光を放ち私達を、ダンジョンの入り口にまで送り届けてくれたからだ。
これが彼女なりの配慮なのか、はたまた意地悪なのかはわからないが流石に決死のダンジョンに挑んだ後で疲れもドッと来る。
そんな中でいちいち元の場所を帰らなくていいのは非常にありがたい。
私は安心して、ふぅと気の抜けた一言を言い放った。
するとその様子を見たお姉ちゃんがポンと肩に手を置いた。
「ダンジョンでは色々ありがとうね、けど私達の目的はあくまでお嬢様を送り届けて指輪をお金に換金すること。このへんは
治安も悪いようだし、まだ安心は全然できないわ、先を急ぎましょう」
それを聞いて私は少し自分がどこか安心してしまっていたことに気が付き恥じた。
淡々と冷静に物事を分析し、そして私への労いも忘れない。
これがお姉ちゃんの資質なのだと私は感嘆しそうになった。
「私が太陽なら、お姉ちゃんは月だね」
「どういうこと?」
「どんな暗い状況でも必ず私達に、明るい光をもたらしてくれる」
「うーんうまいこと言えてないと思うよ? とりあえず先を急ぎましょう!」
私はコクリと頷き、この治安の悪い最後の街を颯爽と駆け抜けた。
★
「ハワード様あのダンジョンから先程帰ってきたとの報告がございました」
「そうか、それでこそビジネスのしがいのある相手というものだ。 だが奴らとて次の仕掛けは見破れまい」
「そうでございますね」
秘書はハワードに一瞥し、少し恐れ慄く表情を浮かべていた。
決死のダンジョンをクリアすることも既に予見済みで、しかも次に仕掛ける仕掛け……それを考えると成程ビジネスでこれだけ成功するのも頷ける。
絶対に敵には回したくない相手だなと思いつつ、秘書は彼の部屋から出ていったのであった。
★
私達はというと例の一番最初の難所である馬鹿でかい谷を越して一先ず一服していた時であった。
今思えば、こんな谷なんて屁でもないぐらいの危ない展開続きだったなと思う。
だが、私達はこうして生き延びている。
そんな中、どこかで聞いたことのある声が私達のことを呼んだ。
「おーいお嬢ちゃん達、さぞかし疲れただろう。 ピッツアを持ってきてやったぞ!」
「あ! もしかしてあれは、クローネさん?」
「そうだよクローネだよ、お嬢ちゃん達大丈夫だったか? 差し入れ持ってきやったんだが……」
私はいきなり現れたこの男に対し不信感を覚えつつも、声や背格好は確かにクローネさんで間違いないため混乱してしまった。
するとお姉ちゃんはこんなことを言い放つ。
「クローネさん! 差し入れを持ってきたのはありがたいんですが、ちょっといくつか質問に答えてもらえませんか?」
「質問? いいぜ! なんでも答えてやる」
「じゃあまず質問その一です、私達の名前を全員分答えてください」
「アリス、リリー、マルゲリータ様、それとその赤髪のガキンチョは見たことはあるけど名前は聞いたことねえな」
あっている、明らかにおかしな状況ではあるが知識の面であっている以上信用できる可能性は非常に高くなった。
「ありがとうございます! じゃあ次に私達との出会いを答えてください」
「アリスちゃんとリリーちゃんは俺を救ってもらったけな? そしてお嬢様には草野球、赤髪は一日前にちょろっと俺の店へと来た」
これも正解だ、私の中では疑問は確信へと変わりつつあったけれど、やはりまだ引っかかる点の方が多い。
「じゃあ最後の質問です、私達の年齢を当ててみてください、質問しても結構です」
「えーとリリーちゃんが一四で、お姉ちゃんが一六、お嬢様は一七で、その赤髪の子はわかんねえ」
「わからないでなく答えてください」
「いや……それはちょっとな」
店主は困惑の表情を浮かべた、それと対照的にお姉ちゃんはニイと口角をあげた。
「ありがとうございます! これで確信できました」
「本当か? じゃあちょっと指輪を俺にも見してくれねえか?」
「いえ、あなたが偽物だということが確信に変わったんですよ」
「……は?」
クローネと思わしき人物は困惑の表情を浮かべ動揺する。
「どういうことかな? 俺はすべての質問に答えたつもりなんだが」
「最後の質問です。 どうしてパーシヴァルさんの年齢を尋ねなかったんです?」
「いや……それは」
「ほぼ初対面だから? いいえ違いますよね? 本当は彼のことをよくリサーチして女性であることを知っているから躊躇ってしまった、そうでしょう?」
「……このガキがぁあ!」
次の瞬間には、柔和な表情を崩し私達へと一直線に突っ込んできて暗殺者としての一面を露わにした。
やはりこの店主は偽物だったのだ、そして次の瞬間にはマルゲリータを取り押さえてしまった。
「リリーあの時みたいにやっちゃって」
「え? あ! うんわかった」
「どうした? こいつの命を助けたくば指輪をこっちに渡せ」
「わかった、投げて渡しますね」
「おう聞きわけがいいじゃあねえか」
そういって私はマルゲリータの腹にむかって投げつけた。
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