反撃開始!
私は剣を構え、マリオネットをグチャグチャに踏み潰す虚人へと切りかかった。
しかしその必死の攻撃も雷のような速さで、身を翻し躱されてしまう。
「クソッ……攻撃があたりさえすれば倒せるはずなのに!」
私はつい思わったことを口に漏らしてしまう。
そしてその言葉に反応し、攻撃対象も私へと移る。
私は反撃に転じることができたと思ったのも束の間、また一瞬にしてどん詰まりといった状況へと追い込まれた。
そう私が考えた時であった。
「鬼さんこちら」
お姉ちゃんの声が聞こえた。
まずい、これでは攻撃の対象が戦えないお姉ちゃんへと移ってしまう。
その言葉を聞いて、すかさず身を翻しお姉ちゃんへ襲いかかる虚人であったが、お姉ちゃんのやった意図を察する。
そうかこれで攻撃のチャンスができるではないか。
私は踵を返す一瞬の隙を見逃さずに、頸へと切りかかった。
人もどきとはいえ、虚人の頸を切るというのはあまりいい感触はしなかった。
私は必死にごめんなさいと心の中でつぶやきながら、頸の切断に入る。
頸は普通に切るならばかなり苦戦しそうな程硬かったが、ストレングスで強化した筋力でならいとも容易く切断できた。
ボトリと落ちる頸、それをみて皆安堵したこれで勝ったのだと。
だがその幻想は一瞬にして打ち砕かれてしまった。
なんと虚人の頸は一瞬にして再生し、また新たな頸が生えてきたではないか。
それを見て、一瞬の歓喜は絶望へと変わった。
「どうしてですの! 頸を切り落としたのに、あいつ生きてますわ」
「落ち着いて、たぶんウィークポイントが違った、のだと私は思う。 普通弱点ならばいくら意思がないとはいえ攻撃よりも防御を優先するはず。
それをしなかったというのは、つまり弱点ではないってこと。 それに何かさっきの切断で光明が見えた気がする」
光明といっても奴は常に光っているじゃんと言いたくなるところだったが、この場にはそんなジョークは似合わない。
私はお姉ちゃんの方向に向かう虚人から気をそらすため、わざと声をあげる。
「光明っていうのはどういうこと?」
それに呼応するように再び私に襲いかかろうとする虚人。
まったくせわしないやつだと私は内心を吐露する。
そしてある程度の距離を見計らってお姉ちゃんは要件を伝えてきた
「お気づきの通り声役となる囮と攻撃する二人がいれば、この虚人は攻撃すること自体は簡単。 だが弱点を特定するのは難しい。
そう考えていると思うけれど、今の攻撃でだいぶ位置は絞れたわ」
私は同じ要領である程度の間合いになった時に質問を返した。
「え? 弱点ってどこ?」
「いかにも怪しげな上半身は少なくともありえないってことですよね? なぜならばそこが弱点なら必死で防御しようとするはず。
その理屈でいくと腕なんて切られやすい場所は筆頭だから、そこも弱点でない。 つまり攻撃範囲は下半身のいずれか」
お姉ちゃんの答えを代弁したのはパーシヴァルさんであった。
「その通りね。 ただチャンスは一回ある作戦を皆に実行してほしいわ」※一回しかないのか、一回試して欲しいのか、どちらでしょ?
お姉ちゃんは口早に作戦を伝えた。
それは囮役と攻撃役二人に分かれて、攻撃を仕掛けるというものである。
先程の推理で攻撃すべき場所は、右足と左足のどちらかに絞ることができた。
あとは二人で同時に攻撃を行い、奴を倒そうという算段である。
囮役は、お姉ちゃんが勝手でた。
私達はさっそく作戦を実行に移した。お姉ちゃん曰く、ある魔装を使えば百パーセント攻撃が成功するというらしいが半信半疑であった。
囮役となったお姉ちゃんの方に攻撃を移そうとする虚人に対して、パーシヴァルさんが右足へと切りかかった。
が、ここで作戦が一つ破綻する音が聞こえた。
虚人の体はとても硬く、男一人の力でも斬ることがとても難しいのである。
「グガッ……!」
苦悶の声をあげる虚人であったが、切断にはいたらない。
ダメかと思いかけていたその時であった。
パーシヴァルさんの手の上にまた別の手のひらが乗った。
マルゲリータである。
そうか!
二人の力をあわせて切断しようという計算なのか、その目論見通り切断が進んでいく。
よし、次は私の番だ。
ストレングスで目一杯筋力を増強し、スルーのかかったボールを投げた。
だが、当然スルーの魔法がかかったボールである。
虚人を避けていってしまうのではないかと思った時であった。
なんと虚人へと真っ直ぐにとんでいき、左足にあったコアと思わしき物体を破壊したのである!
「……え? どういうこと」
「やっぱり私の推測通りね。 虚人にはコアが存在していて、それを周りのハリボテの体で偽装しているだけ、つまりスルーのボールを投げれば一度ハリボテを避けるわけ
だからコアに必ず命中するというわけよ」
成程、流石お姉ちゃんと思った次の瞬間であった。
虚人の体は崩壊していくが、コアがどんどんと膨張していくのがわかった。
「え! なんかこれやばいよ」
「落ち着いて! 所詮これは最後っ屁よ。 この部屋は見たところ正方形になっている。 あのコアは今部屋の中央で膨張を始めた。
全員が四隅に逃げて体育座りをすれば、必ず隙間が生まれて助かるはずよ」
「わかった!」
そういって私達は別々の方向へと、ダッシュした。
逃げていく瞬間後ろを振り向かなかったが、これに触れるとまずいという感覚だけはビリビリと伝わってきた。
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