光の通路
私達は 二層を抜けて三層ともいうべきこのフロアに辿り着いてからずっと何の変哲もない通路をあるき続けていた。
「ねえお姉ちゃん、なんだかここのフロアおかしくない?」
「……確かに。 何の仕掛けもないしちゃんと周りを見渡すことができる、いやむしろ眩しいくらい」
お姉ちゃんの言う通りこのフロアはある一方の場所から、光源が差し込んでおりそこが出口と言わんばかりであった。
今までの意地悪な仕掛けを目の当たりにしていた私からすれば、これは明らかにおかしい自体に思えた。
私は先程のご飯時に二層であった顛末を、他のものにも共有していたからここの仕掛けが特になにもないことに不審がるのはごく自然なことだ。
「お姉ちゃんはこれをどう見るの?」
「……意図はわからないけれど、おそらくこの光の先に目当てのものがある」
「そうだね、この先の奥に八億が……」
お姉ちゃんの言うとおりだ、今はとにかくゴールを目指してひたむきに進むしかない。
そこに一切の迷いは必要でなく、むしろ邪魔だ。
ただお姉ちゃんの言っていたとっておきの策というのだけは気になってはいたが。
「八億? 何の話ですの」
「いや、なんでもないハハハ」
笑って誤魔化す私を見て訝しげな表情をマルゲリータは浮かべる。
そんな時に思わぬ救いの手が入った。
パーシヴァルさんが別の話題を振ってくれたのである。
「ところで思っていたことなんですが」
「はいなんでしょう、パーシヴァルさん」
私は思わぬ吉兆に対し食い気味に反応した。
「どうしてこのダンジョンから指輪を持ち帰ることができなかったんでしょう?」
「さあ? このダンジョンがそれだけ難易度が高いからじゃないですか?」
私は彼が何を言いたいのだろうか正直よくわからなかった。
これだけ意地悪な仕掛けが沢山施されているのだ、持ち帰られない人がいたとしても何も不思議ではない。
「……そうだといいんですが」
「なんです? 何か不安なんです?」
「いえ、ただもう先に持ち帰られてるんじゃないかって不安になって」
「あー」
私は思わぬ考えに唸って手を叩いた。
確かにそれは考えてもいなかったことだ。
だがそんなことを考えていても埒があかない、
「まあ持ち帰られたって話は聞かないですし、普通に大丈夫なんじゃないですか?」
私はそんな楽観主義的な様相で振る舞うが、それに対し彼は懐疑的な表情を浮かべる。
とにかく今はこの層を突破することが攻略の必須条件である。
私はこの層を突破するために必要になりそうな物がないか頭の中の考えを巡らせてみた。
「それにしても眩しいね……お姉ちゃんが作った目の前が真っ暗になる魔装があればなー」
「あるわよ?」
「え!」
私は素っ頓狂な声を思わずあげた、あれは確かクローネさんに渡しておいたはずである。
「ここに向かう前に店主さんから受け取ってきてたの、少しでも便利な道具はあるといいと思って」
「へーそうだったんだ」
私はお姉ちゃんの準備のよさに素直に感嘆した。
「でもこれじゃあ一人しか眩しさを防げないよ?」
「だったら、あなたがこの真っ暗になる眼鏡をかけて、私が視覚共有する眼鏡をかければいい。 後の二人は、私達の後ろをくっついてくれば眩しさを防げる」
「おーすごい!」
早速それを実行に移し、私を前にマルゲリータさんを後ろに、お姉ちゃんを前にパーシヴァルさんを後ろに隊列を組んで先へと進むようにした。
この試みは始めはうまく言ったように思えた。
だがそれは初めのうちだけだと言うことに気付かされた。
「お姉ちゃんいる?」
返答がない。
「お姉ちゃーん」
しまった、視界が塞がれてしまいお姉ちゃん達とはぐれてしまった。
「うわーんお姉ちゃんとはぐれちゃった」
「もう! 何やってるんですの」
「……ごめんなさい」
「まったく!」
マルゲリータはプンスカと怒りの表情を浮かべる。
こういう時は話を変えるに限る、そう思い私は前から気になっていたことをぶつけてみた。
「ねえお嬢様はパーシヴァルさんのことどう思ってるんですか?」
「どう思ってるとは?」
この反応からもわかるがこういう話になるとかなりの鈍感ちんである。
しかしそれで話が終わっては面白くない。
もっと踏み込んだ話をするべきだ。
「だから好きかどうかってこと!」
「え……?」
一瞬の硬直をした後に、必死に頭を回転させているのがわかる。
「そうですね、好きか嫌いかで言えば……好きかもしれないですわね」
「え? ほんと! やったね、パーシヴァルさん」
「でも待ってくださいな、私の言っている好きとあなたの考えている好きとはちょっと違うかもしれませんわ」
「どういうこと?」
私が尋ねるとこんなことを聞き返してきた。
「あなた、お姉ちゃんのこと好きですわよね?」
「え! なんでわかるんです?」
「……見てたらわかりますわ、まあそれと似た感覚かもしれないですわね」
「なるほど?」
つまりは愛に直結するような好きではなく、親しみに近いような好きなのだと言いたいのであろうか。
うーん難しいなと思い、私は真っ暗の視界の中を手探りで進んでいった。
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