勝利の後に
霧が晴れるとそこには、私の知る仲間達が立っていた。
「うわ! びっくりしたいきなり消えていきなり出てくるんだもん、リリー」
私は本当のお姉ちゃんだということを確信し、お姉ちゃんのもとへと駆け寄った。
「お姉ちゃん!」
私は安堵から涙を流しながら、お姉ちゃんを抱きしめた。
「もう……甘えん坊なんだから」
そういってお姉ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。
やはりこれは本当のお姉ちゃんだ。
とりあえず私は霧が出てこないうちに、先へ進むことへとした。
しばらくすると、ダンジョンの二層を抜ける扉を発見した。
私達はその扉を抜けると、第三層へと続く階段を発見し下へと降りていった。
下の層からはほのかに灯りが漏れており、今までのように視界狭窄に苦しむことはなさそうだ。
私は階下へ辿り着くと、周りを一通り見渡した。
そこはどうやら迷路のような空間で、入り口付近には特にトラップのような仕掛けはないように思えた。
それがわかると今までの疲れからか、ドッと空腹感が押し寄せてきた。
「ねえお姉ちゃんそろそろここらへんで、ご飯にしない?」
「……そうね、もう追手の心配もないし周りも安全そうだしね」
そういうとお姉ちゃんは背負っていたバッグから、ご飯の材料となるものを取り出した。
「ねえお姉ちゃん、ご飯って何を持ってきたの?」
「四人分のピッツアよ」
「うわー私達が毎日運んでるやつだ」
そういってお姉ちゃんの鞄から私はピッツアを一枚取り出し、無造作に腰掛けた。
それを見てマルゲリータは、嫌悪感を示すような表情を浮かべる。
「どうしたの? 疲れてるでしょ、座らないの?」
「いや……お洋服が汚れてしまいますわ」
「でしたらお嬢様私が椅子になりましょうか?」
「は? いや、いいですわ。 悪趣味ですし、普通に」
落胆するパーシヴァルさんを見て、私は彼なりに努力しているのだと感じ応援したい気持ちが強まった。
「パーシヴァルさん、私ハンカチ持ってるのでこれをあのお嬢様に」
そういって私はこっそりとハンカチを、彼へと手渡した。
「すみませんお嬢様、さっきのちょっとした冗談です。 ハンカチを持ってるので、そちらに腰掛けてください」
「あら? 気が利くじゃない」
マルゲリータはこの時素直に彼のことを褒め、それに対しパーシヴァルさんは頬を赤らめた。
「そういえばどうしてアルテミスは女の格好を辞めたんですの?」
「えと……それは」
私はお姉ちゃんに目配せをして、指示を仰いだ。
お姉ちゃんからの反応は強い視線でこちらをジッと見つめるというもので、これは私にでも沈黙していろとの意味だとわかる。
パーシヴァルさんはその質問を投げかけられてから数十秒の間黙ってしまった。
その様子を見て訝しげな表情を浮かべるマルゲリータ。
私はお姉ちゃんからの指示に従い、黙々とピッツアを食べていた。
「んーやっぱ、このピッツア美味しい」
私は店主の焼いてくれたピッツアを頬張りながら、パーシヴァルさんのことを内心密かに応援していた。
彼はというと答えに詰まり狼狽するばかりで、その様子を私達姉妹がやきもきしながら見つめるというなんとも歯がゆい状況が続いた。
その様子がしばらく続き、やっと腹を据えたのか深呼吸をしてこう返した。
「それはお嬢様を守れるような強い男性になりたいからです」
私達はその告白ともとれる大胆な宣言に、一瞬度肝を抜かれた。
だがそれを受けてのマルゲリータの反応は至って蛋白で、全く真意に気がついていない様子である。
「あのお嬢様意外と鈍感だね」
「いや最初からどう見ても鈍感でしょうに。 というかそれをリリーが言う?」
「もうお姉ちゃんったら!」
「なんの話をされていますの?」
「いやいやなんでもないです、ハハハ」
こういう仕草は流石姉妹といったところか、誤魔化し方やタイミングまで息ピッタリである。
そしてそんな私達のことをマルゲリータは、不思議そうに見つめていた。
そんな時私はあることに思い至った。
「ねえお姉ちゃん、このダンジョンで指輪を手に入れたとしてそれをお嬢様に売りつける算段はとれているんだよね?」
「いや、全然?」
「え、それじゃあどうやって借金返済するのさ! これじゃあせっかくのお宝が何の意味もないよ」
「まあそれに関してはとっておきの策があるから大丈夫よ」
「うん、わかった。 とにかく私はお姉ちゃんについていく」
「ありがとう。 でもいつかは私達それぞれ独立して生きていかないといけないのよ?」
「……そうだね」
私はいつか訪れるであろうその未来を思い、少しばかり思案にくれた。
「あらあらお二人さん何かお話?」
「いえ、なんでも……」
私の暗い表情を察してか、マルゲリータは私の肩にポンと手を置いた。
「なに暗い顔してるのよ? あなたがこのパーティの太陽なんだからしょぼくれてちゃダメでしょ?」
その言葉に私はハッとさせられる。
確かに今の私はさっきの層のことを引きずってか暗い気持ちになりがちだったかもしれない。
元気だけはこの中で誰にも負けていない自信がある。
せめて明るく照らす太陽のような存在でなければと心に誓った。
「よし! ご飯を食べてお腹も膨れたしさっさと出発しましょう!」
「はいはい頑張りましょうね、リーダーさん」
マルゲリータは皮肉交じりの笑顔で私の後をついてきた。
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