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硝子の心

「なあ本当にあのちっこい銀髪のガキの心を壊しちゃっていいのか?」

「ああ、構わないさ。 アイツが僕の問題を一番掻き乱しやがったからな、頼むよ兄さん」

「任しておけ弟よ」

そういって第一層の陽気な妖精は、いかにも陰湿で陰気な妖精へと語りかけた。


 私達は、第二層へと到着するとやけに霧がかかった場所へと到着していた。

周りはモクモクとしていて、周囲十センチ程度しか目視することはできない。

「ねえお姉ちゃんいる?」

「……」

返答がない、どうやら私は一人迷子になってしまったようだ。

それも無理はない、極度の視界狭窄で身動きがろくすっぽとれないからだ。


「ククク……全く愚弟を持つと困ったものだ。 なぞなぞで人の心を折ろうなんて愚かなこと。 仲違いさせる方法は意外と簡単にある……」

どこからかだろうか微かに、不気味な声が聞こえてきた。

そうして次の瞬間私の手を掴む者が現れた。

「うわ!」

私は驚きのあまり心臓が飛び出そうになるが、次の瞬間緊張は安堵へと変わった。

私の手を掴んだのは他でもないお姉ちゃんだったからだ。

「大丈夫? もう本当に愚図いんだから」

「えへへ、ごめんお姉ちゃん」

私はこの時ある少しの疑問を感じつつも、特には気に留めることもなくお姉ちゃんと一緒にこの鬱屈としたダンジョンを進んでいった。


 ダンジョンの中は本当に暗く、そして奥へ奥へと進んでいけばいくほどに霧が濃くなっていく。

自然と私の足は恐ろしさからか、遅くなっていく。

だがお姉ちゃんはそれを気にもとめず先へ先へと進んでいき、私は追っていくのに必死になる。

そうしているとだった、足元が疎かになり私は躓き転倒してしまった。

そればかりでなく、お姉ちゃんに思い切りぶつかってつられてお姉ちゃんまで転倒してしまった。

この暗いダンジョンの中では表情をあまり読み取ることができなかったが、お姉ちゃんはどうやら物凄くとさかに来たらしい。

「もう! 何やってんのよ馬鹿! 本当にいつもいつも私に迷惑ばかりかけて、邪魔なのよあんた正直」

私はその言葉を聞いて、自分の奥にある小さなガラス玉にヒビが入るような感覚を覚えた。

確かに私はお姉ちゃんにいつもいつも迷惑をかけてきた。

多額の借金を抱えることになったのも私が原因だ。

なにも言い返すことができず私は沈黙してしまった。

「もう……困ったらすぐ黙る。 せいぜいはやくついてきなさいよね」

「……はい」

そういって私はお姉ちゃんの後をついていった。


 しばらく歩くと今度は、ばったりマルゲリータさんへと出くわした。

再会の喜びからかお姉ちゃんとマルゲリータさんはできあってハグをした。

私もその輪の中に入ろうかと思ったが、今度はマルゲリータさんが突き飛ばした。

「あなた第一層で一度私達を危ない目に合わせたことをまだ覚えてなくて? 本当に馬鹿ですわね」

「え……」

私はまた仲間だと思っていた人達からの暴言を受け、硝子玉にまたヒビが入る感覚がした。

そのヒビは先程までとの亀裂と相まって更に深く、そして根強く入っていった。

「まあせいぜい使えないなりに後をついてきなさいな」

「は、はい……」

私の先程までの快活とした笑顔は消え去り、暗い陰気な曇った表情へとなっていく。

そのせいだろうか?

気持ちの問題かは謎だが、更に周りの霧が濃くなっていくのを感じた。


 霧は進めば進むほどどんどんと濃くなっていき、遂には辺りが見えないぐらいの視界狭窄に陥った。

すると今度はなにやらぼんやりとした幻影が見えてきた。

幻影は何やらひとがたの造形をしており、こちらを妖しげな笑みで見つめてきた。

私は先程のこともあり、ビクリと身構えたが次の瞬間にはその幻影は私の背後へと移動しポンと私の肩に手を置いた。

「何逃げようとしてるんですかー? 私達仲間じゃないですか?」

そういって妖しげな笑顔を浮かべる声の主は、パーシヴァルさんであった。

私はすっかりと先程のことで落ち込んでおり、人が現れることは恐怖でしかなかった。

「ご、ごめんなさい……ちょっとびっくりしちゃって」

「ううん? いいんですよ。 あなたはちょっととろいとこありますから」

私はもうそのくらいの罵詈雑言ではピクリともこないほど心が凍り付いてしまっていた。


とにもかくにも四人で再会できたことに私は一応安堵し、先に進むことを決めた。

するとだ。

パーシヴァルさんがダンジョンの段差の出っ張りに躓いて、マルゲリータにもたれかかってしまった。

これはまずいと私は、その瞬間思った。

マルゲリータは静かに立ち上がると、怒気を交えたダンジョン中いっぱいに響き渡るような大声をあげた。

「おい! テメエなにしてるんだよ」

「は?」

「謝れよ」

「お嬢様ちょっと調子に乗りすぎじゃあありませんか?」

私が危惧していたことがはじまった。

仲間内での仲間割れである。

その後二人は怒鳴り散らしお互いを馬鹿だ屑だと罵り合い、ついに私の心のダムは決壊し涙をこぼしてしまった。

だがそれでも二人は罵り合いを辞めずに、喧嘩を続けるのであった。

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