運否天賦の問題
「それじゃあ大本命! ラストの問題はかわいこちゃんに答えてもらおうかな!」
陽気な妖精はお姉ちゃんの前に近寄りそう告げた。
「これで本当にラストの問題なのね?」
「そうだよ! でも絶対に解けないから安心して。 まあこの問題はみんなで解いてみてもいいよ、解けるものならね」
陽気な妖精はニンマリと不気味な笑顔を浮かべ、私達を挑発してくる。
「いやそれはない。 ダンジョンの一層を突破して帰ってきた人の話なら聞いたことがある。 つまり可能性はゼロじゃないってこと」
「まあそう思うのは君の勝手だけどね? それじゃあ問題です」
私達は問題の内容を固唾を飲んで聞いていた。
「さてここに今魔法で作ったテーブルと金貨が百枚あるよね? このコインは今すべて表を向いているのを確認してみて」
そう言われて私達は、テーブルの上に百枚の表向きのコインがあることを確認した。
「じゃあこれを今から十枚裏向きにするね」
そういって妖精がパチンと指を鳴らすと、九十枚のコインが裏向きになった。
「はい、見せられるのはここまで」
次の瞬間魔法のコインは黒い物体へと変化し、いかなる魔法でも表か裏か確認できなくなった上位置がシャッフルされた。
「さて問題です。 この百枚コインの山を二つにわけた時表になったコインがどちらの山でも同数になるようにしてみて」
「え? どういう意味? まったく意味わかんないんだけど」
私がチンプンカンプンになっていると、お姉ちゃんが説明を始めてくれた。
「いい? 例えばリリー、この山を五十個ずつにわけた場合どうなると思う?」
「うーん、表と裏が混じった山が二個できる? 表と裏の数は……さっきシャッフルされちゃったからバラバラでわかんないな」
「そうね、だけれどもそれだと表が同数になるかは完全に運否天賦。 だけれども今までの問題の傾向を見るに何かしらの解法が存在するはず」
それを聞いた妖精は鼻を鳴らし澄ました不気味な笑顔を浮かべるばかりで、何も言おうとしない。
お姉ちゃんの言っていった何かしらの解法とはどういうことなのか……?
その意味がわからず戸惑っていた。
「ねえつまり解法があるってことはこの一見運否天賦に見える問題にも、きちんとした必勝法があるってこと?」
「そうね、ただそれがどんな必勝法なのか……」
私は何かお姉ちゃんの助けになるようなアドバイスができないか必死に考えてみたが、何も思い浮かばない。
「うーん、こんなの相当高度な魔法使いじゃないと同じ数にできっこないよ!」
私が愚痴を垂れていると、パーシヴァルさんがこんなことを漏らした。
「あの……この問題を過去に解いた事がある人って本当に魔法使いなんでしょうか?」
「え? うーん。 もしかして一か八かで命を張れるギャンブラーさんとか?」
「いや……先程の問題の通りきちんと解法まで答えないといけない。 だから一か八かで当てただけではクリアにならない。 そうでしょう?」
妖精は無言を貫くがそれは暗に肯定を示すようなものであった。
「おそらく最初に言った九十枚と十枚に表裏をわけたあの操作がこの問題のキーポイントになるはずなんだけど……」
「じゃあ十枚と九十枚にもう一度わけて見たら?」
「……やる価値はありそうね」
私の何気ない一言にお姉ちゃんが乗っかってくることは稀であったが、この時は珍しく肯定してくれた。
そのことが嬉しくて私は密かにテンションをあげていた。
お姉ちゃんはさっそく私が言ったとおり、十枚と九十枚に山をわける操作を行った。
だがこれではただ無作為に表と裏が混じった十枚が混じったコインを引き寄せたに過ぎない。
「何か……発想の転換が必要なはず。 今この十枚が仮に全部表だとして……九十枚のほうの表はゼロ。 クソ!帳尻があわない」
お姉ちゃんは酷く動揺した様子で頭を掻きむしった。
それもそのはずだ、この問題に私達の命がすべて懸かっているのだミスは許されない。
そんな時私はフトあることを思いついた。
「ねえ全部が全部表なら裏返しちゃえばどちらも表がゼロ枚になって帳尻があうんじゃない?」
「あなたねえそりゃあ十枚全部が表の場合はそうなるかもしれないけど、あくまでそれは仮定の話で……」
マルゲリータがそう言いかけた時であった。
妖精のあの余裕の笑みが少し綻んだのをお姉ちゃんは見逃していなかった。
「あなた今少しだけれど表情を崩したわね。 何か不味いところでも突かれたのかしら? 表を裏返す……? そうか!」
そういってお姉ちゃんは私が言った通りにすべてのコインを裏返しはじめた。
「答えはこうよ。 十枚コインをとりだして、すべてのコインを裏返すこれが答えよ!」
「ええ、それは例えばの話じゃなかったの?」
「いや違うわ。 考えても見て、例えば十枚の山が表一枚だけのとき九十枚の方は九枚表があるはず。 十枚の方を裏返せば九枚同士になる、これを折返しの五まで繰り返して見ても
全部同じ結果になるの!」
「え、えーと」
私は頭の中で算盤をはじいてみたが果たしてお姉ちゃんが言ったとおりになった。
「本当だ! 凄い、お姉ちゃんがこの訳のわかんない運否天賦の問題を解いちゃった! さあどうなのよ妖精さん?」
「グ……グァ! 正解だ」
妖精は先程までの不気味な笑みを崩し、本当に悔しそうな表情を浮かべ正解を告げた。
だが次の瞬間にはまた陽気な笑顔を取り戻しこんなことを言い出した。
「さて君達には、この金貨を受け取ってダンジョンを出る資格が与えられた。 もしこの先も進もうと言うなら止めはしないけどね」
この金貨百枚を受け取ってダンジョンから出るだけで、おそらくはかなり借金の足しになるだろう。
ただ、それでは私達の目的は達成されない。
「ううん妖精さん私達は先に進むわ!」
「いい心構えだね! 一層ですらこんなにきついのに先はもっと辛いよお?」
妖精はまた不気味な笑顔を浮かべ脅しをかけてくるが、私達は動じずに進むことを決めた。
すると閉じていた扉は開かれ、新たな世界への幕開けとなった。
果たして私達に次に待ち受けるものとは……。
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