舌戦
「ハワード様、例の三人を連れてまいりました」
秘書は試験をパスした私達をそのまま頭取のいる執務室へと連れて来れられた。
「いいぞ、入れ」
通された執務室には、いかにもお偉いさんといったゴテゴテとした装飾が施されていた。
赤色の絨毯に、黄金の甲冑、ライオンの剥製等この男の趣味と思われる設え品が飾られていた。
「えーと、私達に何のご用でしょうか?」
私が問うと、さっきまでの仏頂面が一気に柔和な笑顔へと変貌した。
「まあ軽い『ビジネス』の話をしようと思っただけだよ。 さあ座りたまえ」
いわれれるがまま私達は、今まで座ったことのないようなフカフカのソファーに腰掛けた。
「それで……だが、君達も気になっているところだが、報酬の前金のようなものは出せない」
ハワードはさっきまでの柔和な笑顔からまた、鉄仮面へと変貌し冷たくそう告げる。
「……わかっています。 しかしそれでは私達が不利すぎる交渉だと思います。 前金が払えない以上こちらが要求する額をお支払いいただきたいです」
「ほう、聞こうじゃないか」
「十億です」
十億……!
私は目が飛び出しそうな金額に狼狽えそうになったが、それはお姉ちゃんも同じことだ。
少しでも弱みを見せたら負けというこの舌戦で、ポーカーフェイスを崩さないのは鉄則だ。
「十億か……フフフ、でもまあ君達にとっては実質五億といったところだよな? おい」
おいの一言で秘書は全てを察し、私達二人のプロフィールを全て持ってこさせた。
「なになにこのプロフィールによると、君達は魔法少女らしいな。 それで借金が五億ほどかふむふむ」
「何をおっしゃりたいのですか?」
「いやいや、物凄く希望に燃えた若者ということで、私も非常に期待しているということが言いたいだけだよ」
ハワードは意味深な笑顔を浮かべた。
「それでだが、その十億という額私がのまなかった場合どうする? そこまで考えての金額なら満点をあげたいのだが」
「その場合、ご令嬢に同等の額で買って頂くという約束をしているので、問題ございません」
「なるほどな」
当然そんな約束はしていない、ブラフだ。
それを老練のハワードが見抜けていないわけがない。
「まあ八十点というところか、咄嗟に機転を利かせたさっきの受け答え、物怖じしないその態度、そして魔法少女という資質」
「ということは十億でお受けしていただくのですね?」
お姉ちゃんは思わず前のめりになって尋ねる、一方の私は心臓がバクバクして破裂しそうだった。
「いいや? 八十点ということは八割つまり八億だ。 もうビタ一文負けられないね」
「……わかりました、八億でお受けいたします、これ以上分捕れる気が全くいたしません」
「ハハハ当然だろう? 私が交渉事で負けたこと等一度たりともない!」
そういって頭取は大笑いし、私達は執務室から去った。
「ふう……もう心臓がはち切れそうだったよ」
「私もよリリー、それにパーシヴァルさんはどうだった?」
「私もです、アリスさんが交渉してくださらなければ、何もできず向こうの言い値で買い叩かれるところでした」
私達は、一先ずそこそこの勝利を得たことに酔いしれた。
ただ問題は、地下大墳墓の位置である。
退出時に手渡された資料を見るに、ここから北東にある数百年前に滅んだ街に存在しているとされている。
「パーシヴァルさんこれをどう見ます?」
「たぶん……ガセではないかと。 ただこれだけでは情報がたりなさすぎます」
「え? え? どういうこと私にも説明して」
私は二人の会話にまったくついていけず、あたふたするだけであった。
「いい? リリーもしあなたなら見ず知らずの人にお宝のある位置を馬鹿正直に教える?」
「教えない! 盗られちゃうかもしれないから」
「つまりはそういうことよ、ある程度の信頼は勝ち取れたという会話をさっきしていたの」
成程と私は半分は理解できた。
「それで情報が足りないっていうのは?」
「北東にある滅ぼされた街なんていくらでも存在するわ。 これじゃあ方角がわかっただけで一生かかっても探し出せる気がしない」
「確かに……」
私達は結局これだけの大仕事をして得られた情報はこれだけかと途方にくれた。
その時であった。
「あ!」
お姉ちゃんは思わず大声をあげた。
「しまった! これじゃあマルゲリータさんの命が危ない」
「え?」
その一言で場に戦慄が走った、一体どういう意味なのだろうか。




