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選抜試験

「で? 助けると言ってもまずはどうするの?」

「さっき頭取は、指輪を持ってきた者に多額の賞金をかけてるといった。 何かしらの情報を得るためにはやはり、一度頭取のところに言ってみるのが一番だと思う」

「なるほど……虎穴に入らずんばなんとやらってやつね! お姉ちゃん」

そういってお姉ちゃんは渾身のキメ顔を決めながら言った。

「……で、頭取って今どこにいるの?」

「案内しますわ」

「うわ、びっくりした! そこにいたのね」

「さっきからずっと居ましたわ、ただ頭取から情報を得るのは少し難しいかと」

訝しげな表情を浮かべながらマルゲリータはそう言う。

「……それはなぜ?」

「ダンジョン攻略希望者には情報を提供する前に、選抜試験を勝ち抜かないといけないからよ。 額が額だから、物凄い倍率なの」

「なるほど」

それを聞いて逆にお姉ちゃんは不敵な笑みを浮かべだした、おそらく勝機が広がったのだと考えたのだろう。

「リリー、明日頭取の邸宅に乗り込むわよ、その時一回だけ魔法を使えるようちゃんと用意しておいてね。 マルゲリータも同行よろしく」

「……わかりましたわ」

不服そうにそして怪訝そうにマルゲリータは答えた。



「なに? 臨時でダンジョン攻略希望者が現れただと?」

深いため息をつきながら、葉巻を咥え足を組みながら答える尊大な態度のこの男こそが、頭取その人である。

背は高く、中肉中背のナイスガイといういでたちをしているが、その腹は黒い。

「はい、なにやら少女が二名、青年が一名らしいのですが」

そう言って気の弱そうな秘書が返答をする。

「はあ、あのご令嬢の頼みだから聞いてやろうかと思ったのだが……はっきり言って、『ゴミ』に時間を割くのは勿体ないのだがね」

彼の信条として、時は金なりというものがある。

つまり一秒でもビジネスのことを考えていたいという根っからのビジネスマンだ。※「たりとも」の前には1日、1人、1秒などの「1+数詞」の形が接続され、「~さえも~ない」「全然ない」という意味を表します。 数量が少ないことを強調する文型です。 命令や禁止にも良く使われます。

よって今回のような、一秒でも時間をドブに捨てる可能性の高い博打をうつような真似は嫌う。

「まあ無理だと思うが、例の試験をやってやれ」

「わかりました」

そういって秘書は、さっそく、通常通りの選抜試験を執り行なう準備をした。



「それでは今回の選抜試験を行いたいと思います」

そういって集められたのは、私達姉妹とTSしたアルテミスつまりパーシヴァルだった。

「今回は試験を簡略化するため、一人でも正解者を出せば、全員合格とさせていただきます」

一人でも正解? 

ということは、技能テストなどではなく知識を測るテストなのだろうか?

そんな疑問を抱いていると、足を引きずりながら歩いてくる老人が現れた。

「ねえ、お姉ちゃんあれが頭取なのかな?」

「なわけないでしょ、あんなみすぼらしい格好をしているわけがない」

そんなコソコソ話をしているとだ。

「すみませんが、私語は謹んでいただけますかね」

秘書にきつく注意されてしまった。

老人は金魚鉢と大きな風呂敷を持って現れ、私達の目の前にある机にその二つをおもむろに置いた。

「さて今ここに種もしかけもない金魚鉢と風呂敷がございます。 どうかご確認ください。

そういって私達は、老人の元へと駆け寄りその二つに怪しい点がないかをしっかりと確認した。※誰が言ったのでしょうか?

そしてここからが、選抜試験の始まりだった。


 老人は今から行うマジックの概要の説明を始めた。

「それでは今からこの金魚鉢を瞬く間に消してしまおうと思います」 そういって老人は机の上に置かれた金魚鉢に大きな風呂敷をかけて、スリーカウントを数えた。

するとだ、スリーカウント目にバタバタと大風呂敷を揺らしはじめ、なにやら金魚鉢が消えていく演出をかもしだした。

私達はまさかと思いつつも、大風呂敷をつまみ上げるのをやめると、金魚鉢はそこにはもう存在していなかった。※誰がつまみ上げたのでしょうか?

それを見て私達は、驚きの表情を浮かべた。

「さて制限時間は三分です、その場に立ったままお答えください」

「え? なんでその場に立ったままなの?」

「でなければ失格とします」

「きびしー」

私達は秘書が喋り終えるのを聞くと、さっそく会議をはじめた。

一人でも正解者がいれば、全員合格なのだから意見交換は当たり前だ。

「アルテミスさんなにかわかったこととかあります?」

「え? ちょっとなんで私には質問しないの」

なんだか今日のお姉ちゃんは私に対してあたりが冷たいなと感じてしまう。

「いえ……全然わかりません」

「そうですか……」

お姉ちゃんは露骨に落胆した態度を見せた。

それはまるで全ての希望が立たれたかのような様子であった。

「残り時間は一分です、さあ早くお答えください」

秘書が残り時間を告げると私達はより一層焦りを見せた。

「ねえ私タネがわかっちゃったんだけど、答えてもいいかな?」

そう私が言うと、お姉ちゃんは怪訝そうに私のことを見つめてきた。

「……それ本当?」

「ちなみに回答権は全員で一回までですのでご注意を」

「絶対正解する自信があるから、私を信じて!」

「……わかったわ」

二人ともどうやら手詰まりといった様子らしく、私の申し出を快諾した。


 私は自分なりにだが、推理を語り始めた。

「私昔はとても病弱で、足を引きずりながら歩いていたぐらいなんです。 だからこの答えに辿り着くことが出来ました。 おじいさんあなた嘘を一つだけついていますよね? 実はあなた普通に足を動かせるのに、動かせないフリをしていた。 つまり答えは、足に金魚鉢を挟んで消したフリをしたです」

その回答を聞いた者すべてが冷たい顔で私を見つめた。



「で? どうだった、どうせ口ほどにもない奴らだったんだろう?」

「いえ、それが知能、技能どちらのテストもクリアしました」

「なに?」

頭取は一瞬驚いた顔をした。

技能テストのジャンプ力測定は、私が作った魔装を使いまわして使いクリアすることができた。

そして知能テストの方だが、私の推理は的中していたのだった。

「ほう、それはなかなかに面白い逸材が入ってきたじゃないか」

そういって柄にもなく、頭取は手を叩いて私達のことを祝福した。

「それでは奴らをこっちに連れてこい」

「わかりました」

陰謀渦巻く選抜試験に私達は合格することができた、だがこれはほんの序章に過ぎなかった。

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