君の名は。
「起きて、リリー」
「うーん、まだ眠いよ」
「いいから早く起きて!」
そういってお姉ちゃんは、私を思いき揺さぶり叩き起こした。
「どうしたのさ、まだ出勤の時間とかって全然まだのはずじゃん」
「私達入れ替わってるの!」
「ほえ?」
「ほーら言わんこっちゃない」
そう言って銀髪ショートでストレートヘアにエメラルドグリーンの少女が、詰めてくる。
ややこしい話になるが、私の姿をしたお姉ちゃんだ。
そして私は今お姉ちゃんの体になってしまっている。
「えへへ、ごめんなさい」
そう言いながらもお姉ちゃんの体になって、嬉しい気持ちの自分がいる。
私達は性別を入れ替えるという強力な魔法である『トランス』を使ってしまった副作用として、体が入れ替わってしまったのだ。
しかし自分の姿をまじまじと見ること等そうそうないので、私にとっては新鮮な体験であった。
見た目は私だけれども、中身はお姉ちゃん……なんだかこそばゆい感覚だ。
「未熟者がトランスの魔法を使うとたまに体が入れ替わってしまう副作用が起こるのよ」
「えーそれって私が悪いってこと?」
「……そりゃあそうでしょうに」
呆れた顔で私のことを見つめてくる私の姿をしたお姉ちゃん。
それがなんだか可笑しくて笑いそうになってしまうが、必死に笑いを抑える。
しかしこのまま体が入れ替わったままだと正直言って、お姉ちゃんの姿を見れなくなってしまって寂しい。
「ねえこの副作用っていつぐらいで収まるの?」
「そうね、一日経てばもとに戻るだろうけど……」
そう聞いて私はホッと胸をなでおろす、ただそれと同時にもう少しお姉ちゃんの姿でいたいなという残念な気持ちにもさせた。
「あーところでだけれど、体が入れ替わったということはお姉ちゃん魔法使えるんじゃない?」
そう一旦途端お姉ちゃんのは目の色を変えだした。
「え! 私が魔法を? 本当に? 出来るかしら」
明らかに嬉しそうなお姉ちゃんの様子を見て可愛いなという気持ちがわいてくる。
「ねえねえ何の魔法を使ってみようかな?」
いつもは冷静なお姉ちゃんがこの時ばかりはウキウキとした様子だ。
そのあまりのテンションの高さについていけないが、とりあえずの案を提示してみた。
「うーんとりあえず簡単な魔法『シェア』あたりをやってみるのがいいんじゃないかな?」
「わかった! 『シェア』ね」
お姉ちゃんは一度咳払いをして、度の入っていない伊達眼鏡に向かって魔法を唱えだした。
「魔法少女アリスが命じる、眼鏡よ我と視界を共有せよ『シェア!』」
そういってお姉ちゃんは眼鏡に魔法をかけた。
さっそく私はその眼鏡をかけてみた。
するとだ、視界が真っ暗で何も見えない風景がそこには広がっていた。
「あのーお姉ちゃん、魔法失敗してるけど?」
「え!」
「もう未熟者がどうたらって言ってたけど自分も未熟じゃん」
私はお姉ちゃんは泣きべそをかきそうな顔を浮かべていた。
その姿を見て私はちょっと胸を痛めた。
そうかお姉ちゃんは魔法の知識の勉強をしてきたが、結局魔法の才能はなかった。
ただ私は魔法の勉強をしてこなかったけれど、魔法の才能があった。
当然魔法を使ってみたくなる気持ちはわかるし、それが失敗したら悲しい気持ちになるのもわかる気がする。
私はポンとお姉ちゃんの肩に手を置いて、ただただ無言でじっと時がすぎるのを待った。
私達はとりあえず出勤の時間となったため、店主の元へ向かった。
「ねえどうする? 私達が入れ替わってること伝える?」
「うーん、別にいいんじゃないかな」
「そうだね」
そんなことを言いながらお店へと向かうと、そこには瞼の下に大きなクマを作った店主が待っていた。
「うわー、どうしたんですか? その大きなクマ」
「いやーなんか最近寝付きが悪くてな」
「そうなんだ大変ですね」
「というかお前らなんか今日雰囲気が違わないか? なんか口調もアベコベというか」
「いやー、そんなことはないですよ。 アハハ」
そういって私は自分が運ぶだけのピッツァを持とうとした時だった。
「おいおいアリスちゃん、いつもと持っていく個数がずれてるぜ? ちゃんとしてくれよ」
「あ、すみません。 ちょっとうっかりミスです」
そういっていつもお姉ちゃんが運んでいるだけのピッツァを持つと一瞬腰に衝撃が走った。
私がいつも運んでいる枚数より多いのは知っていたが、ここまで重量に差が出るとは思わなかった。
そうか……いつもお姉ちゃんはこんな重い荷物を持って、デリバリーをやっていたのかと知り増々お姉ちゃんのことが好きになった。
ピッツァを配達し終えると、私はクタクタとなっていた。
「どうしたお前らなんかいつもより疲れていないか?」
「いや……気の所為ですよ」
私達は、いつもとは違う体に不慣れで予想以上に疲れてしまったようだ。
「それより店主こそ眠れてなさそうでお辛いんじゃ?」
「ああ、まあな」
そういって店主はいかにも眠そうにあくびをする。
「あ! そうだ」
そういって私は、お姉ちゃんが作った何も見えない眼鏡を店主に手渡した。
「これでよく眠れると思いますよ」
「おお、ありがたいな! 恩に着るよ」
そう言い残して私達はそそくさと家へと帰った。
「ねえお姉ちゃん今日一日私の姿で過ごしてどうだった?」
「うーん、なんだか体が一回り小さくなって小人になった気分かしら」
「そっか」
「ところでリリー私魔法失敗しちゃって……やっぱり才能ないのかな」
「ううん、あの魔法はあれで成功なんだよ。 店主がすっごく喜んでいたし」
「ありがとうリリー」
そういって私達は抱き合ったまま一日を終えた。
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