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パスタ屋さんを繁盛!


 魔王が滅んでから約数百年がたった。

かつての冒険者たちは、皆目的を失い前時代の技術は消失したかに思えた。

世の中はまさに力でなく、ゼニがものをいう時代になった。


そんな時代の荒波に取り残された二人の魔法少女の姉妹がここにいた。

「リリーお金ある?」

「んーないかな」

「お姉ちゃんは?」

「あったら聞いてない」

「ははは、だよねー」


そんな笑い話をするかのようなテンションで話をしているが今月は本当にやばい。

なぜならば両親の残した借金があわせて五億、なにもしていなくても

凄まじい勢いで利息が増えていく。

それとは別に、都会では生活費が田舎と比べて倍以上かかり、今も賃貸の

アパートに暮らしているがそれすら払えるかとても怪しい。


「んーとりあえず考えててもしょうがないしご飯でも食べに行く?」

「そ、そうね」

姉は身震いしながら私の後を付いてきた。


 街に出ると、そこには様々な飲食店が軒を連ねている。


それこそ高級店となれば、ドレスコードが必要となるお店もあり、一食で私達の一ヶ月分の食費が

必要となるお店まで様々だ。


勿論そんなお店とは私達は縁遠いので、裏通りの大衆店へと入っていく。

「いろんなお店があるんだねー」

「そうねー」

そんな会話をしていると、一際目を引くお店を発見した。


窓越しから見る限りだが、なんとお客さんがお昼時だというのに一人も入っていないのだ。

私のお姉ちゃんは、そんなお店を当然スルーしようとしていたが、私はある臭いを感じ取った。

「ねえねえ、お姉ちゃんこのお店にしようよ」

「え、このお店だけはやばい雰囲気がしているけど……」

「だってナスとトマト料理の臭いがぷんぷんこのお店から漂ってるんだよ? 行くしかないでしょう」


私はナスとトマトという組み合わせが大好きであった。

というのも、小さい時お姉ちゃんがトマトとナスを買ってきて作ってくれた、パスタがとても美味しく忘れられない味だからだ。


そういう訳もあって、お姉ちゃんは無視してこのお店へと入っていった。

「いらっしゃいませ!」

誰も居ない店内とは対照的に、店内の内装はなかなか凝っており、綺麗に清掃は行き届いている印象だ。

そして店主の挨拶も元気があり、サービスもよさそうだ。

「ちょっと、ちょっと」


お姉ちゃんは遅れて店内へと入ってきた。

それは当然私をこのお店から連れ出そうという意図があってのことだが、店主と目があってしまいニコリと微笑まられたら

もう逃げられない。


それでもお姉ちゃんは後ずさりしようと、不気味な笑いを浮かべ抵抗を試みるが店主の圧が勝った。

そんなお姉ちゃんと店主との戦いなどとはいざしらず、私は窓際の席へついた。

「すみませーん、このナスとトマトのパスタをチーズいっぱいのせた奴お願いします」

それを見て姉は呆れ果てた顔をし、もうどうにでもなれといった具合で向かいの席へと座った。

万事金欠の私達にとって、一食外すというのはとても尾を引くことなのだ。


それにも関わらず、人が全くいないお店に入るということはどれだけ博打なのかはわかるだろう。

私の注文を聞くと、店主の様子がちょっと変わりこう返した。

「お嬢ちゃん、本当にそれでいいんだな?」

「はい、私チーズとトマトとお姉ちゃんが大好きなので!」

「え、私食べ物と同列なの?」

そんな的確な突っ込みがお姉ちゃんから入ったところで、なんと店主は薄ら泣きを浮かべていた。

「お嬢ちゃん達が最後の客でほんとよかったよ」


そういったところで感極まって、店主は泣き崩れてしまった。

私は訳がわからずオロオロとしてしまったが、お姉ちゃんは店主を立ち上がらせ席へ座らせた。

「なんでいきなり泣きだしたんですか?」

店主は嗚咽混じりになりながらも、ゆっくりと話しだした。

「聞いてくれるかい? 実はな何年かの修行を終えて、ここに店を開いたのはいいんだがな、全然人が来ないんだよ」


そう言い終わると店主はまた号泣しだした。

私達もいくつもの働き口に応募しては、お払い箱になっているためその気持ちは痛いほどわかった。

「勝つも負けるも兵家の常といいますし、それはしょうがないですよ」

お姉ちゃんはすかさずフォローをいれるが、店主はより高い泣き声をあげた。


「いや……でもな、でもな。 最初はお客さんがゼロってわけじゃなかったんだよ」

「え、そうなんですか? でも今はお昼時なのにゼロ人じゃないですか」

私はつい疑問に思ったことを口にしてしまった。

するとせっかく落ち着き出した店主の泣き声がより大きくなり、外にまで聞こえるんじゃないかと言うほどになった。


私は背中をさすってゆっくりでいいですからと言って、励ましの言葉をかけた。

「……ありがとう、どいつかは知らねえが俺の店では毒入りの食べ物を出してるって噂を流したやつが

いて、それ以来人がよりつかなくなっちまったんだよ」

「え? このお店食中毒でも起こしたんですか?」

「起こしちゃいないさ! ただ、トマト入りの料理を出しただけさ」


当時トマトは、毒のある食べ物だという噂が広まっていた。

しかし食うに困った庶民は普通に食しており、それは迷信だということがわかっている。

「あーそういうデマを意図的に広める人とかっていますもんね」

「そうなんだよ! そいつのせいで、もう店をたたもうかと考えてたところなんだ」


店主はそこで感情のピークに達したのか、怒りと憎しみと悲しみすべてが合わさった凄まじい形相を浮かべていた。

「ねえねえこれってチャンスじゃない?」

お姉ちゃんが私を小突いた。

「チャンスってなんの?」


私は店主に聞こえないよう小声で返す。

「あなたの魔法を売りつける」

「えー……とりあえずここのお店のパスタを食べてから決めていい?」

お姉ちゃんは私の間の抜けた回答に拍子を抜かしつつも、確かにこのお店の料理がまずかったら


意味がないかと一理あると認めてくれた。

「とりあえず店主さーん、さっきの注文通りの料理を出してもらえますか?」

「わかったよ、お代はタダでもいいよ」

「本当ですか! じゃあもう一つ同じものを」

タダという言葉に過剰に反応し、お姉ちゃんは身を乗り出してもう一つ注文をした。

「おうもうどうせ誰も来やしないんだ、一個も二個も変わらねえよ」


そういって店主は二人前のパスタを茹でだした。

店主の手際のよさは流石数年間修行を積んだと自負をするだけあってよく、パスタもきっちりアル

デンテになるよう茹であげ、その間にナスとトマトのソースを作ってしまうのだから腕が四本あるのかと見まがうほどだ。


「はいお待ち!」

その言葉とともに茹で上げたパスタにナスとトマトのソースをかけ、注文通りたっぷりとチーズをかけてくれた。

「うわー美味しそう」

私は無邪気に、出てきたパスタに喜びの感想をあげるが、お姉ちゃんの方は美味しそうかは半信半疑という様子だ。


私は食前に神のお祈りを捧げた後、パスタを一口食べてみた。

するとどうだろう、あのトマトの甘酸っぱい味とナスのシャキシャキとした食感に、チーズのドロっとした感触が

見事にマッチし、美味しさのハーモニーを奏でたではないか。


「うん、美味しい!」

私はあまりの美味しさに無我夢中になってパスタを口に運ぶため、その様子を見てお姉ちゃんは

これは信用できると判断したのか一口パスタを食べた。

するとお姉ちゃんは何も言わず黙って、無我夢中にパスタを口に運び気がつけば私よりもはやく

パスタを完食していた。


「いやー美味しい」

そういって私達の大満足の笑顔を見て、店主は喜び半面悲しみ半面な顔を浮かべ言った。

「ああ、これで満足して店を畳めるよ」

「待ってください!」


その言葉に対してお姉ちゃんは強く待ったをかけた。

お姉ちゃんの中ではどうやら、私の魔法を売りつける覚悟がどうやら固まったらしい。

「もしお店を畳むなら、私達の魔法の力を見てからにしてくれませんか?」

そういうと店主は半信半疑で尋ねてきた。

「え! お嬢ちゃん達、もしかして魔法少女なのかい?」

「そうです、といっても私は魔法の知識があるだけで、妹に魔法の才能があるという二人で一人の魔法少女ですが」


「へーそういうもなのか、じゃあこのお店を繁盛店にすることとかってできるかい……?」

「繁盛店にするには、最終的には店主さんの商才次第かと。 ただ一日に五人までお客さんを呼べる魔法なら使えますよ」

そういってお姉ちゃんが交渉を始めたので、私は隅っこで暇つぶしをしていた。

こういう交渉事は得意な方に任せるに限るからだ。


「とりあえず今日五人お客さんを呼んでみせます、その分のお金は今日昼食を食べさせていただいたお礼

にとりませんので、それで試してみるっていうのはどうでしょうか?」

「おお乗るぜその話! こっちは藁にも縋りたい気分なんだ」

お姉ちゃんは私のことを小突いて、交渉が終わったと合図した。

どうやら私の出番が来たみたいだ、お姉ちゃんが魔法を使う準備をしている間私は杖を取り出した。


「ねえお姉ちゃん、どの魔法を使うの?」

「コールって魔法をエンチャントして、魔装チャームを作るわ」

「わかった、任せておいて」

そういうと、お姉ちゃんは魔法陣を描き始め私は真ん中に立ち、その向かいにお店にあった猫の置き物を設置した。


「魔法少女リリーが命ずる、招き猫よ人々を呼び寄せよ『コール!』」

そう唱えると私は招き猫に魔力が漲るのを感じた。

「おいおい、何も起こらないじゃねえかい、やっぱり嘘なんじゃ……」

そう店主がいいかけた時であった。

一人の恰幅のよさそうな体格をしたお客が、店に入ってきた。

それを見てすかさず店主は挨拶をする。


「いらっしゃいませ!」

さすがは商売人といったところである。

「いやあなんとなく入ってみたくなったんだよ、ここのおすすめ貰えるかい?」

「はい、ナスとトマトのパスタ入ります」

そういうと店主は、パスタを茹でだした。

私達は結果がどう転ぶか、ドキドキしながら端っこで見守っていた。


「ンンンッ」

入ってきた恰幅のいいお客は、ペロリとパスタを食べきってしまった。

「いやー案外隠れた名店ってのはあるもんだね、お代ここに置いておくよ」

そういってお代を置いて、帰っていた。

「どう……なんだろ?」

「どうもこうも、これは大成功!」


そういってお姉ちゃんと店主は抱き合って成功を喜んだ。

結局この日魔法の力があって、五人のお客さんが来て全員が満足して帰っていった。

すると店主は嬉し涙を流し、私達二人の手を固く固く握りながら言った。

「お嬢ちゃん達本当にありがとう、少ないけど受け取ってくれ」


そういってお代の中から数パーセントだがお金を手渡してきた。

「……どうする? お姉ちゃん」

「うーん」


お姉ちゃんは少しの間考えを巡らせていたようであった。

「いえ、このお金は受け取れません、約束に違反するからです。 ただ今日と同じ割合のお金を毎月支払ってください」※文の区切りのここは句点では?と思うセリフに読点が多いようですが、何かこだわりがあるのでしょうか?"なったんだよ、""みせます、""受け取れません、"等

「おう、それぐらいならお安い御用よ」


本当なら喉から手が伸びるほど、お金が欲しい状況であったがお姉ちゃんは義理堅さを見せた。

こうして、このお店は毎日少しずつだがリピーターがつき始め、繁盛をし始めた。

そして一ヶ月後約束のお金を受け取りに行く頃には、びっくりするような額を受け取ることとなったのである。

ポイントや感想などを頂けると、更新の励みになるので是非よろしくお願いします。

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