第一章 一羽
マック食べないと生きていけない
"鍵使い"の事件から十年。
数々の謎!
今、その真相に迫る!!
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と、書かれた雑誌を読みながら青年はラーメンを啜る。
青年の名は赤月 時雨。
外見的にはこれといって特徴は無く、普通の青年である。
ただ、約2ヶ月前に"こっち側"の世界に来た人間ということを除いて。
「ラーメン、オイシイ?」
と、顔の前に触手のような髭をした店主が現れるが、驚くこともなくうまいと頷く。
「ヨカッタ!」
嬉しさのあまりにガッツポーズをしている。
最初の頃ならば恐ろしさのあまり、喉に麺を詰まらせていたが今は慣れてしまっている。
この多種多様な族がいる世界に。
だれもが知ってるであろうエルフや獣人などの架空の種族、それらが"こっち側"の世界にはいる。
元からいた訳では無い、"鍵使い"によって世界がかき乱されたことが原因らしい。
かく言う時雨も、同じ存在である。
ラーメン屋の店内には店主と自分しかないない。
それもそのはず、まだ開店して一、二時間。
お昼ご飯にはまだ早い。
「異世界にくれば、人生が楽になると思ったのになぁ」
なんて嘆いていると隣の席に一人の女性が座った。
仕事帰りなのかスーツ姿であり、爽やかな顔をしながらこちらを見ている。
「なんで……す!?」
驚きのあまりに席から飛び退く。
時雨自身にとってその女性は最も会いたくない存在である。
「仕事の時間だよ、時雨くん」
「ど、どうしてここにスザクさんが!」
スザクは"こっち側"に来た時雨の保護観察係である。
温和で部下の面倒みも良い、異性からも同性からも尊敬されている女性。
周りからは理想の人間に見えるが、中身はネジの外れたおかしい奴である。
つまり、近づきたくなるが中身を知れば後悔するタイプだ。
「どうしても、こうしても私はまた会いに来るって言ったよ?」
そういえばそういう約束もしていた気がする……
「で、でもせめてメールくらいは」
「この肉丸ごと漬けモヤシ増し増し塩分ヤバめラーメンで!」
時雨の言葉虚しく、いつの間にかにスザクは店主に注文をしていた。
相変わらずの会話のスルーをされて、ガックリとへこたれる時雨。
「仕事ってなんですか?」
できるだけ早めに話を終わらそうと、諦めて会話を本題に移る。
店主に注文していたスザクは横目でこちらをチラリと見ると、ポケットの中に入っていたメモを取り出す。
「とりあえず、この場所まで来て欲しい。明日の午後一時にね」
と言われ住所が書かれたメモを渡される。
「時間は厳守でね」
とニコッとこちらに笑いかける。
いつ見ても心地の良いものでは無い。
急いで残っていた汁を飲み干し、代金を机の上に置く。
「ご馳走様でした」
席を立ち、会計を済ませ店を出ようとした瞬間だった。
「君にはやるべきことがある。それがどんなことであれ君は成すべきだ」
その言葉から、きっとこの女性は自分を駒として上手く使う気だと時雨は確信した。
逃げることは出来ないだろう。
だが、胸の奥には恐れなどはなくどこからか湧いてきた好奇心のみだった。
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