結果発表
「ただいま戻りました」
「おお。何処へ行っていたのだデュラハンよ」
「……魔王様の言いつけ通り、人間共の贅沢ぶりを調査してきたのでございます」
魔王様は玉座でポテチを食べていらっしゃる。油の付いた手をローブの胸元でさりげなく拭く。そのお姿さえもが美しい。
「聞いて下さい魔王様。国王めは夕食にフォアグラを食べております――」
「ほほう」
「さらには、サザエの壺焼きをたくさん食べているそうです――。尻の部分は食べずに捨てるそうです――!」
盛ってみた。尻の部分も食べているのかもしれない。そもそも、サザエは食べたとは言っていない。
「勿体ない!」
「勿体のうございます! 私めも食べとうございます」
「では、予が身を食べた後の尻の部分を全て食べるがよい」
微妙……。翌日のトイレで凄い「サザエ臭」がするのが出るのは……内緒だ。冷や汗が出る。
「……御意」
せめて一つくらいは身の部分を食べたいぞ……。
「魔王様、人間の国王になど負けてはいられませぬ。さっそくフォアグラとサザエの壺焼きを夕食に準備させましょう――」
今からなら……魔海女ちゃん達が潜っても夕食には間に合うことでしょう。
「それは……ならぬぞよ」
「……?」
魔王様は玉座をお立ちになられた。
「デュラハンよ。もし、この世に予だけが……もしくは卿だけがたった一人しかいなければ……贅沢を知らずに争いもなくなると考えたことはあるか」
「は?」
寝言でしたら眠りながら言って頂きたい。ちょっと何を言っているのか分かんないや。
「勇者や国王が食べている物を聞き、「可哀想」だ、または「豪勢」だと思ったその原点には、いったい何があると考える」
「そ、それは……」
栄養が足りているかどうかとか……。空腹の期間が長いか短いかとか……。
「食べたい物が食べたい時に食べられる者と、そうではない者の差……といったところでしょうか」
「ふむ。そうなのだ。……デュラハンよ、なぜ、四天王の一人である卿が他人や他のモンスターよりも贅沢をしたいと考えたのだ。その心こそが競争の心であり、争いの原点となるのだ」
「――争いの原点!」
「出発点」
「出発点?」
「スタート地点」
「スタート地点?」
「もうええわ」
「もうええわ?」
「……」
「……?」
魔王様は大きくため息をおつきになられた……。
「昨日まで7枚切りの食パンを美味しく食べていた。それで満足していたとしよう。しかし、ある日、隣の家は毎朝『ダブルWソフト』を食べていることを知れば、その時点で格差を認識してしまうであろう――」
格差――! ダブルWソフトに格差――!
「そして、『ダブルWソフト』を食べた瞬間、それを食べ続けたいと思うはず」
「お待ちください! 『ダブルWソフト』はマズいです」
「いや、うまい! やわらかで美味いのだ!」
「そういうマズいではございません……」
メーカーからクレームが来そうでございます。せめてトリプルソフトとか名称を濁してみては……。夏のパン祭りとか……。
「さらには袋に入ってスーパーで売っている食パンではなく、パン専門店で売っている食パンを、『1斤買ってきて切り分けて朝食には食べているザマス』などと聞けば、さらに格差を意識してしまう――」
ザマス――! ザマア系のことだろうか……。
「たしかに……食パン専門店の食パンは美味しいですからねえ……」
食パンだけでも食べられる。まさに贅沢の極み。
「しかしあれば、滅多に食べないから美味しいのでしょ。毎日食べる物ではございません」
毎日食べればその良さに気付けませぬ――。
「ザ・庶民め」
「……」
頭をタライで叩かれたような気分だぞ。
「つまり、争いが起こる原点は、憎み傷つける心ではなく、他の者と自分とを比べてそれを良しと思わぬところにあるのだ」
「……」
たしかにそうだ……。四天王として次の魔王の座を狙っている。ソーサラモナーやサイクロプトロールよりも私の方が断然イケメンだと信じている。
無限の魔力を持つ魔王様を羨ましいと思っている。フカフカの玉座にお座りになり、その横で私が八時間ぶっとうしで立ちっ放しなのに、いささか疑問もある――。
顔が無いことにも……昔からコンプレックスを感じている。顔がある者を羨ましいと妬んでいる。
PVが一向に増えないのも問題だ。あまりにも少ないから自らの手でページを開いてかさ増ししている――! 冷や汗が出る……。
「しかし魔王様、比較する心をなくしては、誰も成長や頑張る意欲が保てませぬ」
私は蝉やトカゲの尻尾よりも、サザエの壺焼きや親子丼が食べたいでございます。そのためならば達成感の無い仕事にも、魔王様が発するパワハラまがいの仕事にも笑顔で耐えられるのでございます――。
「さよう。他の者と自分とを比べ、勝ちたいと思うことは、すべての生きている物が持つ本能。……DHA? いや、DNA! 遺伝子なのだ。植物でさえ自らの種族を繁栄させるために必死で戦っているのだ」
日向の奪い合い……か。大きな葉っぱの方が強そうだ。
「では、我々もその遺伝子通り、戦うべきではありませんか」
「このバカチンが!」
ポカッ!
「あいた! 暴力反対!」
どうやって私の頭を叩いたのか……謎だ!
どうやって玉座から跪く私の頭を叩けたのかも……謎だ!
「必要以上に比較をしてはならぬのだ――。その行為自体が人間や魔族を……種を滅ぼす力となろう」
「種を滅ぼす力」
魔族を滅ぼしかねないとおっしゃるのか……。そこまでも大きな力になるとおっしゃるのか……。
「さよう。他の者と自分を比較し、贅沢をしようとすれば自然に格差も大きくなろう。だが、その格差を小さく保つ気持ちが争いを避けるためには必要不可欠となるのだ」
――貧富の差を小さくしようとする力と心こそが、永遠の平和を可能にする鍵なのだ――。
「――御意」
またポテチを食べ始めた魔王様……。パリパリと心地よい音が玉座の間には広がった……。
ポロポロとポテチのカスが大理石の床に落ちているのだが……それを掃除するのはこの宵闇のデュラハンの仕事……。
……格差の無い世界など……実現できるはずがない。……だが、格差を小さくする力こそが永遠の平和を可能にする鍵というのであれば……できなくはない。
贅沢はやはり……味方ではなく敵なのだろうか……。
明日も朝食は7枚切りのトーストとコーヒーだけなのだろうか……。
これって、堂々巡りなのではないのか。……冷や汗が出る。もう一度最初から考え直したくなる。PV増える。
今日は眠れなさそうだ。熱帯夜だから……。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
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