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孤月は空に眩く

こんにちは、遊月です!

今週もやってまいりました、殺伐感情戦線です!

今回のテーマは『慈悲』ということで、私の思う“慈悲深い百合のお話”を書いてみることにしました!


あらすじにも登場したふたりのヒロインたちの密やかな物語、開幕です。

 月に見つめられるバルコニーに、わたしはひとりで立たされている。服を着ることすら許されず、ただ羞恥に悶えていることしかできないでいるのは、それが彼女の“頼み”だから。


「………………っ、」

 屋敷の近くを車が通るたびに、もしかしたら見られてしまうかも、と汗が噴き出てしまう。けれど、救いを乞うように見つめた室内からは、なんの返事もなかった。

 カーテンを開け放った暗い部屋から、彼女がじっとわたしを見ている。微かに差し込む月明かりのなかで、彼女の瞳がわたしに釘付けになっていることを意識するだけで、身体のなかに形容しようのない熱が芽生えていくのがわかってしまう。

 あぁ、きっとそんなことすら、彼女はお見通しに違いない。

 早く、早く中に……っ!

 これ以上、羞恥と、それとは違う感情でわたしがおかしくなってしまう前に……そう願っていると、ようやく窓の鍵が開いた。


「素敵ね、理恵(りえ)。あんなに白い月明かりの中でも、あなたの身体は真っ赤で、私まで昂ってしまいそうだった」

「ありがとう、千佳(ちか)……、ねぇ、ねぇ、早く……」

「もちろん♪」

 幼い頬に朱を滲ませてわたしを見つめる彼女の指が、あぁ、また今夜もわたしを、この世にあるなんて信じられないような高みに誘って……っ、――――っ!!!


  * * * * * * *


 徐々に低くなっていく月が、わたしと千佳の横たわる天蓋(てんがい)付きのベッドを照らし始める。その優しい明かりすら、彼女には眩しいらしい。「ん、んむ……」と可愛らしい声をあげる彼女が幸せな眠りから覚めないように、そっとベッドのカーテンを閉める。

 本当なら窓のカーテンも閉めてしまいたいのだけど、そうしようとすると千佳は眠ったままわたしの腕を掴んで離してくれなくなる。それが、(むつ)み合っているときに見せる淫蕩(いんとう)主人(、、)としての姿など欠片も見えないほど必死だから、わたしは彼女が眠っている間、離れるわけにはいかないのだ。


 もちろん、それが千佳の求めとあらば離れる理由なんてない。

 だけど、それでも。


「っ……、っ、うぅ……っ、」

「…………、」

 また、だ。


 千佳は毎晩、眠りながら泣いている。揺すろうが声をかけようが目覚めることなく、彼女はただ泣き続けている。少しでも安らかに眠れるようにと安眠効果のあるお茶を淹れたりもしているけど、効果はないらしい。

「……やだ、やだぁ、いかないで、いぁないで、」

 抱き締めればすっぽりと包み込めてしまうくらい小さな身体を震わせて、本当に小さな子どもみたいに泣きじゃくっている。


「おと……さま、おかぁさま、りえ……、ひとりは、や……、おいてかないで……っ、っく、えぐ、ひっ、……」

「………………」

 また、同じ夢みたいだ。


 千佳は、いつも泣いている。

 大切な人たちに置いていかれる夢を見ているらしい、たぶん実際にあったことなんだと思う……両親と、“理恵”に置いていかれた夢を、彼女はずっと、たぶんわたしと彼女が出会う前から、見続けている。

「わたしはここだよ」

 そっと囁いても、彼女が夢から覚めることはない。

 ずっと“お父様”と“お母様”と“理恵”を呼び続けている。全員、わたしの知らない人たちだ。ていうかさ、理恵って誰?


「わたし、遥香(はるか)なんだけど」

 どんなに訂正しても聞き入れられなかった名前を、彼女の耳元で告げる。いやいやするように首を振りながら尚もその3人を呼び続ける彼女の下腹部に、そっと指を伸ばす。

「んっ……♡」

 寝ててもそんな声出るんだね、知ってるけど。

 いつもわたしにしながら「理恵は私が好きなのね」と囁かれるたびに、それを肯定しながらも心では違うと叫んでいる。今あなたを好きなのは遥香なんだよ、って言いたくなる。

 けど、そんなことを言って今更どうなるの?

 わからないから、わたしはこうして、彼女が眠っている間に気持ちを指に託していくしかない。


「ひっ、…………、っ、ぁ、」

 嗚咽とは違う種類の声がその細くて白い喉から出てくるたびに、いっそのこと絞めてしまいたくなる。たぶん片手だけでも、愛撫しながらでも千佳の首は絞められる。

 きっとあなたの“理恵”は、そんなことしなかったでしょ?

 だからきっと、あなたの顔が赤く鬱血(うっけつ)していくのを見るのは、きっとわたしが初めてになれるはずだから……そう思っても、実行になんて移せるわけがなくて。

「あっ、り、え…………、んっ、りえぇっ♡、」

「は、る、か」

 本当に眠っているのかわからないくらいに感じている彼女の耳元でもう一度囁いても、もちろん彼女がわたしを理恵と呼ぶのは変わらない。


 わたしは、最愛の人と暮らしている。

 彼女もきっと、わたしのことを愛してくれている。わたしの知らない、“理恵”という名前を呼びながら。


 ふたりきりの、この屋敷で。

前書きに引き続き、遊月です!!

理恵(遥香)と千佳、ふたりの生活は密やかに、濃密に、お互いに寄りかかる形で紡がれていくのかもしれませんね。

自分の知らない名で自分を呼び、その名を呼んで涙を流す千佳に、果たして遥香は何を思うのか……


また次回お会いしましょう!

ではではっ!!

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