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【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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ヴァナロの真相

 サラが目を開けると、レンが駆けよって優しく抱き起す。

 カザンがサラに、頭を下げた。


「申し訳ございません、お姉様。もっと早く、お爺様の居場所を掴めていればよかったのですが……」


 と、テンザンが厳しい声でカザンに言う。


「貴様、本当に拙者の孫か?」


 カザンが剣の柄に手をやり、構えて見せた。

 それに呼応するように、テンザンも即座に剣へと手を伸ばす。

 辺りに殺気が張り詰める。

 ほんの数瞬。睨み合う両者の間に、どんなやり取りがあったのか……テンザンは構えを解いて言う。


「ふん……。どこまで使える?」


「『跋扈(ばっこ)』までです」


 テンザンが目を見開く。


「その歳でか!? 信じられん……」


 少女は不敵に、薄く笑った。


「なにしろ、カザンは天才でございますので。しかしお爺様も、16の頃には跋扈を使えたと聞きましたが?」


「む。そうであったな。とにかく、お主を孫と認めよう」


「ありがとうございます」


「うむ」


 カザンは背筋を伸ばして、真剣な顔で言う。


「まず、お爺様。サラお姉様は壊世剣を盗んでおりません。壊世剣はヴァナロにあります」


「なんだと!? しかし、サラが持って逃げるのを見た者が大勢いる」


「それは『森羅鏡』で作り出されたコピーでしょう。本物同様に次元を切り裂く力はありますが、一度か二度も使えば消滅する品であったと存じます」


 サラが深く息を吐いて、頷いた。


「もう、隠しておく必要はないみたいね……そうよ。私が持っていったのはコピー品。本物はずっと、ヴァナロにあるわ」


「な、なんと……っ!」


 テンザンが絶句して、わなわなと震える。

 カザンは懐から封書を取り出し、テンザンに手渡した。


「これは現・剣の頭首(とうしゅ)、我が父シンザンからの手紙です。お読みください」


 手紙を受け取って読み進めるうちに、テンザンの顔色がみるみる変わる。


「……っ! これは……これは、まさか。……事実なのか?」


「はい、全て事実でございます」


 レンが尋ねる。


「カザン。その手紙には、なにが書いてあるんだ?」


「ヴァナロの真相です」


 それからカザンはニッコリと笑い、両手をパチンと叩き合わせて甘えた声を出した。


「ねえ、おじ様! それをお話しする前に、カザンにラメンを食べさせてくださいな。今宵は『ミソラメン』なるものをご馳走してくれると、お姉様にお聞きしました……カザンはもう、お腹がペコペコなのです!」




 レンの屋台のカウンターに、私たち四人は座っている。

 はふはふとミソラメンを食べながら、カザンは言った。


「美味しいです、おじ様! ミソは、ヴァナロ人の舌にとても馴染む味ですね。発酵大豆の妙味溢れるまろやかなスープともちもちメンに、溶けたバターの濃厚な脂肪がよく合います。カザンは、感動いたしました!」


 レンが得意気な顔で言う。


「そうだろ! ウマいだろ、カザン。で、サラさん……病み上がりの身体で、脂っこいラーメン食っていいのかよ。さっきまで大怪我してたんだろ?」


 カザンの隣でラメンを啜っていたサラが言う。


「平気よ。エリクサーは傷を治せても、失った血は増やせない。むしろガンガン食べて、栄養つける必要があるの」


「で、テンザンさんは……?」


「無明も開闢(かいびゃく)も、心身を大きく削って出す技だ。使った後は腹が減る」


「ふうん。で、リンスィールさん。なんで、あんたまで食べてるんだ?」


「へ? なんでって……夜の草原は寒かったし、冷えた身体に熱々のラメンは格別じゃないか。食べない理由があるのかね?」


 レンは、ポリポリと頭を掻いてから言った。


「……ま、いいけどよ。今夜はもう、新しい客もこないだろうしな」




 カザンは、咳払いをしてから言う。


「では……これよりカザンが、全てをお話しいたします。事の起こりは二十五年前。剣の頭首のサイデンが、『三つの神器』を手中に収め、神になろうと目論んだのが始まりです」


 テンザンが、苦痛に耐えるような顔で呻いた。


「拙者は、(いま)だに信じられぬ。サイデン様がそのような邪悪であったとは……!」


「ですが、それが真実です。サイデンは、非常に狡猾(こうかつ)な男だったようですね。当時の関係者は、誰も陰謀に気づいていなかったのですから……ただ一人、サラお姉様だけが偶然サイデンの真意に気づき、鏡と玉の頭首様を彼の凶行から守りました。そして激闘の末に右腕を失う傷を負いながらも、見事サイデンを討ち取られたのです」


 私はカザンに言う。


「ならばサラ殿は逆賊どころか、英雄ではないか。それがどうして、テンザンに追われる羽目になったのだ?」


 カザンは、大きく頷いた。


「サラお姉様は、英雄……その通りでございます。しかし、神器を守る頭首の中から反逆者が出たとなれば、ヴァナロの民の心は乱れ、国は荒れ果てることでしょう。ゆえに我々は、敵を『外』に作る必要があったのです」


 サラがため息交じりに言う。


「事件の後、鏡と玉の頭首に頼まれたのよ。異世界人である私が悪役を演じて、サイデンを殺したことにして欲しいって。で、ほとぼりが冷めたら『追手が剣を取り返した』と本物を出す……私は、それを了承した。コピーとは言え、研究のために壊世剣が欲しかったしね。いざとなったら日本に逃げればいいと思ってたから。でも、誤算があった」


 レンが聞き返す。


「誤算……。どんな誤算だ?」


「例え偽物でも壊世剣を手にしたことで、私は次元の狭間のプログラムである『機械仕掛けの神』に、危険分子とみなされた。簡単に言うと、『次元を渡る資格』を失ってしまったの」


 レンは目を丸くする。


「サラが日本に帰れなくなったのは、そのタイミングかよ!」


 カザンはテンザンを見つめ、静かな声で言う。


「お姉様は悪役を演じるにあたり、条件をひとつ出しました。それはテンザンお爺様、あなたの責を一切問わないことです。サイデンの裏切りについて、最側近のお爺様の(とが)(まぬが)れませんからね」


 テンザンが(うつむ)いた。


「どんな事でも望めただろうに、拙者のために……か」


「はい。鏡と玉の頭首様たちは、その条件を受諾(じゅだく)しました。お爺様は『剣鬼テンザン』と呼ばれるほど強く、人望も厚かった。国に残ればサイデンの後を継いで、新たな剣の頭首になられていたことでしょう」


 テンザンは、ギリギリと歯を食いしばる。


「ところが拙者は、サラを追ってヴァナロを出てしまった。そして友を、救国の英雄を(あだ)と追い、挙句の果てに斬ってしまった……呆れたうつけ者よ!」


 そう叫ぶとテンザンは這いつくばり、地面に頭をガツンと打ちつけた。


「サラっ! 謝って済む事ではないとわかっておる……死ねと言うなら、今すぐこの場で腹を切ろう。ヴァナロに戻るなと言えば、この身が朽ちるまで世界をさ迷おう。あるいはお主のために働けと言うならば、命を賭して忠義を尽くす!」


 サラは、優しくテンザンの肩を起こす。


「ねえ。やめて、テンザン……私の方こそあなたを信じて、全てを話してからヴァナロを離れるべきだったのよ。私を追っていたのだって、最初は話を聞きたかっただけでしょう? でも私の足跡(そくせき)は、どんどんヴァナロから遠ざかる……辛くて長い旅の間に疑惑は怒りに、やがて憎しみへと変わったのね」


「サラ……すまぬ。すまないっ!」


「もう、いいの。それより、あなたと友達に戻りたい! 私の望みはそれだけよ」


 サラはテンザンを、思いっきりギュッと抱きしめた。無償の愛を感じる抱擁(ほうよう)である。

 カザンがしみじみと言う。


「お爺様は昔から、直情的な性格をしていたとお聞きしました。仲間のことになると頭に血が上りやすく、そそっかしく突っ走る。ゆえに(ひい)お爺様に、『常に明鏡止水を心がけよ!』と、事あるごとに厳しく言われていたそうです。また失言も多かったため、必要な事以外は口を閉ざすよう(しつけ)られていたとか……」


 私は驚いてテンザンに言う。


「テンザン! 君が無口だったのは、そんな理由だったのか!?」


 彼は苦虫を嚙み潰したような顔になり、わずかに頬を染めてそっぽを向いた。

次回……『ラメン』の繋いだ人の縁

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― 新着の感想 ―
[一言] >そうだろ!うまいだろ これが手前味噌という奴か……
[一言] 収まる所に収まりそうで良かった…… やっぱりうまいもんは笑顔で食いたいよね!
[気になる点] しかし、醤油はあって味噌はないとか、味噌捨ててるのかな。それとも別の方法で醤油だけ作ってるのかな。
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