栄光の『ミソ』!
レンがカウンターの向こうで、スープを温めてメンを茹で、トッピングを乗せてラメンを完成させる。
彼は我々の前に熱々の湯気を上げるドンブリを置いて、腕組み顎上げポーズで言った。
「味噌には唐辛子を加えた辛味噌ラーメンや、野菜炒めを山盛り乗せた味噌タンメン、甲殻類系スープのエビ味噌に、ラードの層が特徴的で生姜やニンニクを強烈に効かせた純すみ系、中華スパイスに芝麻醤と甜面醤を使った担々麺なんかがあるが……今回はオーソドックスな札幌ラーメンである、バターとコーンをトッピングした味噌ラーメンを作ったぜ。さあ、食ってくれ!」
少し離れた席にいる、テンザンとサラが気になるが……すぐにどうこうはならないだろう。
ならば、目の前のラメンである!
我々はワリバシを手に取り、パチンと割った。
ドンブリを覗くと白土色したスープが満ちていて、その下にはよく縮れた太いメンがわずかに透ける。
縁にはレンゲが伏せて添えられ、湯気と共に植物性の香ばしさ、甘くて脂っぽい食欲を刺激する匂いが猛烈に漂ってくる。
トッピングはチャーシュ、ヤクミ、メンマの他に、たっぷりのモヤシとコーン。そして、四角く切られたバターだった。
ほほう……これが『ミソラメン』かっ!
コーンの鮮やかな黄色とヤクミの若草色が、薄いセピアに美しく映えて、まるで真夏に咲くヒマワリのように元気が出る色使いだな。
具材の上の幾何学的な四角いバターが、ラメンの熱でわずかに溶け出し、角の部分がトロリと崩れた。スープにも油が大量に浮いており、かなりコッテリしてそうだ……。
メンを持ち上げ、ズズゥっと啜りこむ。
すると溶けたバターの膜がしっかりメンに絡みつき、口に入れるとミルキーな風味がふんわり広がって、それを追っかけるように濃厚なコクと『ミソ』の味がやってくる!
塩分濃度はかなり高めだが、円熟したまろやかなしょっぱさだ……じっくり発酵した食品特有の、強烈な旨味を舌に感じるぞ。
ベースはトンコツ。個性的なミソの味を、分厚いボディがガッチリと下支えする。
生の時はややキツく感じた発酵臭も、スープになるとまったりとして、蠱惑的に人を惹きつけて……。
飲み込んだ後は動物性の脂とミソの塩分が口に残り、生姜の辛味がじわじわっと広がった。
見るからに油分が多いし、バターが合わさるからもっとギトギトしてるかと思ったが、思ったよりしつこくなくて、食べやすい!
プリプリの『タカスイメン』も、スープのインパクトに負けていない。噛みしめると心地よい抵抗感で、ほどよい所でむっちりプツンと切れて、気持ちいい。
焦げを感じるミソの風味に、バターのクリーミーさ、ラード由来の微かな甘みが加わって、そこにトンコツのエキスがプラスされ、えもいわれぬ複雑なハーモニーを生み出している……いや、ホントにウマいぞ、これはっ!?
重奏的でありながら、驚くほど一体感がある味だ。
ミソを初めて舐めた時から、これでスープを作ったら美味しそうだなと思っていたが、想像をはるかに超えたウマさである!
『ゲキカラケイ』の時は辛さが先に立ち、その味わいに焦点を当てられなかったが、ショーユともシオとも、トンコツともカレーとも全然違う。
特に、この丸みを帯びた不思議なしょっぱさは、クセになってしまいそうだ……今まで、脇役に徹する姿しか見てこなかったが、これが『ミソ』本来の力なのか……?
素のままの姿は泥土のように醜くて、匂いも良いとは決して言えない。
例えるならば、劇場の下働きである。
皆から雑用を押し付けられ、ボロボロのドレスを着て、半人前扱いされていた。
必死で練習しても実力を認められることなく、見た目だけで敬遠されていたのだ。
だが、しかし……なんということだろう!?
レンという劇作家の手によって、ミソは凛々しく生まれ変わった。
今、主役に据えられたミソは、眩く光り輝いている。
深紅のカーテンが開かれた舞台で、声を張り上げ、踊り、歌う。
皆を率いて、大役を見事に演じ、素敵なラメンを作り上げた。
ミソは主役になってこそ、本来の魅力を発揮する食材だったのだ!
「ああ、ミソよ……っ! こんなにも立派に成長して、私は嬉しいぞ……!」
目の端に浮かぶ涙を、そっと拭う。
さて。己の妄想に酔ってつい泣いてしまったが、そろそろ具材を食べるとするか!
ミソ「あら……? 楽屋の前に、紫のワリバシと手紙が……!」
『すばらしい舞台でした。あなたの努力は、いずれむくわれると思っておりました。これからも頑張ってください、応援しています。あなたのファンより』
ミソ「紫のハシのひと……いつも、私をはげましてくれる。あなたは一体、だれなのかしら?」
ブクマ・評価で、陰ながら応援。
あなたも『紫のハシのひと』になってみませんか?




