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【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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栄光の『ミソ』!

 レンがカウンターの向こうで、スープを温めてメンを茹で、トッピングを乗せてラメンを完成させる。

 彼は我々の前に熱々の湯気を上げるドンブリを置いて、腕組み顎上げポーズで言った。


「味噌には唐辛子を加えた辛味噌ラーメンや、野菜炒めを山盛り乗せた味噌タンメン、甲殻類(こうかくるい)系スープのエビ味噌に、ラードの層が特徴的で生姜やニンニクを強烈に効かせた純すみ系、中華スパイスに芝麻醤(チーマージャン)甜面醤(テンメンジャン)を使った担々麺なんかがあるが……今回はオーソドックスな札幌ラーメンである、バターとコーンをトッピングした味噌ラーメンを作ったぜ。さあ、食ってくれ!」


 少し離れた席にいる、テンザンとサラが気になるが……すぐにどうこうはならないだろう。

 ならば、目の前のラメンである!

 我々はワリバシを手に取り、パチンと割った。


 ドンブリを覗くと白土(しろつち)色したスープが満ちていて、その下にはよく(ちぢ)れた太いメンがわずかに()ける。

 (ふち)にはレンゲが()せて()えられ、湯気と共に植物性の香ばしさ、甘くて脂っぽい食欲を刺激する匂いが猛烈に漂ってくる。

 トッピングはチャーシュ、ヤクミ、メンマの他に、たっぷりのモヤシとコーン。そして、四角く切られたバターだった。


 ほほう……これが『ミソラメン』かっ!

 コーンの鮮やかな黄色とヤクミの若草色が、薄いセピアに美しく映えて、まるで真夏に咲くヒマワリのように元気が出る色使いだな。

 具材の上の幾何学(きかがく)的な四角いバターが、ラメンの熱でわずかに溶け出し、角の部分がトロリと崩れた。スープにも油が大量に浮いており、かなりコッテリしてそうだ……。


 メンを持ち上げ、ズズゥっと啜りこむ。

 すると溶けたバターの(まく)がしっかりメンに絡みつき、口に入れるとミルキーな風味がふんわり広がって、それを追っかけるように濃厚なコクと『ミソ』の味がやってくる!


 塩分濃度はかなり高めだが、円熟したまろやかなしょっぱさだ……じっくり発酵した食品特有の、強烈な旨味を舌に感じるぞ。

 ベースはトンコツ。個性的なミソの味を、分厚いボディがガッチリと下支えする。

 生の時はややキツく感じた発酵臭も、スープになるとまったりとして、蠱惑(こわく)的に人を()きつけて……。

 飲み込んだ後は動物性の脂とミソの塩分が口に残り、生姜(しょうが)の辛味がじわじわっと広がった。

 見るからに油分が多いし、バターが合わさるからもっとギトギトしてるかと思ったが、思ったよりしつこくなくて、食べやすい!


 プリプリの『タカスイメン』も、スープのインパクトに負けていない。噛みしめると心地よい抵抗感で、ほどよい所でむっちりプツンと切れて、気持ちいい。

 焦げを感じるミソの風味に、バターのクリーミーさ、ラード由来の(かす)かな甘みが加わって、そこにトンコツのエキスがプラスされ、えもいわれぬ複雑なハーモニーを生み出している……いや、ホントにウマいぞ、これはっ!?


 重奏(じゅうそう)的でありながら、驚くほど一体感がある味だ。

 ミソを初めて舐めた時から、これでスープを作ったら美味しそうだなと思っていたが、想像をはるかに超えたウマさである!

 『ゲキカラケイ』の時は辛さが先に立ち、その味わいに焦点を当てられなかったが、ショーユともシオとも、トンコツともカレーとも全然違う。

 特に、この丸みを帯びた不思議なしょっぱさは、クセになってしまいそうだ……今まで、脇役に徹する姿しか見てこなかったが、これが『ミソ』本来の力なのか……?


 素のままの姿は泥土(でいど)のように(みにく)くて、匂いも良いとは決して言えない。

 例えるならば、劇場の下働きである。

 皆から雑用を押し付けられ、ボロボロのドレスを着て、半人前扱いされていた。

 必死で練習しても実力を認められることなく、見た目だけで敬遠されていたのだ。

 だが、しかし……なんということだろう!?


 レンという劇作家の手によって、ミソは凛々(りり)しく生まれ変わった。

 今、主役に()えられたミソは、(まばゆ)く光り輝いている。

 深紅のカーテンが開かれた舞台で、声を張り上げ、踊り、歌う。

 皆を(ひき)いて、大役を見事に演じ、素敵なラメンを作り上げた。

 ミソは主役になってこそ、本来の魅力を発揮する食材だったのだ!


「ああ、ミソよ……っ! こんなにも立派に成長して、私は嬉しいぞ……!」


 目の端に浮かぶ涙を、そっと拭う。

 さて。己の妄想に酔ってつい泣いてしまったが、そろそろ具材を食べるとするか!

ミソ「あら……? 楽屋の前に、紫のワリバシと手紙が……!」


『すばらしい舞台でした。あなたの努力は、いずれむくわれると思っておりました。これからも頑張ってください、応援しています。あなたのファンより』


ミソ「紫のハシのひと……いつも、私をはげましてくれる。あなたは一体、だれなのかしら?」


ブクマ・評価で、陰ながら応援。

あなたも『紫のハシのひと』になってみませんか?

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― 新着の感想 ―
[一言] ソリマチすこ
[一言] 味噌といわれると、どちらかというと野菜炒めの方で過ごしてきたので、コーンバターに出会った特はなんじゃこりゃって思ってたわ。
[一言] カップ麺の味噌味は「ホームラン軒」か「凄麺 仙台辛味噌」あたりがお気に入り。チッ、どっちも近くのコンビニに無えじゃねえか… ここの読者、これを読む→メシテロくらう→カップ麺喰うの流れ多過ぎ…
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