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【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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熱い、冷たい、ヌルい『ラメン』

 

 私は美味いラメンの条件のひとつに、『熱々であること』が挙げられると思っている。


 なにも『火傷するほど熱くしろ』ってわけじゃない。

 しかし、熱ければ熱いほど美味いと思う。

 ラメンのスープは、動物性の脂に満ちている。冷めたスープは脂がサラリと綺麗な液体になっておらず、メンもほぐれず口当たりがグチャグチャになる。

 ヌルいスープに、ムラのあるメン……そんな組み合わせが、美味いわけないだろう?

 だからこそ、ラメンには口の中を火傷せずにメンを(すす)れる、ギリギリの熱さが必要なのだ。


 熱いスープに、熱湯で茹でたコシのあるメンを沈めてこそ、ラメンは美味いっ!

 フウフウと息を吹きかけて、鼻水を垂らし、汗を流しながら食べるのがラメンの醍醐味(だいごみ)だ!


 私はずっと、そう信じ続けてきた。

 なのに、ツケメンはヌルくても……いや、ヌルいからこそ、美味いのだ。

 これは、かなりのカルチャーショックである。

 ラメンに対する認識を、根本から(くつが)されたといっても過言ではなかった。


 もっともツケメンはヌルいと言っても、ただ均一にヌルいのではない。

 メンはひんやり冷えていて、スープは真っ白な湯気が逆巻(さかま)くほど熱い!

 両者を同時に口の中に入れて咀嚼(そしゃく)すると、アツアツとヒヤヒヤが合体し、最終的にヌルくなる。

 その過程で急激な温度の変化が生まれ、複雑な風味を作り出す。なんとも斬新で面白い!

 メンの『ツケジル』への浸し方で、味の濃さを自由に調節できるのも良い仕組みだ。

 それに食べ進めるうちに気づいたが、ツケメンはメンの量が普通のラメンより多く、1.5倍はあるようだ。

 この大ボリュームのメンを、熱さを気にせず力強くズルズルと啜れるのも、『ヌルい』という特徴のおかげである。猫舌の客でも、火傷を気にせず食べられるな。


 とは言え……メリットばかりではない。レンが最初に「寒い夜には向かないラメン」と言った通り、頭上で煌々(こうこう)と輝く『カーボンヒーター』なくしては、我々はきっと、寒空(さむぞら)の下で凍えてしまっていたに違いない。

 おそらく、ツケメンは暖房の効いた室内や、夏場に食べるのに向いてるラメンなのだ。

 しっかし、ヌルいラメンとはなぁ……そのうち、キンキンに冷えたラメンまで出てきたりして……いやいや、あはは。さすがにそれはないか!


 ……ふと、私は食べる手を止める。

 あ、なるほど。なんてことだ、ツケメンの欠点を、もうひとつ見つけてしまったぞ!

 それはツケメンのスープは、普通のラメンより冷めるのが早いという事だ。

 普通のラメンなら、スープを飲み干すまで美味しく楽しめるんだが……。


 先ほどまで熱々だったスープが、冷えたメンによってすっかりヌルまり、悪い所ばかりが目に付くようになってしまっている。

 塩気が強すぎるし、冷えた脂もギトギトしつこく、クドくて喉に(から)みつくようだ。

 冷たいメンを沈める以上は、スープが冷めてしまうのは避けられない運命である。

 例えるならば炎と氷、相反(あいはん)する二つをくっつけるようなものだから、それだけ消耗(しょうもう)が激しいのも仕方あるまい。

 つまりはこいつは、『美味しさの持続力(じぞくりょく)』がないラメンなのだ。


 まだ、メンが3分の1ほど残っているのに……。

 作ってくれたレンに悪いし、こんなに残すのも気が引ける。

 こうなると、1.5倍のメンの量が恨めしい!


 私はガッカリしながら、『美味しくなくなったツケメン』を食べようとする。

 するとレンが、それを制止した。


「リンスィールさん、スープが冷めちまったんだろ? 焼き石を入れてやるよ!」


「なに、『ヤキイシ』だと……?」


 レンは私の小ドンブリを回収すると、鉄製のレンゲに乗せた『真っ黒な石』をツケジルに落とした。

 ……次の瞬間っ!


 ドジュウゥゥーッ! ボコボコボコボコッ!


 な、なんとスープが()(たぎ)り、大量の湯気が湧いて出たではないか!?


「おおおっ! ヤキイシ……つまりは、『()』いた『(いし)』というわけかっ! 驚いたぞっ! 冷めたスープに(あぶ)った石を沈める事で、再び熱を取り戻すのだな!?」


「その通り。熔岩石(ようがんせき)を四人分、火にくべておいたのさ」


 レンは穴あきレンゲでヤキイシを回収し、私へと小ドンブリを返却する。

 スープは熱々で、また美味しく食べられるようになっていた。


 『マタオマケイ』は超濃厚ではあるが、味の組み合わせとしては動物系と魚介の出汁で、いわば『ラメンの基本』を踏襲(とうしゅう)している。

 誰にでもわかりやすい味付けで、なおかつ派手で特徴的だ。

 『トマトラメン』ほど革新的(かくしんてき)でないし、『ゲキカラケイ』ほど逸脱(いつだつ)もしていない。

 だけど、いつまでもハリのある極太メンをヌル~くいただくこの感覚は、他のラメンには真似できない魅力があるな。

 私は食欲を取り戻し、あっという間にメンと具を食べ尽くしてしまう。


 だが、小ドンブリにはまだ、使い切れなかったスープが残っている……。

 さて、このスープ、どうしよう?

 そのまま味わうには明らかに濃すぎるが、美味(びみ)なるスープを残すのはもったいない!

 一応、試しに口をつけてみる……が、うぐぅっ。

 ダ、ダメだな、これは。

 あまりにもドギツくて、とても飲めたもんじゃない!

 と、またもやレンが手を差し出した。


「リンスィールさん。割りスープを入れてやるから、丼を寄こしなよ」


「『ワリスープ』……ふむ。よくわからんが、まだ仕掛けがあるのかね?」


 私はレンに、小ドンブリを手渡す。

 するとレンは、オタマで小ドンブリにわずかに色づいたスープを注ぎ入れる。

 返されたドンブリからはホカホカと湯気が上がり、冷えた脂が溶けて琥珀(こはく)色の表面に浮かび、キラキラと美しく光っていた。


「ほほう。これは、これは……っ!」


 なんとも(かぐわ)しい香りだ。

 私は期待に胸を(ふく)らませながら、小ドンブリに口を付ける。


 一口、二口と味わってみると……おお。

 『ツケジル』の時はクドくて濃厚に凝縮(ぎょうしゅく)されたスープだったが、加えられた『ワリスープ』のおかげで適度に薄まり、ちょうどよい濃さになっている。

 普通のラメンのスープよりも味が薄めで、そのまま飲んでもしょっぱくない。

 先ほどまでの荒々しさは()りを(ひそ)め、丸みのある旨味がふんわり広がる。

 鼻腔(びこう)へとほどよく抜ける、魚介の風味がたまらない……これくらいの塩加減だと、生姜(しょうが)の香りや豚骨のまろやかさも際立つな。

 タマネギの欠片(かけら)のシャキシャキ感も、生っぽさがなくなって角が取れて丸くなり、スープの具として食べやすい。

 温度もちょうどいい。熱々というほどでもなく、ヌルいというほとでもなく、ゴクゴクと味わって飲める熱さである。


 うーむ。温と冷、二種類の『熱』を操るツケメンは、なんと『第三の熱さ』で完結するというわけかっ!

 私はググーっと小ドンブリを飲み干して、美味しくツケメンを食べ終わったのであった。


次のラーメンは、なんにしましょうかね……?

執筆前にそのラーメンを食べに行く形式なので、お店に行けない時は更新に時間かかってます。

サボってるわけじゃないです!

最近は暑いし、ミョウガをたっぷり入れたソーメンとか食べたいなぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ラーメンといいつつ、うどん出したら駄目かな?異世界だから騙されてくれそう(キツネうどんとか喜びそう) 「キツネラーメンおまちぃ」
[一言] >キンキンに冷えたラメンまで出てきたりして……いやいや、あはは。さすがにそれはないか 「冷やし中華始めました」 「ファッ!?」
[良い点] お、割りスープで締めか。割りスープ+ご飯+卵とか最高の締めだと思うんだ。あといつも関西風?(全部つける)で食べるから、最後の方で汁がなくなって麺だけすすってるな…サービスで追加してくれると…
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