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【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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かたなしの『ラメン』


 ついに、聖誕祭当日である!


 アグラリエル様による開会の挨拶で始まったお祭りは、午前の出し物を(とどこお)りなく消化する。

 そして、正午になった。

 里の大広場には、所せましとエルフたちが集まっている。

 女王様が、『聖誕祭のための特別な料理が、広場でみんなに振る舞われる』と周知していたからだ。


 広場の中央には、アグラリエル様の曾祖父であり、この里を作った聖エルフ、エルサリオン様の石像が建つ。

 その前にはいくつかの椅子とテーブルに、女王が部下に命じて作らせた『ヤタイ』が設置されていた。

 急造の白木作りで車輪もなく、形だけを真似た物だが、よくできていると思う……すでに(かまど)にはグラグラとお湯が沸き、スープもいい具合に温まっている。

 そして私の手元には、大量のオムレツ用の卵液とフライパンが3つ。

 今日の私は、レンのラメン作りの補助役なのである!


 レンがヤタイに、『ラーメン太陽』と染め抜かれた赤い布を掛けた。

 すると背後で、ザワザワと声がし始める。


「女王様が言うには、広場で特別料理が食べられるって話だったけど……」


「なんだよ、あの人間とヘンテコな木製の店は? まさか、聖誕祭の特別な料理をヒューマン族が作るのか!?」


「すごい筋肉だわ。料理人じゃなくって、戦士に見えるわね」


「そういえばあいつ、午前の部で会場の貴賓席に座っていたな」


「どうして、腕組みして顎を上げてるんだろう? なんだか、生意気なポーズだなぁ!」


「頭の白い布は、一体なんのつもりかしら。目を半分覆ってるけど、ちゃんと前が見えているの?」


「隣にいるエルフは誰だ?」


「あれは、リンスィールだよ。食通とか名乗って、世界中の美味い物を食べまくってるらしい」


「なんだそりゃあ!? 食べ物なんて、保存がきいて簡単に作れてすぐ食べられるのが一番だろ」


「だよなぁ、まったくだぜ! せっかく来たけど、よそ者が作るんじゃもういいや。別の所に行こう!」


 くっ……あいつら、勝手なことばかり言いおって!

 野次馬の声に我慢できずに、私は叫んだ。


「コラァー、貴様らっ! 私はともかく、レンに対して『腕組み顎上げが生意気なポーズ』だの『ちゃんと前が見えてるのか』だの、失礼なことを言うんじゃなーい!」


 両手を振り上げて私が怒ると、レンが肩にポンと手を置く。


「いいよ、リンスィールさん。言わせておけばいい」


「し、しかしだな、レン……っ!」


「大丈夫だって。こういう時は、声を上げたら逆効果なんだよ。とにかく一人目のお客さんが来るまで、気楽に待とうぜ!」


 だが、しばらく経ってもエルフたちは遠巻きに見ているだけで、誰一人として近寄ってこない。

 指をさしてヒソヒソと話したり、(いぶか)し気な表情を浮かべたり、文句を言ったりしているだけだ。

 私はスープの入った大鍋を見つめ、悔しさで歯を食いしばった。


「う……くそう! バカだ……こいつら、バカの集まりだ! このラメンは女王様の想いと、レンの努力によって作られた物なんだぞ……っ!」


 女王様がエルフの行く末を(うれ)いて、頭を下げて異世界人であるレンを呼んだ。

 そのレンが女王様の願いを叶えようと、里を歩いて食材を探し回り、懸命に考え抜いてようやくゴトーチラメンを完成させた。

 レンのラメンは、素晴らしい。食べれば、絶対にわかるはずだ!

 あと、ほんの数歩を踏み出せば……ヤタイの椅子に座りさえすれば……っ!

 最高の美食が味わえるというのに……なんと、愚かな連中だろう!?


 と、その時だ。

 広場の後ろから人垣が、どよめきと共に割れていく。

 レンがニヤリと笑った。


「……来たか」


 人々の間から、二人の人影がヤタイに走り寄る。

 その姿を見て、思わず叫んだ。


「アグラリエル様、ララノア殿!?」


 女王は、小さく息を切らしながら声を上げる。


「ああ、よかった! どうやら、わたくしが一番乗りのようですねっ!」


 ララノア殿が、心配そうに言う。


「女王様。そのように急がれては、転んで怪我をしてしまいます」


「だってララノア、あなたはいいですよ! 昨日、試作品を食べたのでしょう?」


「はい、食べました。レンのラメンは、とっても美味しかったです。いやー、美味しかった、ほんと美味しかったなー。手料理もカクテルも最高でした!」


 女王にレンのラメンの自慢話を散々聞かされたララノア殿は、一昨日の晩の仕返しとばかりに、そう得意気に言ってのけた。

 女王様はプクーっと頬を膨らませてララノア殿を睨んでから、レンへとにこやかに笑いかける。


「レン……ラメンをひとつ、お願いします」


「お? ヤサイマシマシニンニクアブラじゃなくていいのかい?」


 その言葉に、女王は苦笑する。


「そうしたいのは、山々なんですけどね。今日は、里のみんなの目もあります。欲張りだと思われたくありませんし、自重いたしますわ」


「よっしゃ、ラーメンいっちょう! アグラリエル、椅子に座って待っててくれ!」


 腰かける女王様を横目に、私はレンに尋ねる。


「ところで、レン。メンはどうするのかね?」


「ああ、大丈夫。今、作るよ」


 我々のいるヤタイの横には、木製の台が置いてある。

 幅2メートル、奥行き1メートルほどの大きな天板の上には、クリーム色のメン生地が置いてあった。

 人の頭より二回りは大きなそれは、レンが今日の朝に仕込んだものだ。

 しかし、肝心の『型』がない。

 型がなければ、メンは作れない。


 メン作りは、小麦粉に卵と灰の上澄み液に若干の塩を混ぜ合わせ、よく練って生地を作ることから始まる。

 半日ほど寝かせたのちに生地を金属製の筒に入れて、しっかりと圧を掛けてから、蓋を穴の開いた物に取り換えてメンを押し出すのだ。

 ここで力が足りないと、フニャフニャでコシのないメンになる……ニュルニュルと出てくるメンを適切な長さにカットすれば、完成だ。


 どうするのかと思っていたら、レンは無言でスタスタと台へと歩いていき、生地を手に取った。

 ガヤガヤとうるい(ざわ)めきは、まだ収まらない……私がそちらに気を取られた、次の瞬間。


 ズッダァーーーーーン!


 突然、重い物でも落下したような、大きな音が広場に(とどろ)いた。

 驚いて音のした方向を見ると、レンの両手の間でメン生地が、太い蛇のように伸びている。

 広場のエルフたちは目を丸くして、シーンと静まり返る……。

 レンは生地を鞭のようにしならせ、台へと叩きつけた。


 ヒュン、スパアーーン! ドパァーーーーン! ダァーーーーン!


 何度も何度も、叩きつける。

 大きな音が鳴り響き、生地はどんどん長く伸びていく!

 それはまるで、巨大な白蛇がのたうち(おど)るようだった!


 レンは長く伸びた生地を二つに折り、クルクルと()じる。

 2匹の蛇が絡み合い、互いに身を寄せる。

 そして両者は力強く打ち付けられて、境界がなくなりひとつになる。

 また延ばされ、折られて(よじ)られ……創造と破壊、激突と合体が、レンの手により交互に行われていく。


 アグラリエル様も、広場にいるエルフも、みな驚愕と共に固唾を飲んで見守っていた。

 私もまた同様に、彼の手元から目が離せない……。


 スッパァアーーーーーンッ!


 レンは、ひときわ大きく生地をしならせると、生地を台に寝かせて太い筒状にまとめ、灰の上澄み液をハケで塗って粉を振り、いくつかにちぎった。

 そのうちひとつを両手で広げるように持つと、今度は台に叩きつけずに空中で生地を振り回す。


 ヒュ……ヒュッ、ヒュオン……! ヒュォオンッ!


 風を切り、上下に大きく、頭から足元まで生地が伸びる!

 あと一歩で地面につくというところで、レンは生地を折り返す。

 先ほど振った粉の効果だろう、今度は生地が互いにくっつくこともなく、独立したままだ。

 そしてまた粉を振り、大きく振って折り返す。

 1本が2本に、2本が4本に、4本が8本に、8本が16本、32本、64本、128本、256本……折り返すたびに細く、倍々に数が増えていく!

 もう生地は、立派なメンになっている。


 す、すごい……あっという間の出来事だったな。


 ふと私は、最初の大きな音の時、後ろに控えたララノア殿がまったく動かなかったことに気づいた。

 ……妙だな。護衛役の伯母上ならば、とりあえず剣に手を伸ばしそうなものだが……?


 あっ、そうか! 昨日、ララノア殿が言っていたのはこの事だったのか!

 ララノア殿は一度、レンの『メン作り』を目にしていたに違いない。


 レンは長く伸びたメンを、台の上でシュルシュルと波打つように踊らせて流れを整えると、包丁で端をカットした。

 できあがったメンは一本一本が長く、2メートル近くあるだろう。

 なるほど、このように作られたメンだから、啜り切れないほど長かったわけか。

 レンが親指を立てて白い歯を見せ、私に笑いかける。


「麺の茹で上げまで、ジャスト1分! リンスィールさん、オムレツ頼むぜ!」


最初にバンバン打ち付けるのは、固まった生地を柔らかくするため。

中国では、蓬蓬草という草を燃やした蓬灰ペンフイという灰から天然かん水作り、それで拉麺を作ってるんだって……一清(澄んだスープ)二白(大根)三紅(ラー油)四緑(香菜)五黄(麺)っていうらしい。

一富士二鷹三茄子みたいね。


ブクマ2000件突破、ありがとうございます!

嬉しいなー。

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― 新着の感想 ―
[一言] 担々麵が好きです。 四川飯店の陳健民さんの担々麵風ラーメンではなく。 以前本格四川料理をうたっている店で注文したら陳式担々麵でした。他店のスペシャリテを出すなといいたい。あと汁なしって何?表…
[良い点] やっぱり異世界ではパスタみたいに作成してたんだな。薄く伸ばすってのが思いつかないか。 [一言] トマトラーメンで思いついたけど、醤油ベースがあるならサラダラーメンでも良いよな。
[一言] 製麺機での圧延しか知らない人間に、手打のデモンストレーションかw その流れだと、そのうち刀削麺とか出てきそう。
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