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【コミカライズ5月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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食の墓場の『ラメン』とは?

 朝食を終えて里を一通り案内してから、レンを連れて市場へとやってきた。

 里の人口は80人余りだが、明後日の聖誕祭に向けて里帰りしているものも多く、今日は市場だけで100人以上いるだろう。


 昼食に露店で買った料理は、蒸し野菜をパンに挟んだサンドイッチと、羊肉の串焼きである。

 サンドイッチにはソースが塗っておらず、串焼きも臭みがあって塩気が足りない……どちらも冷めてパサパサしてて、うんざりするような味付けだった。


 私が商店で買い求めたニンジンを、レンが生でボリボリと齧ってから言う。


「うまいっ! 新鮮で世話が行き届いてる……わっかんねえなぁ。素材は良い物がそろってるのに、どうして、ここの食事はあんなに不味いんだ?」


 私は、自分の過去を思い返しながら答える。


「私も幼(おさな)い頃は、畑の野菜を捥(も)いで食べ、『美味い』と感動していたと思う。しかし、エルフの里では日常の食事がアレだからな。ウマいマズいという感覚が、徐々にマヒしてくるのだよ」


「ふうん。そもそも料理の味が薄いのは、なぜなんだ?」


「そうだな……レン。市場を見回してごらん。エルフ以外の種族が、ほとんどいないだろう?」


 そう。ホビットや獣人、竜人の姿も何人か見えるが、通りを行き交うのはほぼエルフである。

 その中でも、異世界人であるレンの姿は特に目立つらしく、さっきから子供のエルフにまとわりつかれたり、ちょっかいを掛けられたりしている。

 私は彼らを、優しく追い払いながら言う。


「十六年に一度の聖誕祭という大イベントにも関わらず、他種族がほとんどいない。エルフの里は、『美しき食の墓場』……いくら景色が良くても、マズい食事ばかりで価値ある特産品もない町に、旅人は訪(おとず)れないのだよ」


 私は、道に品物を広げるエルフの行商人たちを指差して言う。


「だから行商人も、この里は避ける。いたとしても、里帰りついでのエルフばかり。よってスパイス類は貴重だし、みんなケチって使う習慣がついている」


 レンは呆れたように言った。


「で、料理の味はますます薄く、不味くなり、旅人は余計に寄り付かなくなるってわけかよ……完全に悪循環じゃねえかっ!」


「加えて、里の大半は戦争経験者だ。物資が満足に手に入らない時代を過ごしたこともあって、食事とは金をかけたり手間をかけて楽しむものではなく、『栄養を補給する行為』と考える者が多いのだろう」


 レンがこちらをチラチラと覗く、エルフの子供たちを見てため息混じりに言う。


「そういう大人に育てられた子供は、味に無頓着で雑な料理を作るようになっちまうぞ。どっかでその連鎖、断ち切らねえとよ……!」


「ああ。悲しいことに私も昔は、それを不思議に思ってなかったからな」


 レンは商店のひとつに歩み寄り、ザルに入ったキノコを手に取った。


「シメジとマッシュルームに、こっちはトリュフ……やっぱ、シイタケはなしか。なあ、黄金のメンマ亭にあった、オゴリタケとかいうのはないのか?」


「あれは、もっと南の森で取れるものだ。エルフの森には自生してない」


「そっか、残念だな。あれなら、いい味が出たはずなんだが……」


 私は、通りの反対側を指さす。


「あそこは肉屋。売っているのは、里で育てた羊と鶏だよ」


「食材に鶏があるのか、そりゃいい!」


「うむ。もっとも肉にされるのは、卵を産まなくなった老鶏ばかりだ」


「スープにするには、年寄りのが都合いいぜ。肉は硬いが、旨味はたっぷり取れる!」


 私はさらに、市場の一角を指さした。

 そこには巨大なイノシシが、部位ごとに切り分けられて陳列されてる。


「森で狩ったイノシシや鹿も、たまに食卓に上がるぞ。猪肉(いのししにく)ならば豚と似てるし、美味いチャーシュができるんじゃないか? 骨からトンコツ・スープも作れるだろう」


「ああ。イノシシなら確かに、豚の代用品になりそうだ。けどなぁ……」


 レンは腕を組んで、黙り込む。

 私は、市場の西側を指さした。


「あちらには果物が売っている。見て行くかね?」


「果物か……まあ、そうだな。一応、目を通すか」


  レンと一緒に、店先を適当に流し見する。


「この地にはユグドラシルの加護があって、果物がたわわに実る。ザクロにイチジク、桃にオレンジ、リンゴ、木苺、チェリー、ブドウ……オレンジの皮は、ユズと似た使い方ができるんじゃないか?」


「オレンジねえ。うーん……ピンと来ねえなぁ」


 先ほどからレンは、浮かない顔で考え込んでいる。

 私は、レンに問いかけた。


「なあ、レン。君は何を悩んでいるのだ? 私にも教えてくれないか?」


 レンは顔を上げて、指を3本立てる。


「ん? ああ……主な旨味には、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸がある。ラーメンのスープってのは、その三種類をバランス良く合わせることで、複雑なコクを作り出すんだ」


「ほう! そのうち、どれが足りないのだ?」


「単にラーメンを作るだけなら、見せてもらった食材でも十分に可能だよ。……だけどラーメンの主役であるグルタミン酸が、ちと弱い」


「グルタミン酸……確かカチョーやミソ、コンブに多く含まれてる成分だったな?」


 レンが頷く。


「そうだ。鶏ガラや野菜からもグルタミン酸は出るんだが、ちょっと少なすぎる。今のままじゃ、旨味の薄い中途半端なタンメンくらいしかできねえぜ」


「……『タンメン』? なんだね、それは」


「鶏ガラで出汁(だし)を取った塩味のスープに、たっぷりのザク切り野菜と豚の細切れ肉を炒めて具にしたラーメンだよ」


 私の喉が、ゴクリと鳴る。


「め、めっちゃくちゃ美味そうじゃないか……っ! それではダメなのかね!?」


 レンは首を振る。


「いいや、ダメってこたねえ。タンメンは、素晴らしいポテンシャルを秘めたラーメンだ。里の料理に近い味付けだし、エルフのみんなも美味いと思うだろう……でもなぁ」


 レンは、頭をガリガリと掻きながら言った。


「うーん……? 多分、アグラリエルが求めてるのは、そういうことじゃねえんだよなぁ。もっと革新的で、みんなが夢中になっちまう……そういう、『インパクトのあるラーメン』が必要なんだ!」


 私は、辺りの店を見渡して言う。


「しかし、市場の食べ物は全部見せたぞ! 聖誕祭は明後日だ……ラメンを試作する時間も必要だし、あまり悩んでる暇はない。里の食材にこだわる限り、完璧を求めるのは無理があるのではないか?」


 レンは私の言葉に、渋々ながらも同意する。


「……リンスィールさんの言う通りだぜ。とりあえず、スープは鶏ガラで行くか。それと麺作りに小麦粉、卵が必要だ。あとはキノコをいくつかと、めぼしい野菜類を買っといてくれ」


「それだけで、いいのかね?」


 レンは、眉間にしわを寄せて頷いた。


「ああ。……正直、まだラーメンの完成形が見えてこないんだ。今夜の晩餐会(ばんさんかい)で何か収穫があるかもしれないし、試作品作りは明日にしよう」



 晩餐会の料理は、それなりにまともな味だった。

 相変わらず薄めの味付けだったし、美味いと感動するほどじゃないが、品数といい見た目といい、一定の水準は超えてたと思う。

 別種族の貴賓(きひん)をもてなす席でもあるわけだし、当然といえば当然か。


 で、私の家へと帰ってきたわけだが……レンはまだ、浮かない顔のままだった。

 椅子に座って考え込む彼に、気遣うようにそっと声を掛ける。


「レン……残念ながら、あまり収穫はなかったようだね?」


「まあな。鹿肉のローストは中々美味かった。リンゴを発酵させた酒もよかったよ。ハチミツのレモンゼリーも甘くてさっぱりしてた。だけど、どれもラーメンのメイン食材を張れるほどじゃねえ」


「では、やはりタンメンか?」


 レンは、やむを得ないと言った風に頷く。


「……だな。タンメンで行くしかねえ。……けどこのままじゃ、旨味が足りねえんだよなぁ……!」


 頭を抱える彼を見て、私も暗澹(あんたん)たる気持ちになる。


「うーん。どうしたものか……もぐもぐ」


 ふとレンが顔を上げて、私の口元を見る。


「……リンスィールさん、なに食ってんだ?」


「ん、これか? ドライフルーツだよ。そこの棚で見つけたんだ。つい、懐かしくてね……レン、君も食べるかい?」


 私は机の上に、袋の中身をザラリと広げる。

 レンは手を伸ばし、口へと放り込みながら言った。


「へえ……! 素朴な甘みが、いい感じだな。イチジク、リンゴ、オレンジ、ブドウ……これ、市場では売ってなかったよな?」


「うむ。誰でも簡単に作れるし、わざわざ店で買うような物ではないからね。果物を薄く切って、風通しの良い場所に干しておけばいい」


「これは……ラズベリーか。洋ナシ、アンズ、ブルーベリー……色んな果物が入ってる」


「料理というほど複雑じゃなく、特別な味付けも必要ない。里では狩りの携帯食や、子供のオヤツに食べられている」


 と、レンの手がピタリと止まる。


「お、おい……リンスィールさん、これって!?」


 つまみ上げられたカラカラに乾く『それ』を見て、私は答える。


「ああ、『それ』かね? 他の果物と比べて、あまり甘くないのが特徴だな。独特の匂いがあって酸っぱいし、子供には嫌われている果実(かじつ)だよ」


 私も子供の頃は避けてたので、ドライフルーツの袋の中が『それ』ばかりになって、叔母上によく怒られたっけ……って、レン?


 思い出に耽(ふけ)っていた私は、レンの真剣な表情に気づく。彼は『それ』を齧(かじ)ると、嬉しそうにニヤニヤ笑った。


「ふ……ふふふ。そうか……こりゃ、果物かよ!? あーっ、俺としたことが迂闊(うかつ)だったぜ! こんな重要な食材を見落とすなんて、俺もまだまだ修行が足りねえッ!」


「……え。レン!?」


 彼は立ち上がると、拳を握りしめて叫んだ。


「やったぜ、リンスィールさん! ……見えたんだよ。極上の……『エルフの里のご当地ラーメン』の姿がよぉ!」


「な、なんだって!? それはめでたいっ! 教えてくれ、レン。一体、どのようなラメンなん――」


 と、その時だ。

 扉がバーンと開かれると、茶トラのカルマン猫を頭に乗せて酒瓶を片手に、顔を真っ赤にしたララノア殿が飛び込んで来る。


 バ、バカな……っ!

 伯母上が、ベロンベロンに酔っ払っていらっしゃるだとーーーっ!?


 私は、慌ててレンの手を引っ張った。


「レン、逃げるんだ! 君だけでも、早くーっ!」

オヤツのひと時。

カラフルで甘いドライフルーツに混じる、あんまり美味しくない『それ』……。

エルフの子供達にとってはきっと、ドロップの缶のハッカ飴のような扱いなのだ。


ブクマ、評価でモチベがメキメキ育っていく!

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― 新着の感想 ―
[一言] 毎回楽しみにさせて頂いてます。 感想下手なんであまりコメントしてませんがw あれ=トマト かな?
[良い点] 薄味の経緯  やっぱ戦争とかあるとおかしくなっちゃうんかね・・・ そこで湧き出る疑問  日本人は何なんだ?w [気になる点] ドライフルーツの何だろう? てっきりアイバルバトの好きなピス…
[一言] トマトかな?単純に最近トマトラーメンの店を見たから思っただけですけども。  単純に鶏メインのインパクトあるラーメンは天下一品の超濃厚スープとか思いつきますけど、アレはスープのその他の材料が…
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